第26話 ディーと合流

『主、ここからは気を付けたほうがいい』


 その階段を上りきったとき、チョコが言った。

 上がってくるにつれてだんだん出てくる魔物は弱くなって、油断してきたところだった。


「何? ……はっ、もしかして大ムカデ?」

『いや。だが火魔法を使う魔物だ。この先に炎犬の群れがいる』

「炎犬!」


 言われてみれば、今まで出会わないのが不思議なくらいだった。

 チョコの体も炎犬のものだという。


「チョコは、炎犬と戦うのは問題ないのかな……」

『体のことなら問題ない。これに宿っているからといって、私が炎犬になったわけではない』

「よかった。危険な魔物なのよね?」

『ああ。一体ならさほど強くもないが、やつらは群れる』


 私は集団戦があまり得意ではない。ここに来るまでを見ていたらチョコはたしかに強いけど、あまり数が多ければ苦戦するだろう。私がいることでかえって足手まといにもなりかねない。

 だったらどうする?


「……だめね、いい考えが浮かばないわ。とにかくこっそり静かに進みましょう」

『分かった』


 もうかなり地上に近付いていると思う。希望的な予測だけど。

 炎犬はこのダンジョンでも一番強い魔物なはずなのに今まで出会わなかったのは、このダンジョンから地上に出ようとしていたのか?

 そういえば、ディーの言ってた依頼、農地に炎犬が出たというのはもしかしてここから?


 この階は所々で道が分かれたり交差したり、迷路のように広がっている。私一人だったら通り抜けるのに時間がかかりそうだけど、チョコがかなり正確に案内してくれる。炎犬を警戒して少しペースは落としたが、ほぼ迷わずに階段に向かうことができた。

 だけどちょうどその階段のすぐ手前の道で、ついに一体の炎犬と出くわしてしまった。


「止まれ」


 できるだけ小声で、魔法を使う。真っすぐに立っていた炎犬はそのままの体勢で動きを止めた。

 通路に現れた炎犬は今のところ一体。


『この先にいる。八体、いや九体か。何か獲物を追っているようだ』


 言われて耳を澄ますと、グルルルという唸り声がいくつも聞こえてきた。

 チョコは気配を読むのがうまい。その勘を信じて小声で計画を練る。


「九体か。奇襲で私が五体いけるかな?」

『主が奇襲をかけている時に私が跳んで背後に回り込んで倒そう』

「そんなに跳べるの?」

『できる』

「だったら私、手前から順に止めていくわね。じゃあ三、二、……」


 最後の一は手で合図を送ってから、一気に通路の角まで走った。

 さっき止めた炎犬にぶっつからないように回り込んで、そのまま角を曲がる。

 いた!


「止まれ!止まれ止まれ止まれ、ストップ!」


 手前の炎犬から順に狙いを定めて、一息で五体。いや、最後の一体は外してしまった。二体の炎犬が重なって見えたからだ。きちんと一個の物としてとらえられなければスキルが上手く発動しない。

 でも混乱する炎犬たちの頭上を、軽やかにチョコが飛び越える。そして一番奥にいた一体の首に噛みついて引きずり倒した。

 炎犬は奇襲に慌てていたがすぐに立て直し、私とチョコを睨んで向かってきた。

 私に飛びかかってきた二体の炎犬を避けながら叫ぶ。


「止まれっ、止まれえええええ」

「ギャン」


 私が叫ぶのと同時に、チョコももう一体を倒したみたい。

 あと一体!

 最後の一体は。


「ギャオオン」


 私とチョコのちょうど真ん中くらいで、最後の一体の炎犬が悲鳴を上げて倒れた。


「これはいったい……」


 そう言いながら脇道から出てきたのは、ディーだった。


「ディー!」

「リア!?無事だったのか!あ、危ない、まだ一匹いやがったか」

「ままま、待って! だめ、ダメその子は魔物じゃないの!」

『この人間は危険なヤツか?』

「ち、違うって。この人がディー。精霊魔法の人よ。ディーも落ち着いて。この犬は私の友達なのよ」

「お、おう。なんだか分からんが、魔物じゃないならいい。リアを探しに行こうと思ったんだが、こっちもこっちで、ちょっと拾い物をしちまってな」


 そう言ってディーは背後を見た。

 ディーが出てきた脇道と思ったところは、小さな部屋のようになっていた。その入り口にはすでに数体の炎犬が倒れている。

 そしてそのさらに奥に、小柄な人影が横たわっているのが見えた。

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