第30話 ギルドの偉い人
救護室を出て次に向かったのはギルドの受付だ。
受付は入り口近くにあったので、そこまで戻る。
大きな組織だから受付窓口も広くて、職員の人が数人カウンターの向こうで対応してる。行列になってるところもあるわ。
並んでいるのは冒険者ではなさそうな人たちなので、きっと依頼を受け付ける窓口なんだと思う。
その他の窓口が空いているのは、まだ日が高い時間だからかな。たぶん。
ディーは全然人の並んでいないところに行って声を掛けた。
黒縁メガネの、若くて真面目そうな男の人だ。
「調査依頼の報告をしたい。責任者を頼む」
「お疲れさまです。調査報告は書面で提出をお願いします」
「すまん。緊急なんだ。できればギルド長に直接話したい」
「そうですか……分かりました。ギルド証を出してください」
受付の人はギルド証を受け取ると、手元の箱の上に乗せた。
箱の縁が緑色に光るので、何かの魔道具らしい。
「ディーデリックさんですね。そちらの控室でしばらくお待ちください。上司を呼んできます」
「ああ。よろしく頼む」
すぐ横の扉を開くと、テーブルと椅子が四つ置かれただの小さな応接室になっていた。
「さっきの緑に光った魔道具って何なのかな?」
『闇系の魔力を感じた』
闇系の魔力。
そう聞くとなんだか怖いもののようだが、そういうわけではない。
闇系魔力はオニキスのように黒い魔石結晶になる。その色から付けられた名称だ。
身体強化や治癒、それにテイムや精霊魔法も闇系になる。大雑把には、心身に直接作用するスキルが闇系のものが多かったはず。
「ギルド証に記録されている情報を読み取る魔道具だ。素行とか依頼達成率とかな」
ぼそっと小さな声でディーが答えてくれた。
「なるほど。ギルド証には魔力が登録されてるから、それを読み取るために闇系のスキルを使うのね」
「ああ」
えらくあっさり面会の申し込みが通ったと思ったけど、あまり素行が悪いと、対応が違ってくるのかもしれない。
そんな話をしていると程なくドアがバタンと開いた。
「ディー、何があったんだ?」
「あ、ギルド長」
ちょっと緊張した顔でディーが立ち上がった。
へえ。こういう表情するんだ。これなら年相応に見えるね!
ギルド長は、まさにギルド長って感じの人だった。五十歳くらいの男性で、身体はディーよりももっと筋肉質。
元々冒険者だったのかな?
引退してギルド長をしているんだろうけど、今でもすぐに巨大な魔物を狩って来れそう。
「急ぎらしいじゃないか。報告を聞こう」
「はい。未発見のダンジョンらしきものを発見しました」
「何だと!」
「入り口に印をしています。俺は薬師見習いを拾ったのでひとまず連れて帰ってきました。ソロなので見張りは残していません」
「分かった。今すぐ人をやろう。場所はどこだ?おい、カスペル、地図を持ってこい」
さっきの受付の人が慌てて地図を持って来た。それを机の上に広げて、ディーが指差す。
「ここです。街道から外れていて人はあまり通らない場所なんで、発見が遅れたんでしょう」
「なるほど、冒険者もあまり通らない道だな。農村の目撃場所からも近い。ここから魔物が出てきた可能性はたしかに高いか」
「中に炎犬の群れがいました。持って帰ってるんですがまだ解体はしていません」
「炎犬か。農村に出た奴と同じ群れかもしれんな。こっちで買い取って解体させる」
「はい」
「報酬は後だ。先にダンジョンの確認を済ませる。ところで中に入ったのか?」
「はい」
「いくら腕に自信があるからといって、一人で未知のダンジョンなんぞに入り込むもんじゃないぞ」
「いや、うっかり落ちたんで……」
ディーがちょっとだけ小さくなってる。
つい笑いそうになったけど、必死にこらえた。私の声でディーが変な反応してギルド長に変に思われても可哀そうだからね。
私の代わりにギルド長が大笑いして、ディーの肩をバシバシ叩いた。
「なんだ。不注意か。まあいい。中を見たんなら、少し休んでからもう一度行ってくれるか?」
「分かりました。あの、ちょっと飯食っていいですか?昼飯食えなかったんで」
「ああ。チケットやるから食堂で食ってこい。酒は飲むなよ」
「はい」
ギルド長は受付の人に指示を出すと、部屋を出てどこかへ行った。
「はい、ディーデリックさん。これ食堂の無料チケットです」
「ありがとな。カスペル、だったか」
「はい。新人のカスペルです。先週から受付担当になりました、よろしくお願いします」
「おう。これ、炎犬なんだが、急いでたんで冷凍もしていないんだ。すまんが解体を頼む」
ディーが荷物袋を渡し、受付の人が覗き込んだ。
「わあ、たくさんありますね。袋ごとお借りします。ではこれで」
「おう。あ、すまんもう一つ頼む」
「はいなんでしょう?」
「この犬と鳥を、俺のカードに所有登録しておいてくれ。しばらく連れて歩くつもりなんだ」
「はい。えーと、普通の犬……? と、ムシクイ……ムシクイが懐くのって珍しいですね」
『ぴぴぴエライ。ナツクのナイ』
自分の話題に気が付いてピピピが騒ぎ出した。
落ち着け、落ち着け。
「ピピピ、静かにしとこうね。登録してもらうと一緒に行けるよ」
『きらきらスキ! とうろくスル!』
チョコはちゃんとどういうことか分かっているらしく、冷静だ。
受付の人、カスペルはチョコとピピピの姿と名前をメモって、ディーのギルドカードに登録してくれた。
「はい。カードをどうぞ。盗難防止のため、首輪と足輪はなるべく早く用意してくださいね」
「ああ、分かった。ありがとな。じゃあ飯食ってくるわ」
よし。これで堂々とみんなで移動できる。
今までも堂々と一緒に歩いてたけどね。ふふ。
冒険者ギルドの建物の中を、今度は食堂へレッツゴー。
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