第43話 ディーの精霊魔法とチョコに乗った私
ディーが壁際で寝てる間、養鶏場の建物の中をチョコに乗って、柵沿いにゆっくりと回る。最初は不審げに遠巻きにしていた鶏たちだけど、慣れてくると今度はみんなで周りを取り囲んできた。
チョコよりもでかいな。嘴、尖ってるし怖っ。
けどしばらく見ていて飽きたのか、今はもう全然気にせずに地面を突いてる。建物の中にはちゃんと餌場もあるけど、自然に落ちてる何かも食べるのね。
鶏のおかげで退屈することのない見張りだった。
あと、ピピピもちょくちょくどこかでスライムを見つけては持ってきて見せてくれる。スライムは相変わらず気持ち悪いけど、何度も見て少し慣れた。
特別大きい個体はいないと思う。
「食べていいよ」
『うまうま。きらきらスキ』
陽が沈み、辺りが徐々に暗くなるとピピピはディーの寝ていた毛布に潜り込んだ。そこで寝るつもりらしい。代わりにディーが起きてきた。
「リアはちょっとしか寝てないが、今のうちにもう一回寝とくか?」
「いや、いいよ。この身体はあまり眠くないし」
「そか。じゃあ飯でも食うか」
「おー」
昼間は確認のためにぐるぐる動き回ってたけど、養鶏場の外で携帯食を食べ終わったら、そのまま柵の内と外に分かれてじっとしておく。
今回の目的は侵入者が来ないように追い払うんじゃなくて、どこから、何が侵入するかを確認して、あわよくばそれを捕まえようという依頼だ。なるべく気取られないほうがいい。
私とチョコが柵の外、ディーは柵の中でピピピの側に座った。
鶏たちは昼間からいる私たちのことはもう気にせず、各々が気に入った場所で眠る態勢に入ってる。時々何かの拍子に騒ぎ出す鶏もいるのでそっちを見るけど、特に異常はなさそうだ。
すっかり暗くなったけど、依頼人が言ってたように街灯がいくつかあって外を照らしている。柵の内側は常夜灯のような薄暗い灯が四隅にあった。
昼間のようではないけど、目もだんだん慣れてくるので、動きがあれば分かりそう。
そして暗くなるとよくわかるんだけど、あっちこっちに蛍よりもっと小さい光が飛んでいる。
『あれは精霊だ。明かりの周りにいるのは光の精霊が多い。向こうで飛び回っているのは風の精霊たちだ。他にもいろいろいる』
「よく見分けられるわねえ。ホコリくらいの大きさなのに」
『そんなに小さくはない。中心のほうが明るいので、主に見えているのは中心だけなのだろう』
「あー、なるほど」
前にピピピが捕まえてきた精霊は綿毛のようだった。毛の部分は遠くを飛び回ってたら見えないかもしれない。
小声でそんな話をしていると、いくつかの精霊がこっちにもフワフワ飛んできた。「面白いモノ見つけた!」って感じかな?
そしてすぐにふわふわと飛んで行ってしまう。
鶏より飽きっぽいな。
『小さき精霊とはそんなものだ』
「大きいと違うの?」
『かなり違う』
「へええ。チョコはまた飛んでいきたいとは思わないの?」
『いずれ思うかもしれぬ。だが今はこの身体が気に入っている』
「そかー」
チョコの毛を撫でた。見た目よりもずっと柔らかい毛だ。いつか別れる日が来るまで、いろんなところに行って、いろんなものを食べよう。
気まぐれに飛び回る妖精たちを眺めたり養鶏所の気配を気にしたりしながら、夜を過ごした。
そのうち空が少しだけ色付き、私は今日は何も現れないなって思い始めていた。
カタン。
小さな音が養鶏場の中で響くと同時にチョコが鼻先で私をつついた。
『主、私の上に』
「何? うん、分った」
膝を折ったチョコの手綱を掴んで、飛び乗る。こんなとき身体が軽いのはいい。
足を鐙に掛けると、チョコが立ち上がった。
『主、しっかり掴め』
「了解」
『飛ぶ』
「え」
てっきり入り口まで走るのかと思っていたら、ほんの少し助走をつけてからバネのように身をかがめて、高く跳躍する。
「ひええ~」
思わず叫んだ時にはもう養鶏所の中にいた。チョコはかまわずに走る。
少し離れた場所で、一羽の鶏がもがいていた。ディーは反対の端にいるのでかなり遠い。
「ディーっ」
「今行く」
私とチョコが乱入したので鳥が騒いで、ディーも異変に気付いた。けど侵入者の周りは、襲われてる鶏以外は気付いてもいないっぽい。それくらい静かな侵入者だ。
「リア、見えるか?」
「まだ。どこだろ?暗くて」
ディーより早く駆け付けたのと、私のスキルは離れたところから使えるからね。ディーは右手に剣を、左手にはロッドを持ってて、その左手を振った。
「魔力を渡す、明かりを頼む」
精霊たちがざわめいた。
小さかった精霊が、あちらこちらでぶわっと大きく膨らんで辺りを照らし始めた。その明かりで視界が広がる。
「あっ、そこの鶏の陰にいるみたい」
『飛ぶ』
「ひええ~」
ついつい、また声をあげてしまった。でも、見つけなきゃ。高く跳躍したチョコの首に必死にしがみつきながら下を見ると、もがいている鶏の向こう側に、何か黒いまるっこい影がある。
「見えない、あとちょっと……」
『ひかりゅー』
『ひかりゅー』
二つの明かりがふよふよと漂ってきてその辺りを照らした。
「見えた。止まれ!ストップーっ」
「やったか?」
「うん」
侵入者は鶏を喰おうと大きな口を開けたまま転がっていた。
駆け寄ったディーはそれを確認してうなずく。
「他にいないか確認しよう」
「了解」
養鶏所の中と外をぐるりと見て回ったけど、今のところもう他に同じようなのは
いないみたい。
侵入者のところに戻ったときにはもう大きく光っている精霊はいなくなってた。その代わりに、まぶしい朝日が昇ってきた。
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