第49話 四天王四番手。それよりもやっぱり主人公。
レオナルドは少女の言葉に目を剥いた。
「真実の間を使え……と?」
「うん。それが一番でしょ。嘘がつけない場所、全てを詳らかに出来る場所。」
「いや……、それは不味いんだ。」
貴族というのは人の命を斯様にも簡単に消すことが出来るらしい。
でも、今はこんなにも狼狽している。
やるべきことはたった一つなのに、だ。
「不味いんだ。だったら私も殺して、それを阻止する?」
その言葉にも王子様は目を剥いた。
「ちが……、そんな訳ないだろ!私の目から見て、一番信用になるのはリリアだ。分かるか⁉いや、分かるわけがない‼アイザックは私と兄上しか知らない暗号文を知っていた。そしてイグリースは俺のことをなんでも知っている。……つまり、イグリースとアイザックは繋がっている。そしてそこから考えれば全ての辻褄が合う。……王族関係者に密偵がいる。」
アイザックが行ったチート行為がその暗号文利用。
ゲームと同じ設定だからこそ知っている『ネタバレ』を先に行った。
彼らはアイザックとマリアベルを陥れることにご執心だ。
つまり、リリアはそれぞれのヒーロールートを進んでいない。
それどころか、彼らは何故か焦り、仲間まで犠牲にした。
——その中心にいるのがイグリースなのはアイザックの目から見ても明らかだった。
だからアイザックは、レオナルドが彼に巻き込まれてしまったと考えた。
その結果、どうなったか。
彼は自らの手で王の権威を汚してしまった。
どう考えても泥を被っているのはレオナルドなのに、あの男は何故か気付いていない。
無論、他の二人は泥どころか血塗れになってしまったのだが。
レオナルドを疑心暗鬼にするのは簡単だった。
『知っているぞ』とだけ伝えれば良い。
アイザックは今まで世界のズレの影響が怖くて、マリアベルの処刑イベントギリギリを狙っていた。
だが、その縛りを解いたのは彼らの方、——勿論、本当に世界をズラしたのは自分達なのだが、彼には少なくともそう見える。
そして、ここでマリアベルの為を考える人間が新たな行動に出る。
「勝手に決めつけないの!本当に悪いところだよ。とにかく!私が見張っておくから大丈夫。こう見えても、人を見る目はあるから!」
(レオナルド君は気付いていない?レオナルド君の話と、アイザック君の「昔、兄弟は仲が良かった」って話を合わせると——簡単に分かることなのに。……だったら、もしかしたら。)
「そ、そうか。そうだな。リリアの魔力は流石にそこまでないが、それ以外は高い能力だったな。」
(ほんと、レオナルドには幻滅。私の事見てないもん。)
魔力という点以外、リリアはマリアベルと同等レベルの学力を有する。
確かにそういう設定もある。
「うん、大丈夫だよ。私がドアを開けるから。マリアベルさんが捕らえられている部屋に入るのなら、私の方が怪しまれないでしょ?」
その学力は全生徒の中でずば抜けている。
だが、本当にそれだけ?
だから彼女はドアをノックして、こう言った。
「イグリース君、マリアベルさんの看護は任せてください。マリアベルさん、……トマトって美味しいですよね。」
「リリアちゃん、悪いんだけど、今は大事な時間なんだ。用があるならレオナルドに——」
「イグリース君、これは女性の尊厳と自由の為なの。……本当の本当にゴメンなさい。」
(あいつの場合は論外。マリーちゃん!待ってて!今すぐそいつをとっちめるから!)
時間稼ぎの間にレオナルドは納刀した剣に魔力を込めていた。
リリアには合鍵魔法具は渡してある。
そして、ヒロインの少女が、王子の為に、マリアベルの為に、そして自分の家族の為に開ける予定。
だが、予定は未定。
「イグリースぅぅぅ!謀ったなぁ!」
という声が聞こえる。
「おい!何勝手に入って!」
という声も聞こえる。
でも、そんなのどうでもいい。
「私を舐めないで!
