第39話 素敵な人たち

 受付で用事を済ませた後、救護室で昨日助けた少年の話を聞いた。

 助けた人はその後が気になるだろうというから、一度は経過を教えることになってるんだって。

 中にいたのは昨日と同じくアレッタさん。私も一緒に部屋に入ったらちょっとびっくりされた。動いて喋る人形にんぎょうを見てちょっとビックリする程度なのが、さすがこの世界だなあ。

 人形じゃなくて精霊が入ってると知ったからだとしても。


「あの子はしばらくここで寝てたけど、ちゃんと起きて自分の足で帰ったわ。疲労と、それに魔力切れが酷かったの。何度もお礼を言ってたわよ。礼儀正しい子ね」

「目が覚めたんなら良かった。じゃあ行くわ」

「どうもありがとうございます」

「リアさん、こちらこそ救助活動ありがとう。冒険者ギルドに入ったのなら、けがをしないように気を付けてね」


 ◇◆◇


 ギルドでの用事が終わったら、次はお買い物だ。


「なんと、精霊様はこんなに可愛らしいお姿だったとは」

「昨日ここに来た時には大きかったんですけど」

「いやいや、大きくとも小さくとも、とても可愛らしいことは、このばばにはよくわかりますぞ」


 私達は今、『ババァの魔道具屋』に来ている。

 直接話せるのは嬉しいね。

 おばあさんは私がディーとパーティーを組んだのを喜んでくれた。

 そしてチョコを見て目を細める。


「そちらも何という神々しいお姿の精霊様であることか」


 うんうん。神々しいというか、すごくモフモフで可愛い精霊なのだ。

 チョコが褒められていて私は嬉しいが、チョコは全然どうでもいいらしい。店に入ってぐるりと一回り見てから、床にうずくまった。

 ちなみにピピピは朝から、ずっとチョコの頭に止まって何か喋ってる。


 さて、この店に来たのは私の装備を整えるためだ。防具も欲しいけど、一番に欲しいのは靴なんだよね。

 今日は朝ご飯を食べながら、まずはディーにお金を借りて装備を整えようって相談してた。それが思いがけず私にも報酬が入ったので、少しならば自分のお金で揃えられそう。

 ……と思ったんだけど。


「うむ。精霊様の大きさに合う靴はさすがにここにはないのう」


 それはそうね。

 残念。

 がっかりする私を見て、おばあさんは奥の方から小さな革の巾着を出してきた。


「これはわしからの祝いの品じゃ。精霊様は冒険者になったからのう。ディーが冒険者になった時もひとつロッドをやったものよ」

「もしかしてあのすごく可愛い」

「そうじゃそうじゃ。可愛かろう」

「うんうん」

「この巾着も悪くないぞ。魔銀で描かれた回路が美しい、空間魔法の小銭入れじゃ。精霊様なら背負い袋によかろうて」

「すごい……本当に貰っていいの?」

「ああ。いいともさ。冒険者はこれから先ずっと、良い客になるでな」


 悪そうな顔でにやりと笑うおばあさん。

 けどそういうの、嫌いじゃない。

 なんの見返りもなく赤の他人にプレゼントする人よりも何かの見返りを期待してるほうが人間らしい。たとえそれが私の気を楽にするための優しい嘘だったとしてもね。

 よーし。

 これからじゃんじゃん稼いで、いっぱいここで買い物するぞー!


「靴は知り合いの職人に作れそうな者がおるので、よければそちらを紹介しよう」

「おばあさん、ありがとう!」


 ◇◆◇


『ババァの魔道具屋』のおばあさんが紹介してくれた職人の家も、ちょっと奥まった場所だけどわりと近くにあった。

 主に革を使った魔道具を作る仕事をしている人で、とても無口な大柄の男の人だ。

 手も座布団みたいに大きいのに、小さな細工も得意らしい。工房には大小さまざまな作りかけの魔道具が転がっているが、どれもきれいな形で縫い目も整っている。


 無口な上に無表情で、私を見てもびっくりしている素振りすらない。そしてとても丁寧に足のサイズや体のサイズを測ってくれた。


「……三日」


 三日で仕上げてくれるらしい。


「……二千八百ギル」

「あ、はい」

「……三日後」


 お支払いは受け取りの時でいいらしい。

 ドレスの上から付けられる簡単な防具も、私サイズで作ってくれるそうだ。

 貰った報酬の半分以上が飛んでいくけど、特注の装備だもん。それくらいで済んでよかった。実際もっと高いと思ってたし、足りなければディーに借りないといけないところだった。


「依頼を受けるのは、装備ができてからだな」

「うん。最短で三日後だよね。ディーはそれまでどうする?」

「一人で依頼を受けてもいいが、急ぎの依頼がなければ休みをとろうと思ってたところだ。街を案内するさ。行ってみたかっただろ?」

「……。あのさ、ディーはなんでそんなに私に親切にしてくれるの?」

「そりゃあ俺がいい奴だからな……って冗談でごまかすのはやめとくか。リアは変なところで真面目そうだ」

「そんな真面目でもないけど」

「俺がリアに親切にしてるのはひとつはダンジョンで炎犬に囲まれてた時に助けてもらったからだ。そしてもうひとつは俺のスキルが精霊魔法だから、かな」

「私、今は精霊みたいな存在だけど契約とかしないよ?」

「俺は精霊魔法持ちだからリアのことが見えるだろ? リアは一人で、誰にも見られなくて誰とも喋れなくて、でもふつうの精霊よりもなんだか人間っぽくて寂しそうに見えた」


 それはそう。誰にも見られないのはとても自由で、とても寂しかった。


「俺には見えるし喋れるからな。それだけだ」


 そか。

 この、お人好しめ。

 私は図々しいから、しっかりお世話になっちゃうのだ。


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