第29話 ピピピと保健室のお姉さん
ピピピは、私に貰った魔力分の恩返しをしようと頑張ってるのね。
ムシクイは春に森で生まれて、飛べるようになると小さいうちは安全な農地で虫とか精霊を食べる。そのうち大きくなって、今度は虫よりも大きな小型の魔物とかを好んで食べるようになってくる。
そうすると餌の豊富な森のほうが住みやすいから、大きいのはほとんど森の中から出ないんだって。
チョコは、ムシクイのことを大喰と呼んでる。
ちなみに食べられた精霊がどうなるかというと、たいていは糞と一緒に生きたまま出てくるらしい。
えっと、ムシクイは虫からは体を作る栄養を、精霊からは魔力を吸収するんだけど、そんなに吸収率が良くなくて、消化しきれない精霊がそのまま排泄される。
その時の精霊は、『ぎゅ~ってなって、なんかちょっとつかれた~』みたいな感じらしい。
それホント? どんな存在なんだ、精霊。
しかしまあ、みんなの話をまとめるとだいたいそんな説明だった。
チョコとピピピにいろいろ質問しながら歩いてたんだよ。なかなか話が通じにくくて、ここまで理解したときにはもう南門のすぐ前まで着いた。
もちろん、スライムを私にくれなくてもいいという説明もすごく頑張ったよ。スライムの代わりに「何かお願いを思いついた時は聞く」ということでピピピとの契約は無事落ち着いた。
◇◆◇
南門に着くと、慌てて門番が飛び出してきた。ディーが少年を担いでるのが見えたからだ。
「ディー、何かあったのか」
「森に行く途中で魔物に襲われてるところを助けたんだ」
「なんだと。ああ、そいつあカレルじゃないか」
「知ってる子か。よかった。怪我はなさそうなんだが、一応うちのギルドの救護所に運んでおく」
「わかった。そっちからも連絡するだろうが、こっちからも薬師ギルドに報告入れとくわ」
「おう」
「ところでディー。お前さんなんで犬と鳥を連れてるんだ?」
「あー、うーん。いろいろあってな。一緒に連れていきたいんだが」
「まあ、鳥は普通に飛んで入ってくるし、犬は街中で飼ってるやつもいるから構わねえが、どっちも登録はしとけよ。じゃねえと捕まって焼き鳥にされるぞ」
「分かってるさ」
「じゃあな」
私が見えないから、ディーが連れ歩いているように見えるのね。ディーがいてよかった。私だけだったらチョコとピピピを連れて街に入るのは無理だったわ。
「俺はこれから冒険者ギルドに行く。この子をおろしてから、洞窟の報告をしなきゃならん。あれはきっとダンジョンだ」
「そうね」
「そういえばあの時リアが動きを止めた炎犬だが、今はどうなってるんだ?」
「一応まだ止めてるんだけど、そっちに魔力をとられちゃうので解除しようかなと思ってるところ」
「そうか。だったらまた炎犬が外に出てくる可能性もあるな」
『出てこないだろう』
「ほう」
『あのダンジョンは今、休眠状態だ。しばらくは魔物を外に出さず、中で数を増やすことに専念するだろう』
「なるほど。あの奥から出てきたお前が言うなら、そうかもしれん」
「じゃあ、解除するね?」
「ああ」
ダンジョンでは、炎犬だけじゃなくて他にもかなりの数の魔物を時間停止していた。核を吸収しちゃってから魔力が増えたのでまだ余裕はあるけど、いつまた危険な目に合うかわからない。
スキルを解除すると、魔力がずっと細々と流れ出してたのが止まる。すぐに全回復するわけではないけど、今のこの身体だったらさほどしっかり休まなくてもそのうち回復すると思う。
「着いたぞ。ここが冒険者ギルドだ。リアとはしばらく喋れなくなるが」
「いいよ、大丈夫。喋りたくなったらチョコとピピピと話してる」
『ピピピ、ハナス。きらきらスキ』
『主が望むならいつでも語ろう』
冒険者ギルドは南門からほんの数分歩いたところにあった。
大通りに面して門があり、その内側は馬車を止められる広い庭になっている。その奥にある建物も大きくて、古い石造りの立派なものだった。
門も玄関の扉も大きく開いていて、今もたくさんの人が出入りしている。必ずしも冒険者ばかりではなくて、商人っぽい人もいれば全然何の関係もなさそうな普通のおばちゃんもいる。
いや、おばちゃんが剣の達人という可能性もなくはないこの世界。それはさておき。
ディーは慣れた様子で奥に入っていく。
私達も置いて行かれないように後ろをついて行った。
「あら、ディーじゃないの。ここに来るのは珍しいわね」
ディーが入った部屋にはきれいなお姉さんがいた。
白衣を着て、真っすぐな黒髪を後ろでぎゅっと縛ってる。机の上には茶色い薬瓶や、何やら見たことのない魔道具がある。部屋の中はカーテンで仕切られていて、その向こうにはベッドも二つあった。
これはまさに保健室。
「この子が魔物に襲われていたんだ。けがはないと思うが、診てやってくれ」
「いいわ。そこのベッドに置いてちょうだい」
「門番がカレルと呼んでいた。薬師ギルドの薬師見習いだと思う」
「オッケー。治療が終わったら私が薬師ギルドに連絡を入れるわ。あなたにも経過を報告するから明日また来て頂戴」
「ああ。じゃあ頼むわ、アレッタ」
ほほう。この美人な保健室のお姉さんの名前はアレッタ。素敵な響き。
「ところでディー、ペットを飼い始めたの?」
「いや、ああ、うーん。そういうことになるかな」
「どんな心境の変化かわからないけど、悪くはないわよ。しっかりしつけて、次からはこの部屋には入れずに外に待たせて頂戴」
「ああ、すまない」
「いいのよ。ワンちゃんと太り過ぎのムシクイ、かわいいわ。今度私のほうから会いにいくから触らせて頂戴ね」
『キライ。きらきら、コイツ、タベていい?』
「だ、だめだめピピピ。かわいいって言ったでしょ。太り過ぎってのはまんまるで可愛いのことよ」
『ぴぴぴ、カワイイ。まずいえさ、タベナイ』
「じゃ、じゃあな、アレッタ。明日また来るわ」
「バーイ」
ピピピが騒ぎ出したので、ディーが慌てて部屋を出た。
『大喰は人を食ったりはしない。こいつは口が悪いだけだ』
『ぴぴぴ、クエル。かぜのおう、バーカ、バーカ』
「めっ。食べちゃだめよ。人は餌じゃないの」
『やれやれ』
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