第14話 「2人乗り」それは青春?
「2人乗りですか?」
俺は動揺をなんとか隠しながら質問する。急に完璧美少女と2人乗りなんて俺には荷が重い。
「あれれ〜?2人乗りもしかしてやったことない?」
陽奈先輩が煽るように聞いてくる。
「……何回かありますよ。けど俺2人乗り苦手ですよ」
小学生の頃と中学生の頃に2人乗りしたことがある。しかし両手で数えられるほどだ。今上手に2人乗りできる保証がない。
「大丈夫だよ。私軽いから〜練習のつもりで」
「……わかりましたよ」
俺は自転車の鍵を外し、前かごに陽奈先輩と俺の鞄を入れる。
「陽奈先輩乗っていいですよ」
「ありがとう〜」
陽奈先輩が後ろのリアキャリアに横に座る。
「せあくんそれじゃ出発〜」
俺は自転車を漕ぎ始めた。陽奈先輩は本当に軽かった。久しぶりの2人乗りだったが、意外と上手に漕げて安心した。
「結構うまいじゃ〜ん」
「それはどうも」
少し進んでいたら急に信号が赤になり急ブレーキした。すると先輩がバランスを崩し俺の方へもたれかかる。その時、前にも感じたことのある柔らかい感触があった。
「陽奈先輩大丈夫ですか?信号が急に赤になって…」
「うん大丈夫だよ〜。……せあくん、今あたったよね?」
後ろを見ると少し顔が赤くなっている陽奈先輩がこっちを見ている。
「え?え〜と、……柔らかったです」
「あたってたたってこと?」
「……そうですね」
けど仕方がない気がない。これは不可抗力だ。
……不可抗力だ。
「私の胸を触った責任はとってもらうからね。
せあくん」
「え、今の触ってないですよ。不可抗力ですよ」
「とってね」
無言の圧があった。
「…はい。何したらいいんですか」
先輩が少し笑顔になった。
「それじゃせあくんに一回命令できる券をもらおうかな」
「いいですよ」
「ありがとう。あ!せあくん信号!ぴこぴこしてる」
いつの間にか青になっておりそのまま点滅していた。点滅することをぴこぴこしてると言うのは、子供らしく可愛かった。俺はペダルに足をかけ力強く漕ぎ出した。
今、朝学校へ登校する時に使った河川敷の道を通っている。夕方ということもあり人通りはなく、河原の水面には夕日が反射している。
「青春してるね〜」
「これは青春ですか?」
「女の子と2人乗り、さらに超絶美少女なかなかないよ。これは青春だよ〜」
確かにこんな可愛い人と2人乗りなんでなかなかないと思う。少し成長した気がする。
「陽奈先輩綺麗ですね」
「ん?急にどうしたの。私を口説いても何もでてこないよ」
「あ、言葉足らずでした。河原の話です」
「あ〜。これからは主語をはっきりさせてね。私勘違いしちゃった」
陽奈先輩は少し顔を赤く染めながら背中を叩いてきた。確かにさっきの言葉はそう受けとってしまっても仕方がなかった。
少し行くと電車の通る鉄橋がありその高架下を通るため急な降り坂になっていた。
「先輩これから降り坂なんで気をつけてくださいよ」
「オッケー」
そう言うと陽奈先輩は手を俺のお腹あたりに回してくっついてくる。陽奈先輩の急な行動に俺は思考が停止し、自転車も停止する。
「あの、陽奈先輩なにしてるんですか?」
「せあくんが気をつけて言うから落ちないようにしようと思って〜」
「だからってこうします?肩捕まるとかあるでしょ。」
後ろを向くと陽奈先輩の顔は赤くなっている。
「……先輩無理しなくてもいいですよ」
「こ、これは夕日の反射だよ〜。せあくんこそ顔赤くなってるよ」
「……夕日の反射です。自転車押します?」
「…折角せあくんにつかまったし、このまま行こうよ」
俺は言われた通りペダルを漕ぎだした。坂を降っている時のおれは少し照れており、陽奈先輩は少し顔を赤く染めつつ笑っていた。
そのまま自転車を漕ぎ続け、家の近くまで帰って来た。
「先輩の家ってどこなんですか?」
「えっとね〜ここの家を右に曲がってまっすぐいったら私の家だよ〜」
「わかりました」
言われた通りに進んでいくと「来栖」と書かれた表札が見えた。
「送ってくれてありがと〜。お礼に私を友達追加する権利をあげます」
そう言うとスマホの画面をみせてくる。そこにはQRコードが表示されている。
「友達追加しましたよ」
「オッケー」
「それじゃまた学校でね〜」
玄関を開けようとした時に陽奈先輩より早くドアが開いた。
「あら、ひなお帰り〜。入学式初日から男の子ひっかるなんてやるわね〜」
出て来たのはまさかの陽奈先輩のお母さんだった。
「お母さん、流石にそんなことしないよ。事務所の後輩だよ。」
「初めまして、八神星空です。」
「こんにちは、ひなの母の
「はい、こちらこそよろしくお願いします。」
「そうだ!せあくん夜ご飯食べて行く?」
とても急なお誘いだった。顔を合わせて約10秒。流石に迷惑かなと思い断ろうと思ったが俺が言う前に陽奈先輩が動いた。
「流石に急だし、せあくんに迷惑だよ〜」
すると小声で
「お母さん私の部屋汚いし、実は片付けできないなんてバレたくないんだけど」
「あら、別に部屋に入れなくてもいいじゃない。ご飯食べるだけだし。あ!もしかして連れ込むつもりだったの?」
綾奈さんはニヤニヤしており陽奈先輩が赤くなってる。
「ちょっとお母さんそんなわけないでしょ」
お母さんと何かを話している陽奈先輩はいつもの陽奈先輩ではないように見えた。
「あの〜」
「あらごめんなさい。さっきの話は無しでいいかしら〜?」
「はい、大丈夫ですよ。それでは失礼します」
「せあくん、またいつでもおいで〜。」
陽奈先輩は小さくてを振っていた。俺も手を振った。そして自転車に乗り家を目指した。
「せあくんいい子じゃない。もしかして惚れた?」
「せあくんはいい子だよ。素直だし。けど好きにはなれないよお母さん」
「あら、どうして?」
「私達は配信者だから……」
「配信者って大変だね〜。色々あると思うけどさ、これは覚えときなさい」
「高校生活、青春なんて一瞬よ。気づけば終わってる。1つ答えを出すのを遅らしてたら手遅れになることだってある。配信者だからとか理由使わないで自分のしたいようにしなさい」
「青春は人生で一回きり、それは後々思い出の宝になる。悔いはのこさないようにしなよ」
「え、お母さんが凄くいい事言ってる」
「お母さんだってやる時はやるのよ」
「まぁ、なるべく頑張るよお母さん」
夕日の中親子は笑いあって家の中へ戻っていった。
「そういえばお母さんなんで玄関からでてきたの?」
「あ、そういえばお醤油切れてて買いに行くとところだった」
案外おっちょこちょいな陽奈先輩のお母さん綾奈でした。
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