第53話 蛇足ですが、父親になれました
「ペペロンチーノ先生」
「はい、どうも。恐縮ですが、本日は私がマリアさんの……」
「ジョセフ・ボルネーゼ、砕けバージョン」
「え?砕けって?俺の普段の喋りってことだよな?うーん。そう言われても」
「アイザック・シュガー」
「はぁ……、マリア。全部、僕だよ?僕が喋り方を変えていただけで、根っこは同じなんだけど……」
新婚熱々夫婦、二人だけの定番の遊び。
「どの喋り方がいいか、決めてるの!文句言わない。でも、それにしても凄いでしょ?キャロットとレチューの話、あれ本当だからね?」
このやりとりも何度目か。
「俺の容姿、俺の喋り方が変わっても、悉く——」
「今はアイザック!」
「あ、そか。僕の外見が変わっても、君は僕を見つけてくれた。——って!」
息が詰まる。
彼女は魔力のことも忘れて、そしてお腹の子のことも忘れて力いっぱいハグをした。
「大好き!」
「僕も、いや僕の方がずーっと長い間好きだから。」
「や、やめて。惚れ死ぬから!」
もう、見ていられない。
こんなやり取りを見させられる蛇足だったのか。
「だって、仕方ないでしょう?アイザックは議会制民主主義を提案したのに、王は王として留まるべき、そして貴方はそれに対して、仕方なく了承。ただ、自分はあくまで冠としての王であり、政治には関与しない、なんていうし。それに外は大雪。何もすることないんだもん。」
「いや、そっちじゃなくて。お腹の……」
「大丈夫よ!これくらいしても大丈夫ってネザリア様が言ってたからー。」
いや、そんなことよりも。
ここはライスリッヒ諸島のマカロン島。
本編で説明した通り、昔ながらの魔力本位の社会。
だから、アイザックは帰るなり王に即位した。
「僕だって幸せだよ。だってこんなに早く子を授かれるなんて思っていなかったんだし。」
「ん。貴族社会じゃ当たり前な気もしてたけど、そうなの?私はもう18歳よ?」
ゲームの設定でも、全員がそろって同い年、という設定ではない。
ただ、18歳。
いや、18歳。
マ? 18歳
しかも、既に男の子が生まれている。
これだけ愛し合っているのだから、そうなるのかもしれない。
ネザリアはそれも紋章の力だろうという。
どうやら120歳くらいまで生きられそうと彼女は言った。
やはり化け物。
ボルネーゼ家は元々、こちらとやり取りしていたので、彼女達もすんなりと受け入れられた。
「18歳って、俺の感覚だとまだ子供だよ。……そんなことより、マリア。もしかしてあの手紙の文言信じてる?」
「あー。こないだ、その小説も届いたわよ。私が全部悪いことになってるやつね?どうかしてるわ。」
「だって、マリアベルは子供のころから可愛いんだから仕方ないよ。」
そして、紋章の力はそれだけではなかった。
いや、紋章の真の意味が失われていたと言った方が良いかもしれない。
——『婚姻までを含めて』が紋章の力だった。
子孫の為の紋章だから当たり前かもしれない。
つまり、子孫の為に国を安寧にする力。
おそらく、それでライスリッヒ諸島の氷が解け始めている。
更にはただの諸島ではなかったことまで分かっている。
王家は紋章についての記述を全て削除している。
だから、今までどんなタイミングで紋章が出たのか、分からなくなっていた。
実は、今まで紋章が出なかったのは、安寧の日々が続いていたから。
二百年前に紋章者が現れたのは、開拓の時期を迎えていたからだった。
だが、その時内乱が起きて、人間の数が減った。
数が減ったことで、再び人の数に対して土地の面積の方が大きくなった。
それで、紋章を持つ者が生まれなくなっていた。
そして更に二百年後、同じ問題が発生した。
それで生まれたのが紋章持ちのアイザックだった。
「アイザックもかっこいいよ!」
妻ものろける。
「マリアベルの方が可愛いし、綺麗だよ。」
「ねぇ、もう一人。作っちゃう?」
「今はお腹にいる!そんな神様みたいなことは出来……、マジ?」
「ネザリア様がいっちゃえっていってたけど。」
その言葉を聞いて、彼は肩を竦めた。
「それは冗談だ。あの婆さん、どんどんキャラ変わってるから。」
「あー、それはそうね。お母様も……、最近色気づいてるし」
「そりゃ、お義母さんも同じく綺麗だから」
「私より?本当に本当に何もなかったの?」
「本当に、本当にだよ!聞き耳立てていた癖に」
「あー、そういうこと言っちゃうんだー。私の部屋にだって何回も聞き耳立ててたのにー。」
「う……それは。」
「冗談よ。愛故に、だもんね?」
「そう、ずっと愛していた。」
のろけはさておき。
話を戻すと、この力は開拓する為の力でもあった。
だから、マリアベルとアイザックの婚姻により、諸島は本当の形を取り戻そうとしている。
「じゃなくて、手紙。……本当にイザナを婿に出すつもり?」
「婿じゃないもん。リリーちゃんが来てくれるんだもん。それにリリーちゃんも乗り気だし。」
「リリアは入学時点で何歳かは分かっていない。ただ、少なくとも15歳。いや、ゼミティリの性癖を考えると……、まさか12,3歳?えっと、ちょっと待て。もしもそうだとすると、イザナが18歳になる時、三十前半⁉しかも魔力が高いから……」
頭を抱えるアイザック。
ただ、その瞬間をマリアベルは見逃さなかった。
「はい!出来た。これの写しをリリーちゃんに送るね?」
「……マリア、まさか?」
「うん。これでリリーちゃんは私の義理の子供だね。」
マリアベルには敵わない。
そう思いながら、アイザックは先ほど上がってきた報告書に目を通す。
そして、再び頭を抱えて、その書類を机に放り投げた。
彼が良く知る形になっていく地図の報告書。
「ほんと。世の中、どうなるか分からないな。」
「そうだね!やっぱり、挑戦してみる?」
その時、ドアがノックされた。
特に珍しいことではないので、アイザックは椅子から立ち上がって、ドアの方へと歩いて行く。
そこで、新たな報告書を受け取るのだが……
「マリアベル……、ちょっといい?これ、お前宛なんだけど。」
そして、愛する妻にその封筒を渡した。
「なぁに、これ。リリーちゃんからでもないし……。」
マリアベルが封筒の中身を確認している間に、アイザックは再び机の上へ。
「……見たことあるんだよなぁ。俺、ここに住んでいたような?なんで?」
列島どころではない、形。
ライスリッヒ諸島とは何だったのか、と思うほど大きな大陸。
昔やり込んだ、大好きだったゲームのマップにそっくりな地形。
コーヒーを飲み、背もたれにもたれかかろうとしてた時に妻の声がした。
「これ……私からの手紙?ねぇ、アイザック。ちょっと来て」
「自分からの手紙って、自分で自分に出したってこと?」
「リリーちゃんがこっちに送り直してくれたらしいの。筆跡も確かに私のもので……って!それより内容!」
その分面を見て、二人は苦笑いをした。
意味は分からないが、どうやら何も心配は要らないのだそうだ。
【蛇足ですが————、ウチはちゃんとあの人の嫁になれていますか?何の心配もいらないから、そのままウチを愛していいよって伝えて下さい】
崖下のマリアベルー転生したら娘が悪役令嬢だった件 綿木絹 @Lotus_on_Lotus
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