第45話 「遠足」それはお近づき11

ホテルの1階ロビー近くのお土産ショップ、家族連れや同じ学校の生徒達がいる中、俺に向かって手を振る丸メガネをかけた後輩であり先輩の姿が見えた。


「先輩!やっと来た〜。何してたんですか?」

「すまんひな。浴衣の着るの難しくてインターネット大先生に教えてもらってた」


今時浴衣を着る機会なんてないし、普段からオシャレに興味のない俺としては、浴衣は強敵だった。


「なんか、崩れてないですか?先輩動かないで下さいね」


するとひなは俺の前に立ち浴衣を持って丁寧に直してくれた。しかし帯を閉まる時、力が強くてとても苦しかった。


「もうちょい、緩くできない?」

「折角私が綺麗にしたのにまた崩す気ですか?私、怒りますよ」

「すみません。俺が悪かったです」

「分かればいいんです。さぁ!お土産買い漁りますよ!」


ショップに入ると、名産品を使ったお菓子、限定スイーツや限定調味料、ご当地キャラのぬいぐるみや、男の子に大人気剣のキーホルダーまで勢揃いだ。


「先輩は何を買うつもりですか?」

「まぁ、妹が料理するから、調味料とか買うかな」

「え?なんか渋いですね、もしかして大人ですか?」

「残念、ピチピチの16歳と11ヶ月だ。」

「冗談ですよ。調味料はおじいちゃんおばあちゃんとかに渡すと喜びますよ」

「なるほど勉強になります」


その後も少しお土産レクチャーを受け、2人でお土産を何点か見繕った。


「先輩、これは外せないですよ!京都限定抹茶バームクーヘン」

「これはテレビでよく紹介されてるやつだ」

「このお菓子もおすすめです!」

「チョコ、バニラにいちご味!美味しそう」


その後も美味しそうなお菓子などを何点か購入した。


「先輩お菓子買いすぎじゃないですか?」

「これは事務所の挨拶出来てない社長陣の人達や先輩達の分かな。急に所属決まった事だからしっかりと挨拶しとかないと」

「なるほどじゃあ私も、セ・ン・パ・イなので楽しみにしときますね」

「ひなはもう挨拶したようなものだろ」


するとひなは上目遣いでおれを見て「私も先輩なんだけど」みたいな表情で見てくる。

浴衣に上目遣いと言う最強タッグで照れそうになるがなんとか顔に出さないように堪える。

こうなったひなは言う事を聞かなそうだ。

俺は抹茶バームクーヘンをもう一つカゴに入れた。

それを見たひなは笑顔になり


「挨拶、楽しみにしておきますね」


と言うとそのまま振り返りレジの方へ歩いていった。

レジの近くにはキーホルダーなどの雑貨コーナーがあった。


「先輩このキーホルダー可愛いですよね〜」


すると可愛らしいクマが付いたキーホルダーを俺に見せてくる。しかし俺は、それで察した。

絶対ひなはこのキーホルダーを買ってもらうとしてると。


「買い物も終わったし、レジ行こうかな」


俺はそれを無視してレジへ向かおうとするが、浴衣の袖を引っ張られる。


「先輩、買って欲しいな〜」

「おい、ド直球できたな」

「先輩、買って♡」


いかにも語尾に♡マークが付いてそうなあざとい言い方で言ってくる。しかし悔しい事にとても可愛い。俺は仕方がなくそのクマのキーホルダーをカゴへ入れた。


「先輩、好き」

「心もこもってない告白どーも」

「1割ぐらい込めましたよ」

「せめて3割入れろ」

「1割も3割も変わらないですよ〜」


その後俺はレジに行って会計を済ませた。合計金額はなんとなんと5桁。俺は驚異的値段から目を逸らすようにレシートを袋の中へ投げ込んだ。


「先輩お待たせしました!」

「ほら、クマのキーホルダー」


俺はクマのキーホルダーをひなに渡そうとしたら、何故か拒まれる。


「先輩少し外に行きませんか?」


そう言うとひなは外に向かって歩き出した。

何故外なのか分からないまま俺は付いて行った。

そのに出ると春の少し涼しく風が俺たちを迎えた。外にベンチがあり、俺たちはそこに腰を掛けた。


「先輩、1ついいですか?」


ひながこっちを見て真剣な表情をしてこちらを見る。何か重い話が来るのかと俺は覚悟した。


「最近後輩ムーブばかりしてて、先輩ムーブしてないから今から先輩でいいですか?」

「そんな事かよ?深刻な話でもあるのかと思ったよ」

「いや、私にとってはとても大事な事ですよ後輩、先輩の割合を5:5にしないと私爆発しますよ」

「そうかよ、それじゃあ今から交代」

「よし、せあ君ジュース買ってこい!」

「え?いきなり冗談きついですよ!」


いつも後輩として接していたひなが久しぶりに先輩になったので接しづらく感じるが少し懐かしくも感じた。


「そうだ。忘れないうちにこのキーホルダー渡しときますね」

「ありがとう〜。せあ君から貰ったキーホルダー、一生大事にするね」


陽奈先輩のとても嬉しそうな笑みに見惚れそうになりつつ、正気を保つ。これは買ったのではなくて、買わされたものだと。

すると陽奈先輩も自分の袋のなかを漁り出して1つの物を取り出した。俺が買わされたクマのキーホルダーだ。しかし顔の表情が違うかった。俺があげたのは、笑っているクマだが、陽奈先輩が取り出したのは怒っているクマだった。


「はいどうぞ。私からのプレゼント」


怒っているクマのキーホルダーを突然渡される。


「あ、ありがとうございます」


俺はどうする事もできずそのキーホルダーをうけとる。

すると陽奈先輩は渡したクマのキーホルダーをこっちに見せながら、


「これで、お揃いだね。無くしたら許さないから」


あざと可愛い仕草&放った言葉&空には星がハッキリと見えるロマンチックなシチュエーションのトリプリコンボを喰らって赤面にならない男子がいるのだろうか、あれは女子でも赤面しそうなほどだ。


「からかうのもいいですけどほどほどでお願いします」

「まさかからかわれるのを承諾するとは。絶対拒絶すると思ってた。まさかまた、この超絶美少女の私にからかわれたいのか〜?」

「やっぱり、からかうのなしで」

「もう〜、この照れ屋さん」


そう言って俺のほっぺをツンツンしてくる。

俺は陽奈先輩と話す時は隙を見せないように気をつけようとこの綺麗な星空の下に誓った。

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