第44話 高級素材ツチノコ

 あらためて、侵入してきたものをまじまじと見る。

 大きな口と鱗に覆われた体、足はなくて蛇みたいと言えば蛇っぽいけど、体長は短い。寸胴で、頭から三十センチくらいはディーの腕よりも太いのに、そこからシュッと細くシッポみたいになってる。

 つまりこれは……ツチノコ?


「おっ、こりゃ凄いな。立派な袋蛇ふくろへびだ」

「袋蛇ってこれが? 全然、蛇っぽくないね」


 ツチノコじゃないのか。この世界にツチノコがいるのかどうかは知らないけど、前世でこれ見つけたら絶対ツチノコ認定されるよ。


「この辺りにいるとは聞いたことがない。かなり高く売れる魔物だ。やったな!」

「へえええ」


 あ、そうだ。

 袋蛇と言えば空間魔法付きの荷物袋の素材だった。

 なるほど、それは高く売れそう。

 時間停止したまま、養鶏所の外にもって出て、時間停止を解くと同時にディーがとどめを刺す。正直ちょっと怖い。チョコやディーが魔物を殺すのはもう何度も見たけど、戦闘中は興奮状態だからなあ。

 冷静になっている今は、ちょっとだけ……ね。


「急いで解体するが、怖いなら見なくていいぞ」

「ううん、見とく。手伝えないけど、ちゃんと見てた方が良い気がする」


 袋蛇は頭に急所がある。ディーは手早くそこを剣で突いた。そのあとは皮を剥いで内臓を取り出す。皮も素材になるが、内臓が一番高い。


「袋蛇には胃袋が二つあるんだ。ひとつは普通の消化するための胃袋で、もう一つは獲物を保存するための異空間になってる。時間は止まっていないから長く保管は出来ないが、数日なら生きたまま獲物を入れておけるんだ。だからもしかしたら」


 そう言いながら取り出した胃袋をひっくり返すと、その大きさからはありえないくらい大量の物が出てきた。その多くは骨や羽なんかの食べたものの残骸だけど、なんと、生きた鶏が三羽も出てきた!

 ちょうど仕事に出てきた依頼主も後ろで見学してて、驚きの声をあげた。


「この鶏は養鶏場に返そう」

「いいのか?そうしてくれるとありがたいが」

「俺たちはこの袋蛇で十分いい報酬になるからな」


 依頼主のおじさんは喜んで鶏を抱きかかえるとその体を確認した。少し弱ってるけど、全然傷ついたりもしていないって。


「しかし袋蛇がこの辺りにいるとは驚きだな」

「ワシも知らなかったさ」


 袋蛇はその性質から、体重がとても軽い。そのため蛇とは思えないくらい跳躍できるし、跡を残さずに音も静かだ。鶏を飲み込める魔物にしては大きさがかなり小さいので、侵入しても気付かれにくい。

 鶏をそんなに何羽も獲っていたなら三日おきに来る必要もなさそうだけれど来ていたということは……。


「もしかしたら、この近くで繁殖してるのかもな」

「うむー、だとしたらお二人に相談なのだが」


 依頼主は鶏の世話を他の人に任せて、私達を庭の片隅にある東屋へ引っ張っていった。

 ベンチに座って待っていると、奥さんらしき人がパンとスープとゆで卵を持って来てくれた。


「言い忘れてたが、朝飯くらいは出そうと思ってたんだ」

「わあ」


 具だくさんの野菜スープ、すごくおいしそう!パンも卵もたくさんあるので、チョコとピピピにもあげてよさそう。


「すまんな」

「なんのなんの。ところで相談なんだがな。依頼は昨日から三日間なんだが、今日で終了にしてもらえないだろうか」

「え?」

「あ、いや、もちろん最初に提示した三日分の依頼料は出すさ。ただ袋蛇はもう捕まえたし、うむ、その……」


 あ、なるほど。

 繁殖しているかもしれない袋蛇、自分で捕まえようという考えか。


「ははは。いや、袋蛇と分かれば捕まえようもあるからな」


 おじさんは、ばつが悪そうに頭を掻きながら言った

 どうするかな。

 私はディーと顔を見合わせて、うんと頷いた。


「そうだな。また袋蛇が出て捕まえるのが難しかったら、もう一度ギルドに依頼を出すといい。俺たちは三日分の報酬と捕獲の報酬、それにこの袋蛇一体を貰えればいい」

「そう言ってくれるとありがたい。報酬はギルドに振り込んでおく。書類にサインしよう」


 へえ。依頼料って現金で貰うわけじゃないんだ。

 あ、そうか。これから税金とギルドの手数料を引かれるんだった。直接受け取って途中で抜いたりしないようになってるわけね。


 朝ご飯のお礼を言って、養鶏場を後にした。

 おじさんもニコニコ顔だ。うまいこと袋蛇が見つかるといいねえ。そして素材が市場に出回れば、たくさんの人が喜ぶだろう。


「ちょっと急ぐか。こいつは早く持って帰ってちゃんと処理してもらった方が高く売れるんだ」

「そっか、じゃあ、って、ちょっと待って!」

「なんだ?」

「それ、私が時間止めとくよ」


 どうも、まだ冒険者らしい使い方に慣れてない。

 今までは人に命じられて接着剤代わりに使っていたし、そうじゃなければ解除のタイミングを見計らえる自分の物にしか使えないって思ってた。

 でも、今は一緒に行動してるんだから、時間停止を掛けてギルドに戻って私が解除して渡せばいいんだよ。そうすれば新鮮そのもので買い取り価格もきっと高くなる。生きた魔物じゃないから街に持って入っても問題ないよね!


 解体した物はそれぞれがひとつずつのパーツだから、腐りそうなものだけ時間停止してみた。

 胃袋の近くから出てきたビー玉くらいの白い魔石は、腐らないので止めなくて大丈夫。

 胃袋の中身からも小さい魔石がいくつか出てきた。どこかで魔物を食べてたのね。

 あとはほぼゴミだけど、それは依頼主さんが処分してくれることになった。


「ありがとうございます」

「ワシの方こそ礼を言うよ。しっかりした冒険者が来てくれてよかった」


 照れるなあ。

 チョコの背中の上で振り返って、依頼主さんに手を振った。


 ◇◆◇


 さて思いがけず仕事が早く終わったので、朝のうちに街に戻ることになったのだけれど……。

 冒険者ギルドの受付は人がいっぱいで、なんだか大変な騒ぎになっていた。

 なになに?

 一体何があったの?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る