その瞬間。
四天王の二人は金縛りにあったように動きを止めた。
「これ、私の上着だよ、マリー!」
「貴女、この力……」
室内には悪役予定だったがメインヒロインに変更になった少女がいる。
「でも、やっぱり私じゃないか。」
そして主人公の少女は、はにかみながらこう言った。
「私にもいつか、王子様が迎えにきてくれるから大丈夫。……でも、マリーが羨ましいな。そこで待っててね。この二人はあそこに連れて行くから。」
レオナルドとリリアが歩いてきた道から衛兵を連れた第一王子ヨシュアが現れて、この状況に目を剥いていた。
「自由の名のもとに命じます。この二人を真実の間に連れて行きなさい。」
光り輝く少女、リリア。
マリアベルはそんな彼女をただ見つめていた。
そしてリリアが言った通り、兵士たちが二人を連れて行く。
そして彼女も立ち去っていく。
「あれが……、私の敵の少女?どう見ても……、聖女様?」
誰も居なくなった牢獄で、マリアベルは首を傾げている。
服は着させてもらったが、鎖には繋がれたままで。
そして、あちらでも。
「私、人を見る目、あると思うの。」
「リリア?えっと、俺の読みだと……」
「心配要らないよ。君はずっとあの子の為に頑張っていた。そしてずっと見守っていたものね。ペペロンチーノさん?」
少女はジッと見ていたではないか。
図書室で彼女は彼を見つめていた。
「マジ……?今更になってあの時バレていた設定を出してくる?っていうか俺を出しても……いいの?」
海辺の木陰で彼女は言っていたではないか、どこかで会っていませんか、と。
そして、金髪の主人公は片目だけを瞑って、こう言った。
「みんな、私を舐めすぎだよ。私、主席入学なんだからね!それに私は自由の象徴だもん!それよりも、お姫様が待っているよ。古臭い王子様はお姫様を迎えに行かなくちゃね!新しい世界は私が作る、だから早く逃げて!今からここ、大変なことになっちゃうから!」
この世界は最初からズレていた。
だったら、あの設定だって変わっている。
「リリア、今までゴメン。そして……、ありがとう」
「うん!ホント、羨ましい!マリーちゃんによろしくね!」
リリアとマリアベルが敵対する必要もない。
やっぱり主人公のチートには敵わない。
だから、呆気なく二人は真実の間に行くこともなく。
「マリア!今、助ける!」
「アイザック!あの……、私!」
少年と少女は互いの無事を確かめ合った。
そして少年は。
「早くここから逃げよう、マリア!」
「うん。でも、その前に!リリアちゃん!有難う!」
ここから聞こえるか微妙な距離、けれど彼女ならきっと。
「あんなに良い子なら、普通に仲良くなれたんじゃないのかしら?」
マリアベルは慌ただしくなっていく王城から逃げながら、そんなことを言った。
そして、彼女と同じく、リリアに助けられた白髪の青年は肩を竦めた。
「う……。それは確かに。俺も何が何だか分からないよ。でも、確かにあの時は……」
ここで。
「え?」
「あ!」
マリアベルが半眼になる。
そして、アイザックの目が泳ぐ。
「えっと、……アイザック様?」
「は、はい。」
名前を呼ばれ、返事をする。
ただ、彼女の目は半眼のまま、早歩きしていても頭が揺れない。
彼女はとても美しい、だが半眼。
「……パパ?」
「……あ!あ、あぁ。そうか!アイザックはそんなことを……」
言わない。
大事件に巻き込まれたとはいえ。
彼は最近国にやって来てマリアベルと、そんなに面識はない。
リリアには近づくな、なんて絶対に言っていないし、それを言うキャラではない。
そして暫く沈黙が続いて、その次に来た彼女の言葉は——
「あの……、ペペロンチーノ先生?」
「……えっと、そのマリア?これには事情が」
「ペペロンチーノ先生の時みたいに言って!」
「ペペロンチーノ?……そうですね。授業がそろそろ始まります故、皆さまはどうぞ、学業に励まれて下さい。……そしてマリアベルさん、今まで騙しててすみませんでした。私は設定を忘れて——」
ただ、少女はうろんな目つきになってこう言った。
「止めて。ペペロンチーノ先生で謝らないで」
だから、彼は真剣な顔で、彼自身の言葉で。
「マリア。今まで黙っててゴメン。」
すると、彼女は——
「本当よ……、馬鹿!でも大好き!」
と、今はアイザックの彼を抱きしめた。
そして彼も彼女を抱きしめ返した。
「どの姿でも、俺はマリアのことが大好きだったよ。」
その頃には安全な場所まで避難できていて。
彼女は今まで見せたことのない、本当の笑顔で彼に言った。
「うん、それは知ってた。」
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