第45話 緊急招集
冒険者ギルドの入り口はたくさんの人たちでギュウギュウだった。
そんな人たちを押しのけて、ディーが奥へと進む。
私も行きたいけど、あ、見失いそう。
ええ……どうやって行こう……。
「押すなよ誰だ一体」
「くそ、危ねえだろ。あ、鳥がいるぞ、犬も。ちっちゃい子か」
「何?ちっちゃい子?おーい、お前ら、チビが通るぞ、道をあけてやれ」
「気を付けろよ、嬢ちゃん。ディー、もっと気を付けてやれよ」
「あ、すまん、すまん」
人ごみが割れて道ができた。
「何があったんですか?」
流されるように奥に向かいながら問いかけてみると、何人かが口々に答えてくれた。
「緊急招集だ」
「中級以上のベテランに指名依頼が出るっぽいんだが、とりあえず手が空いてるやつは初級でも集まれって」
「ちっちゃい子? 副長が見かけたら連れて来いってよ。さっき」
「なんか大変なことがあったらしいわよ」
「おーい、ディー! 副長が呼んでたぞ」
「ちょっと、チビちゃんが通るわよ。避けてあげて」
す、すみません。
あと、これでも成人してるんで、チビちゃんはやめて。
などと言い返す余裕もなく、流されていくのであった。
ギルドの一階には面談のできる小部屋がいくつかある。入口に集まってた冒険者たちは順に名前を呼ばれて小部屋に入っていった。
私とディーも呼ばれた。
そこで待っていたのは副長のミランダさんだ。
「君たちは依頼で街を出てると聞いたが、帰ってきていたのだね。良かった」
「あの、何があったんですか?」
「皆には先に大まかに伝えたのだが、そうか。簡単に説明しよう。昨日北の辺境伯領の冒険者ギルドから急ぎの連絡が入った」
副長の話は私にも大いに関係のあることだった。
北の辺境伯領で珍しい病が発生したらしい。
北の辺境伯マグヌス・バルテルスとは、私の祖父のことだ。
◇◆◇
その病は「石化病」という。
まるで石のように徐々に体が硬くなり、動けなくなる。伝染病だが、そんなに移りやすいわけではないので壊滅的な被害は出ない。それでも一度発生するとしばらくの間、徐々に患者が増える。
発症してから完全に動けなくなるまでおよそ一か月。稀に自然に治る人もいるが、放置すれば衰弱して死ぬことの方が多い。
ただ、幸いこの病には薬があった。
そしてその薬はこの王都の特産品でもある。
だから石化病に効く薬は王家が買い取り管理している。
「リアっ、大丈夫か? 顔色が悪いぞ」
「……大丈夫。王は? 石化病の薬は王城に十分な量が保管されていたはず」
「今は薬の在庫がないとのことだ」
「そんな馬鹿な」
「信じられないことだが、あながち嘘と言うわけでもなさそうだった。何にしろ、城からは薬がだせない。石化病は初期にしっかり隔離すれば蔓延しないから耐えればいいという見解だ」
「それじゃあ今、病にかかっている人は死んじゃうじゃない!」
「うむ。我々としてもただ黙って放っておくわけにはいかないと思っている。そのための緊急招集だ」
副長の声は落ち着いていて、私に冷静さを取り戻させてくれた。
そうだ。
今の私は冒険者だもの。私に出来ることをしなければ。
「石化病の薬はある茸から作られる」
「じゃあその茸を取ってきたらいいんですね?」
「ああ。しかしそれは君たちには難しい。その茸は光香茸というのだが、よく似た茸が多くて見分けがつきにくい。その上採ってから処理するまでの猶予がほんの一時間ほどだ」
「じゃあ……」
「光香茸は薬師が直接採取して、その場で処理することになった。だがこの辺りで茸があるのは南の森の奥で、魔物も多い。薬師が作業に集中するためにも、護衛が必要だ。冒険者の皆には、薬師の護衛を指名依頼している」
「なるほどな。薬草の採取はそもそも冒険者向きの仕事じゃないが、護衛なら俺達にもできる」
「そして君たちにしかできないこともある。君たちに護衛してほしいのは、そろそろ来るはずなんだが……」
コンコン。
後ろのドアからノックの音がした
「ああ、ちょうど来たようだ。入っていいよ」
「失礼します」
「あ」
「この子は」
ディーがダンジョンで助けた子だ!
「紹介しよう。薬師見習いのカレル君だ」
「カレルと言います。十五歳です! 先日は命を助けていただき、ありがとうございます!」
「カレル君は見習いで、まだ光香茸の処理は出来ない。だがスキルのおかげで光香茸を見分けることができるのだよ。そして君たちはそれを劣化させずに持って帰る方法がある」
なるほど。私の時間停止スキルを使えば。
「君たちにしかできない依頼だ。しかしカレル君はまだ未成年で体力も劣る。君たちの負担は大きいだろう」
私達の、というよりもディーの負担かな。カレルが途中で歩けなくなったら、この前みたいに抱えて歩くことになる
「カレル君はその危険を冒す価値のあるスキル持ちで、本人もやる気がある。ギルドとしてはディーデリック君の実力は上級者だと考えている。緊急の依頼は率先して受けてほしい。だがリア君は昨日登録したばかりの初心者だ。もし君が引き受けてくれないというならばこの話は」
「やります」
食い気味に返事してしまった。副長の話を遮ってしまったのでカレルは呆気にとられているけど、ディーには笑われた。
「副長、こいつは大丈夫です。度胸もあるしチョコという護衛もいる。何よりこいつは普通に人の言葉をしゃべれる大精霊様だ。初級冒険者扱いするのは惜しいでしょう」
「そうだね。では正式に指名依頼を出そう。カレル君をよろしく頼む」
「はい」
「はいっ」
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