第15話 魔道具屋

 大通りから一歩脇道に入ったところに、『ババァの魔道具屋』という看板がある。

 なかなかのセンスの店名だ。

 店名のわりに、看板は銀色の花で縁取られた可愛い装飾で、ガラス窓の向こうには色とりどりのランプが並べられていた。

 お店の前まで来るとちょうど中から人が出てきた。女冒険者でいかにも魔法使えます!って感じのキレイなお姉さん。ドアが開いたので、壁抜けしなくても入れ違いに入ることができた。


「おおー」


 思わず声が出るくらい可愛いお店!

 窓際のランプは客寄せと見本もかねているんだろう。魔石がセットされていて、店内を照らす役割も担っている。

 その他にもあちらこちらに置かれた灯の魔道具があって、外から想像したよりもずいぶん明るい。

 魔道具とは、魔石を中心にして金属の線で回路を作り、その道具ごとに決められた効果を生み出すものだ。

 置かれてある魔道具はどれも実用的で、そのうえ金属の回路が上手く装飾の役割もしていてとても可愛い。

 一つ一つの道具には几帳面な字でその魔道具の説明が書いてあった。

 魔石はその色ごとに性質が違うので、ひとつの魔道具に二、三個の魔石が付いているものもある。例えばこの木で作られた壺は青い魔石と赤い魔石を使っているから、説明書きには

『水差し。熱い湯を出すことができる。赤い魔石は五回使うと無くなる。五百ギル』

 とか書かれてる。

 白い石と金色の糸で刺繍が施されている革の巾着。説明書きは

『小物入れ。空間魔法でたくさん入る。財布にもよい。三千二百ギル』

 水差しより小さいけど高い。

 もっと高いものもいっぱいあるなあ。


 さっきまでいた宿屋が『二階一泊三百ギル』と受付に書かれていた。それに比べると魔道具は全体的に高価に感じる。

 しかしまあ、電化製品と思えば妥当か。


 側には交換用の魔石も売っていて、小さいものはほんの数ミリで十ギルくらいから、大きいのはピンポン玉くらいのが千ギルとかそのくらい。

 お椀みたいなコロンとした器がたくさん並んでて、その中に魔石が分類されて入っている。大きさと品質、それに色でもお値段がぜんぜん違う。

 ビーズみたいできれいだなあ。

 これまではちゃんと魔道具にセットされた魔石しか見たことがなかったから、とても面白い。

 ちょっと手に取ってみたいな。無理だけど。



 カラン。

 ドアベルの音がした。

 お客さんだ。

 相手に見えないのをいいことに、間近で眺めてみる。


「これはまた見事な筋肉ですねえ。さすが冒険者!」


 背の高い筋肉質な男の人だ。服は冒険者らしく簡単な革の防具で、灰色の小さなリュックを背負っている。

 背は私よりも頭一つ分くらい高い。顔は、うーん。悪くはないけど、貴族にはいなさそうなタイプよね。ワイルドっていうのかな。うん。悪くはない。


「歳はえーっと。三十くらいかな?」


 そんな感想を実況していると、店の奥から人が出てきた。

 看板に偽りなし! のお婆さんだ。


「ディーかい。朝早くから珍しいね」

「依頼で外に出るんだよ。ばあさん、預けてたやつをくれ」

「ああ、できてるよ。ちょっと待ちな」


 筋肉質な男の人の名前はディーっていうみたい。

 奥に引っ込んだおばあさんはすぐに出てきて、その手に持っているのは、木でできたロッドだった。

 ロッドというのは棒のことなんだけど、戦う時に魔法を使う補助具として用いられることが多い。筋肉質の男が受け取ったのは30㎝くらいのロッドで、持ち手は細く、先が丸くなっていて、金線銀線に結ばれた色とりどりの魔石がきらめいている。

 まさに、魔法少女が持つような……。


「超絶かわいい魔法のロッド、似合わない……」


 剣を持たせたら、すっごい強そうなのに!


「でっかい剣とか斧とか持った方が、断然その筋肉に似合うよ!なんで魔道具のロッドを使うのにそんな筋肉を鍛えたかな?」

「えらく口が悪い精霊だな」

「……え?」


 今まで店主のおばあさんの方を見てた男が、急にこっちを見てきた。

 目が合ってる!?


「ええええっ!?」


 どういうこと!?


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