第38話 ギルドカードと装備

 机の向こうで書類と格闘していたギルド長がこっち側にきた。

 腕組みして私を見下ろす。

 副長は怖くないって言ったけど、ちょっと怖いぞー。


「しかしちっこいな。人形に入っているとはいえ、こんなにハッキリ話す精霊は珍しい」

「ビル、リアさんです。レディーにそのような言い方は失礼ですよ」

「あー、すまんすまん。ギルド長のビルベルトだ。堅苦しくしないでいいぞ」


 あー、副長のほうが強そうだ。

 だったら大丈夫かな?

 ちょっと安心。


「ところでミランダが勧誘したと言ってたが、お前さん、ここに来たってことは冒険者になる気か?」

「はい! 私、冒険者になります」

「いい返事だ。ミランダの見立てなら間違いねえだろ。冒険者登録を許可する。カードを作るから後で書類にサインしてくれ。詳しいことはミランダに聞いてくれな」


 軽い。そんなにお気軽でいいの……。

 それだけ副長の信頼が厚いってことか。


「ありがとうございます」

「それとディー、昨日はお疲れさんだったな」

「はい」

「お前のせいでまた書類仕事が増えてなあ……」

「ビル」

「へえへえ。今後のことだが、あのダンジョンは国に報告して、おそらくこのギルドに管理が任されることになるだろう。ミランダの見立てでは、ダンジョンはさほど大きくはなさそうだ。調査に潜る時にはまた依頼を出すと思うが、その時はよろしく頼む」


 ダンジョンは基本的には国が所有者になり、その土地の領主が管理を請け負う。

 うまく運営すれば素材の宝庫なので、ダンジョン発見は喜ばれる。ただし放置すると危険だから、領主から実際の管理を任されるのが冒険者ギルドだったりする。

 あの辺りは元々魔物の発生する森のすぐ近くなのでたぶん国有地だ。国から直接管理を任されることになるはず。


「今日は偵察の分の報酬と、薬師見習いを救助したんでその報酬が出てる。ダンジョン発見の報酬は国の決定が降りてからになるが、そこそこまとまった金額になるだろうから期待してろ」

「ありがとうございます」

「そこのちっこい嬢ちゃん……じゃねえ、えっと、リアだ。ディーとリアはパーティーを組むんだよな?」

「はい、リアが良ければそのつもりです」

「もちろん。こっちこそお願いします!」

「よしよし。じゃあ報酬の割合もついでに今日決めとけよ。救助とダンジョン発見の報酬は二人に振り分けることになるからな」


 なんと、私も報酬貰えるんだ……やったあ!

 執務室を出て一階の受付に向かいながら、ディーからギルドのシステムについて聞いた。

 冒険者ギルドだけじゃなくてどこのギルドでも、報酬はギルドカードに振り込まれる。ギルドカードが身分証とキャッシュカードの役割も持っている。庶民は成人したら全員何らかのギルドに所属するので、みんな現金はあまりたくさんは持ち歩かないらしい。

 ギルドカードは魔力を登録しているので、自分しか使えなくて安全だ。


 ちなみに貴族の子弟は自分でお金を払って買い物をするということが基本ない。お店に行ってショッピングとかしないし、買ったとしても後で請求が来て家の者が払う。なので未成年のうちは物価とかあまり知らない。

 それはさておき。

 パーティー単位で依頼を受けた場合も報酬は各自に支払われる。だからパーティー登録するときにあらかじめ配分を決めておく。極端に偏った配分は認められないけど、多少の差はあることも多いみたい。

 私達はきっちり半分ずつにしようということになった。

 そのほうがやっぱり後々揉め事も少ないんだって。

 ディーはもうベテランで私は初心者だけど、お金全然持ってないのでありがたく提案を受けることにした。その代わり、パーティーリーダーはディーで、ちゃんと指示を聞くって約束だ。


「それでは、リアさん、これがあなたのギルドカードです」


 ギルド職員のカスペルが直接私にカードをくれた。

 なお、カウンターに背が届かないので失礼ながらカウンターの上に立たせていただいてます。

 ギルドカードは薄い金属の板で、キャッシュカードを半分に切ったくらいの大きさ。端に穴が開いてて、長い紐が通してある。カードには名前も刻印されているが、それはただの目印にすぎないらしい。装飾のような美しい模様が魔力回路で、持ち主の魔力が記録されている。預金や各種個人情報はギルドに置いてある魔道具に保存されているらしいので、なんだかかなりハイテクだ。


「昨日薬師の少年を助けた時にお手伝いしてくださったとか。その報酬が入っています。使いやすいように貨幣にするか、カードにチャージしておきましょうか?」

「チャージ!?」

「あ、リアさんは精霊なのでお金の使い方には詳しくなかったですね。説明します。ギルドで働いたお金はギルドに来ればいつでも引き出せます。引き出したお金をカードにチャージすると、貨幣を持ち歩かないでもいろんな場所で使えます。貨幣は重いですから。もちろん現金しか扱わない店もたまにありますが」

「……すごい」

「ええ。ここ十年で人間の世界もずいぶん魔道具が発達したのですよ」


 最初に私を見た時はすごくびっくりしてたカスペルだけど、もう平然と話してる。

 この世界には私よりももっと不思議な存在も多くて、いちいち驚いていられないんだろうな。『人形ひとがた』という魔道具が、冒険者たちにはそれなりに知られているからというのもある。何も使わずに自分で顕現できる精霊はほとんどいないけど、人形に入れる精霊はそこそこいるということだ。

 カスペルに説明してもらって、とりあえず全額チャージしてもらった。私がもらった報酬は五千ギルで、これは薬師ギルドから支払われている。


「えーっと、首に下げておく人が多いので紐を付けているのですが……」


 普通の人の首に下げる用なので私には長すぎる。

 カードも大きいけれど、一応持てないことはないって感じ。アクセサリーにしては存在感あり過ぎだね!

 でもせっかくだから自分で持ちたい。


「では少し紐を短くしましょう。……はい、できました。それからそちらの犬と鳥の所有者もリアさんに移しておきましたので、早めに首輪とかを付けてくださいね」

「ありがとう!カスペルさん」

「あれ僕、名乗ったっけ? ……ま、いっか」


 カスペルが首をかしげながら小さい声でぼそぼそっと呟いてる。そっか、昨日名前を聞いた時は私、まだ透明だった。

 いろいろ気を付けなきゃ。

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