第16話 スキル精霊魔法
筋肉質な男、ディーは私と目を合わせて話しかけてきた。
「おれはまだ二十六だぞ」
「いや、見えないわ~。どう見ても三十。いやいや、ちょっと待って! あなた、私のこと見えてるの?」
「ああ。はっきり見えてるぞ、精霊さん。俺のスキルは精霊魔法だからな」
キャー!
まずいまずい。まさか見えてるとは思わずに側に寄ってジロジロ見上げてたわ。
「ていうか、私の声も聞こえるんだ!?」
「さっきから普通に話してるだろ。もっとも俺もこんなに普通に話ができる精霊に会ったのは初めてだが」
「待って。私は精霊じゃないけどちょっと待って」
喋れる相手が見つかって嬉しいのと、独り言がいろいろ聞かれて恥かしいのと、精霊とか呼ばれて訳が分からないので混乱して、どうしたらいいかわからない。
私が頭を抱えてしゃがみこんでいると、おばあさんがディーに声を掛けた。
「ちょいと、壁に向かって何を話してるんだい?もしや店の中に精霊を連れ込んでるんじゃないだろうね?わしの店の商品は繊細なんだ。精霊なんかに触らせないでおくれよ。壊されたらかなわないからね」
「だとよ。ばあさんの言ったこと、分かる?」
「おばあさんが喋ってることくらい、普通に分かるわよ。外国語でもないし。私が店の物には触っちゃダメなわけね。了解です」
どっちみちこの身体じゃあ物には触れないし。
おばあさんのほうを見てにっこりとほほ笑んで頷いてみたけれど、おばあさんとは目が合わない。
まあ、そうでしょうね。ディーが変なのよ。
「ばあさん、分かったってよ。ていうか精霊様はばあさんの言葉もちゃんと聞こえてるみたいだぞ」
「な、何だって。そんな大精霊様なのかい」
ディーの言葉を聞いて驚くおばあさん。
私は精霊じゃないけど、もし本当にここに居るのが喋れる精霊だったとしたら、おばあさんの驚くのも無理はない。
精霊はこの世界ではファンタジーな存在ではない。
家の中にも、外にも、街にも森にも草原にも、どこにでもいる。ただし普通の人の目には見えない。
見えないのにどうして居ると分かるかというと、ごく稀に精霊を見ることができる人がいるから。
そのひとつが、スキルに精霊魔法を持つ人だ。
「精霊魔法」とは精霊に協力してもらって色々な魔法を使う方法だ。かなり珍しいスキルだけど、この国にもいると聞いたことはある。まあ多くても三、四人だとは思う。
精霊魔法が使える人は、精霊を見ることができる。
記録によると、精霊は小さくてちょっとだけ光ってるホコリみたいなものらしい。形もぼんやりしていて弱い力しかない。精霊魔法の使い手は精霊に魔力を渡して、代わりにお願いを聞いてもらう。
例えば火の性質を持っている精霊に『薪に火をつけてくれ』みたいな感じで。
人語を喋れない精霊でもなんとなく意思を伝えることができるのがこのスキルの特徴だ。
けれど中にはハッキリ形が見えて会話もできる精霊もいる。そういう精霊とは契約することができる。普通は願いを聞いてもらうかわりに定期的に魔力を渡すとか、そんなふうな交換条件だと思う。
稀にすごく大きな力を持つ大精霊がいて、そんな存在は、スキルを持っていない人の前に姿を現すこともできるらしい。
もっとも近年で一般人の前に大精霊が顕現したのはもう200年以上前の話で、今では伝説になっている。
おばあさんは最初、私が人の言葉が分からないものだと思ってたみたい。小さい精霊は精霊スキルを持っていない一般人に対しては無関心で、人の言葉を理解していないと思われているからだ。私も学園で理科の時間にそう習った。
聞いてないと思って言ったことを聞かれてると、ちょっと焦るよね。
ええ。今の私がちょうどそう。
おばあさんが「『精霊なんか』とか言って申し訳ない」と私に謝って、私が「かわいいロッド似合わないとか言ってごめん」とディーに謝って。
ディーが「気にすんな」と言って笑って。それから、通訳になってくれた。
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