第49話 思いがけない危機

 歩いていると少し景色が変わった。

 他のチームが下処理で足止めされるので、宿に泊まったチームの中ではかなり奥に進んでるほうだと思う。

 ここまでは大きな木の間に細い木や藪があってうっそうと茂った森って雰囲気だったけど、なんだか様子がおかしい。

 低木が倒されてたり、草が枯れてたり、所々に焦げたような跡があったり。


「この先の斜面を登った先が、この森の中心だ。この付近がギルドで言ってた光香茸の一番採れる場所のはずだが」

「何か、荒れてるね。採取の人たちの野営跡?」

「野営で火を焚いた跡は埋めることになってるんだ。とくに森では火事が怖い。さすがに冒険者の仕業とは思えないがなあ……」

「ディー?」


 斜面の上から人の声がした。


「そこら辺はやけに荒らされてるでしょ。野営組は諦めてみんなもう少し先に行ってるわよ」

「魔物の仕業か?」

「分からないわ。このあたりに出る魔物と言ったらスースかしら?ベアはいないはずだし」

「そういえばさっき向こうで一体スースを仕留めてたな」

「じゃあきっとそいつの仕業ね。私達も先に行くわ。ディーたちも早くこっちに来なさいよー」

「ああ。この先は魔物がよく湧く。気を付けろよ」

「今日はなんだか奇妙なくらい魔物に会わないのよ。おかしいわね。気を引き締めて行くわ」


 斜面を登りかけた時、カレルが止めた。


「すみません、そこに茸がありそうです」

「分かった。リア、下を見ててくれ。俺は上を見張っとく」

「了解」


 ロッサの木らしきものはないけど、折れた木の中にあったのかもしれない。

 カレルは押しつぶされた草の間から伸びてきた茸を採取した。

 そんな所にあるの、よく見つけたなあ。さすが目が良いと自慢するだけある。


 それにしても、さっきの冒険者さんが言ってたように、本当に静かだ。

 森の中は危険だと聞いていたけれど、まだ小型の魔物しか見ていない。スースが暴れたせいなのかな。

 カレルから受け取った茸をスキルで時間停止して、リュックに入れた。


 さて、ここから少し斜面を登らなくてはならない。

 そんなに急斜面ではないから、木の根や石を足掛かりにすればよさそう。

 私はチョコに乗ったままなのでここまでとあまり変わらないけど、落ちないようにしっかりと手綱を握った。


『主、気を付けた方が良い。魔物の気配が』

「わあああああああ」


 斜面の向こうから悲鳴が聞こえた。


「なんだ」

「チョコが、魔物の気配って」

「騒いでるところまでちょっと距離があるな。カレルはここに居たほうが安全か」

『来る』

「ディー、上!」

「くそっ。カレル、木の陰に隠れろ!リアは?」

「見えた!止まれ、ストップっ!」

『一体抜けたぞ』

「ああ、任しとけ」


 斜面の上から降ってくるかのように魔物が襲ってきた。

 いや、本当に降ってきた。飛び降りてきたのか。

 空を背景にして影にしか見えなかったが、トゲネズミくらいのともっと大きな魔物を止めた。間に合わなかった一体はディーが剣で切ったので、とりあえず大丈夫。でも斜面の向こうはまだ騒がしいし、なんだか焦げた匂いがする。


「俺は向こうに行く。リア、カレル、行けるか?ここで待たせるのも危険そうだ」

「私は行ける」

「ボクも大丈夫です」


 カレルの左手にはボールのようなものが握られていた。

 それと首から下げているペンダントが何かの魔道具っぽい。


「ボクだって少しなら戦えます。行きましょう!」

「おう。だが無理はするな。お前の役目は自分を守ることだ」

「はい」

「リア、チョコ、逸るな。カレルの後ろから来い」

『分かった』

「うん」


 ディーがカレルを支えながらずんずん登っていく。チョコは全然普通にいつも通りひょいひょい上がっていった。


『来る』

「ディー」

「分かってる」


 また上から降ってきた魔物を、今度は私が止める間もなくディーが切り捨てた。

 どうも魔物は襲ってきているわけではなくて移動中?というか、落ちてきてる感じ。

 上は一体どうなってるんだろう。


「もうすぐ頂上だ。みんな気を付けろ」


 振り返らずに言って、また目の前に出てきた魔物を切る。

 そしてまずはディーが坂を上りきった。


「これは……」


 すぐ後にカレル、私とチョコも続く。ピピピはディーの頭上辺りを飛んでいる。


『ぴぴぴ、あつあつ。うまうま?』

「火事です。あっ、ムシクイさん危ない、避けて」


 カレルが左手に持っていたボールをピピピの上に向かって投げた。慌ててそっちを見ると、頭上から大きな鳥が襲い掛かろうとしていた。カレルのボールは鳥の側で破裂して粉が舞う。その粉に触れたせいか、鳥が失速した。


「止まれ! 」


 なるほど、これが薬師らしい戦い方か。一人で街壁の外を歩けるわけね。

 カレルの攻撃だけで大丈夫そうだったけど念のため止めた。大きな鳥は飛んでいる形のままで地面に落ちて、ぽよんと跳ねた。


「ピピピ、大丈夫?」

『ぴぴぴ、ハヤイ。ちっこいニンゲン、ツヨイ。きらきら、ツヨイ』

「良かったです」

「カレルありがとう!」

「まだ来るぞ、気を抜くな」


 斜面を登った先は大きな木が減って少し見通しが良かった。そして視線の先には火柱が立っていた。

 山火事。

 そして火に追われるように魔物や獣が四方に走っていた。


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