第42話 養鶏場の見張り番

 前に外に出た時には途中から街道を離れて森の方に向かったけれど、今日は農地の方に行くことになる。少し街道を歩いてから、畑と畑の間を通る道に入った。街道はもちろん広いけど、脇道も荷車がすれ違えるくらい広い。

 この辺りの畑には、そんなに背の高くない草みたいなのが一面に植えられていた。

 多分麦かな。麦はこの国の主要な作物のひとつだ。きっとこの草もこれからぐんぐん背が伸びて、夏の終わりには黄金色に実るはず。

 そんな小麦畑の横を通り抜けて向かった先にはかなりしっかりした造りの塀に囲まれた場所があった。これが今回依頼を出した農家だ。


「依頼を受けてくれた冒険者さんかい。やっと来てくれたか。よろしく頼……え?」


 私に目が留まって絶句。

 うんうん。

 常識的な反応で嬉しいな。いや、ここで断られたら困る。


「冒険者のリアです。よろしく!」


 チョコから降りて、相手が固まっている隙にすかさず挨拶だ。そして畳みかけるようにギルドカードを荷物袋から取り出した。

 最初は首から下げてたんだけど、さすがに邪魔になるので荷物袋に入れてるんだよね。荷物袋はババァの魔道具屋のおばあさんに貰った小銭入れ、空間魔法付きで結構いろいろ入る。ちゃんと携帯食とか毛布とかも入ってるよ。

 それはさておき。


「まあ、カード持ってるんなら冒険者だろうし、ちゃんと仕事してくれたら小さくてもいいか」


 ギルドカードの信用度がすごい!


「依頼出してたんだがなかなか来てくれなくて困ってたんだ」

「俺はディーデリック、これがギルドカードだ」

「ああ、よろしく頼むよ。見てほしいのはこっちだ」


 家と並ぶように養鶏場が建っている。養鶏場は完全な室内じゃなくて屋根と柵があるだけの建物だった。

 柵はディーの腰くらいの高さで、チョコに乗ってても私には中が見えない。

 でもこれくらいの高さだったら鶏が逃げそうだけど大丈夫なのかな?


「柵は鶏が逃げ出さないためじゃなくて獣避けなのさ。鶏は賢いからこの中が餌も貰えて安全だって知ってる」

「へええ」

「それに案外強いのさ。この辺りによく出るトゲネズミやイタチなんかだと返り討ちにするくらいだよ」


 トゲネズミってあのダンジョンにいたやつか。怖い顔してたけどなあ。あれより強いって、マジか~。

 さすがに一対一だと魔物相手は厳しいけど、鶏はたくさんいるので集団で囲むらしい。

 入り口から中に入ると、もわっと鳥の臭いがした。地面には草が生えてる。庭に放し飼いしててちょっと雨風をしのぐための屋根を付けたってとこかな。

 鶏はたくさんいたけど広いからさほど窮屈ではない。

 なんだか前世の世界の鶏より大きい気がする。私が小さくなったからかもしれないけど。


「柵はどこも壊れていない。どこから入ってきたか分からないんだが、鶏の数が少しずつ減っているんだ。草が生えていて足跡は分かりにくいだろ? ワシも一応探したが今のところ見つかっていない。大きなスライムの仕業か、あるいは何か魔物だろうとは思うんだ」

「なるほどなあ。依頼は三日泊まり込みで見張ること。魔物を捕まえたら別途追加報酬、捕まえた魔物はこっちが貰える。となっていたが、それでいいか?」

「ああ。とにかく何が鶏を食ってるのかを見つけてほしいのが一番だな。三日もいてくれたら一回くらいは出てくると思う。鶏が消えるのも二、三日おきの頻度なんでな。三日間はこの小屋の中で見張ってもらうことになる」

「調べるために敷地内を歩き回るが」

「かまわんよ。住居に入るんじゃなきゃどこに行ってもいい。トイレは外にあるから使っていいぞ。火はダメだ。明かりは外にはある。中は少しなら使ってもいいが鶏が嫌がるんだ。なるべく使わないでくれ」


 一通り説明して、依頼主は自分の仕事に戻った。魔物が出るのはたぶん夜なので、それまでに養鶏場とその周辺、敷地の外塀なんかも歩き回ってチェックした。


「こういう泊まり込みで見張りが必要な依頼はソロじゃ受けられない」

「ああー、三日も寝ずに見張りは出来ないもんね」

「だから交代で寝ることになる。リアが一人になる時間もあるから気を付けろよ」

「分かった。でもチョコもいるからね」

『私は三日くらい寝なくても平気だ』

「頼もしいな」

『ぴぴぴ、とりタベルいい?』

「鶏はだめ!」


 そんな大きなの無理でしょ! 逆に鶏に突きまわされるわ。

 あ、そうだ。


「ピピピはもしスライムを見つけたら持ってきてくれる?」

『モッテクル。きらきら、すらいむタベル?』

「私は食べないけど、数をチェックしたらスライムのせいかどうか分かるかもしれないしね。私に見せたらそのあとでピピピが食べていいよ」

『ぴぴぴ、サガス~うまうま、すらいむ~』


 ピピピは好きに飛び回らせることにした。広々として気持ちいい場所だし、少しは飛ばないとね。

 敷地内を一周しても特に進入路みたいな穴もないし、足跡も見つけられなかった。やはり夜を待つしかないみたい。

 見張りの本番に備えて、体力回復だ。まだ明るいけどディーと交代で仮眠をとった。

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