第46話 臨時のチームを結成

 北の辺境伯領で石化病が最初に確認されたのは六日前だ。辺境伯は病人を隔離して手持ちの薬を使いながら、すぐさま王都に使者を送ったという。同時にいくつかのギルドも王都支部へと伝令を飛ばした。その使者が着いたのが昨日のこと。つまり辺境伯領へは急いでも五日かかる。

 薬を届けるのは出来るだけ早い方が良いが、十分な量も必要だ。

 下処理を施した茸から薬を精製するのに二日かかるのを考慮して、薬師と冒険者たちへの依頼の期限は今日から三日後まで。各チームごとに自由行動で、できるだけたくさんの光香茸を集めること。

 採った光香茸の数で個別に報酬は出さない。つまり数を競争して互いに足を引っ張り合うようなことは厳禁だ。

 強制依頼ではないけれど、たくさんのチームが依頼を受けて出発した。


 夜は可能ならば農村に宿をとって泊り、無理な時は野営することになる。ディーはもちろん野営道具を持ってて、私も先の依頼の時にお泊りセットは買った。

 カレルも街壁の外に薬草採取に行ったりしていたので一応野営セットは持っている。だから食料だけ買い足して私たちも出発した。


「では改めまして、私はリア。よろしくね」

「ディーだ」

「カレルです。あの……ボク、精霊様を初めて見ました。感激です」


 そういうカレルは金髪のおかっぱ頭で、天使のようにかわいい顔をしている。それにとても真面目そう。

 華奢なので歩けるのか心配だけど、いつも薬草採取で出歩いているのでそこそこ体力はある方なんだとか。


「ところでディーさん、この前は助けてくれて本当にありがとうございます」

「ああ。無事だったからいいんだが、まだ十五だろう。一人で街の外に出るのは危険だぞ」

「ボク、親が死んで……今は一人で住んでます。早く一人前の薬師になりたくて勉強してました。ボクのスキルは植物鑑定なんですが、いろんな種類の草を、本を読んだり実際に見て触れたりすると精度が上がるんです」

「あそこは街壁の外とはいえ、まだぎりぎり安全な地区だったか。まさかあんなところに落とし穴ができてるとは思わなかったものなあ」

「ディーも落ちたしね」

「リアもだろう」

「私は吸い込まれただけだし」


 どうやら二人ともうっかりさんかもしれない。

 私がしっかりしなければ!


 ◇◆◇


 南の森はこの辺りでは一番多くの魔物が発生する場所だ。中心近くになるほどたくさんの魔物がいるが、光香茸も中心近くでよく発見される。

 しかし森の周りは農地があるゾーンなので、魔物の数も増えすぎないようにある程度は管理されている。


「南の森で一番危険な魔物はスースだ。イノシシに似ているんだが、魔力を身体強化に振ってるらしくてとにかく頑丈だし、まっすぐ突っ込んでくる。逃げるときは横移動をうまく使え」

「はいっ」

『スースは鼻がいい。たしか嫌いな匂いの花がある』

「スースが嫌いな匂いの花か」

「匂い……ボク、魔物除けの香は持ってますが」

「試す価値はあるな。森に入ったら使ってみてくれ」


 歩くのには自信があるというだけあって、カレルがいてもなかなかのスピードで進む。私はもちろんチョコに乗っている。ピピピは、いつものように好きに飛んで行っては何か咥えて帰ってくる。


『ぴぴぴ、タベルいい?』

「虫だね。食べていいよ」

『うまうま』

「よく慣れたムシクイですね。ピーピー鳴いて可愛い」


 カレルには、ピピピの声は普通の鳥の鳴き声に聞こえてるみたいだった。精霊の言葉に近いみたいで、ディーは半分くらい理解できるって。私とチョコは同じくらいの理解度。

 言葉が分かって良いのか悪いのかは微妙なところ。ピピピは案外口が悪くて、あれはマズいだのこいつ食ってやるだの言ってる。人と精霊が違うように、鳥の考え方もまた違うのだろうね。

 喋れると、そういうことが分かるから面白い。


 カレルもすごい良い子でよかった。

 それにさすがこんな依頼に未成年を駆り出すだけあって、その能力はチートっぽい。


「あ、そこは危ないです」


 森に入ったとたんにカレルが活躍し始めた。

 森の中って初めて入るんだけど、道らしい道がないんだよ。獣道があればいいほうで、背の高い草とか低木とかをかき分けて進まないといけないところもある。大きな木の根っことかあれば乗り越えるし、滑りやすい坂や岩場もある。

 私はチョコに乗ってるんでかなり楽をさせてもらってるんですけどね。


「その木から下がってるのは吸血蔦なので触らないでください」

「ひえ」

「植物系の魔物か」

「いえ違います。魔物じゃなくて普通の食虫植物の仲間です。小動物とかも捕まえます。人間はさすがに食べられることはないけど、蔦に捕まるとかぶれます」

「へええ、そんなのがあるんだ」

「ボクも実物を見たのは初めてです。森はやっぱりすごいなあ。知らない草木がいっぱいある」


 カレルの鑑定は植物特化で、知らない植物も特徴からある程度の性質は推測できたりするらしい。もちろんたくさん本を読んで勉強している基礎があってのことだ。

 ただし植物以外にはそんなに詳しくなくて、魔物がふいに出てきたときにはディーが一番に気付いて剣で切っていた。

 ディーのスキルは精霊魔法だけど、どっちかというと剣のほうが扱いやすいみたい。契約精霊ができたらまた違う戦い方になるのかもしれないけどね。

 私ももちろん、魔物に気付いた時にはちゃんと時間停止したりする。

 そんな訳で、私達は安定のチームワークで森の中を進んでいた。


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