第40話 お披露目と買い物
私の装備ができるまでの三日間は、約束通り街の中を散策した。
ディーの説明によると、散策の目的は私とチョコとピピピのお披露目でもある。
最初はだれもがびっくりするけど、わりとみんなすぐに慣れてくれた。
これから冒険者活動をするのに、正体不明の人外がいきなり混じったらどんな混乱が起きるか分からない。一日目の夜には行く先々でもう噂が広がってて、驚かれることもなくなった。
もうひとつの目的はお買い物だ。雑貨屋さんでチョコにピッタリの緑色のリボンを買った。飼っているという目印は首輪でなくてもいいと聞いたので、チョコが気に入ったものを選んだ。
故郷を思い出す色なんだって。チョコの顔の周りに少しある青みがかった毛の色によく似合う。
ピピピには伝書鳥用の足環を買った。ピピピに聞いたら、おいしい色のがいいと言って水色にした。
それ……スライムの魔石色やね。
ピピピはきれいな空色の羽を持っているから水色の足環はとっても合うけど、そうか……スライム色かあ……。
それから、最近この辺りで流行っているという屋台に連れて行ってもらった。
薄く切ったパンを蜜に浸してから軽く焼いたお菓子だ。女子が行くようなカフェにはいかない男たちにもこれは買いやすいと好評らしい。
一袋買って、私は一切れ食べたらお腹いっぱい。チョコが三切れ、あとはピピピが食べた。ピピピは肉食寄りの雑食。
ディーは自分で買ったのを一切れ食べてから、残りを荷物袋に入れた。
「これは日持ちがするから、持っておくといざという時に良いんだ」
「え、そうなの!? ちょっと待って、私も持っときたい」
空間魔法の荷物袋は、安くはないけどそんなに高価な品ではない。人間のスキルでは珍しいけど魔物には空間魔法持ちがわりといて、例えば
冒険者には必須な魔道具としてディーも獲物用の大きなのと自分の荷物を入れる少し小さめのを持ってる。
ただそれには時間停止の機能はなくて、ただたくさん入れておけるだけ。私がおばあさんにもらった巾着も、もちろんそう。
だから時間が経てば、中に入れたお弁当も獲物も腐ってしまう。高級な袋は冷やす機能も付いてるのがあるらしいけど、維持費がすごく高価になる。冷凍の魔道具はそれよりは一般的で、使いたい時だけ魔石を使うようになっている。電気代が高すぎて普段は電源を抜いてる冷蔵庫みたいなものだね。
時間停止の付いた荷物袋は国宝級で、とても普通の冒険者が買えるようなものではないらしい。
時間魔法自体がとても珍しいんだって。
うん。それは知ってる。
「あ」
「どうした?」
「もしかして私が時間止めて入れとけばいいんじゃない?」
「止めたやつって、空間魔法の荷物袋に入れていいのか?」
「大丈夫と思う。出入り口が繋がってるから」
私のスキルで止めたものって私に繋がってる間は止めておけるけど、例えば強めの結界とかで切り離されたら効果が切れる。
荷物袋は異空間だけど、物を出し入れするためにちゃんとこっちと繋がっているので問題ない。
「あー、それは便利そうだな。リアのは時間止めとくといい」
「ディーのは?」
「この前のダンジョンの時みたいにリアが迷子になったら、俺が食べれなくなるだろ」
「……迷子じゃないし」
そうだった。
私のスキルの一番使えないところはそれだ。
時間停止の魔道具はきっとすごく便利だけど、それは自分で出し入れできるから。わたしがいちいち時間を止めたり解除したりするのは全然実用的じゃない。
「いいんじゃないか?自分さえ便利に使えたら十分じゃないか」
「でもそれじゃあ大して人の役に立たないよ」
「十分だろ。リアは冒険者なんだ。自分のスキルはまず自分の役に立てないとな」
「それでいいのかな?」
「いいさ」
いいのか。
いいのか~。
「もう一袋、お菓子買ってくる! チョコ、行こう」
『主の望むとおりに』
『ぴぴぴ、おやつスキ』
◇◆◇
宿屋はとりあえずしばらく、同じところに泊ることにした。
まとめて先払いで支払うとかなり安くなるんだけど、手持ちが少ないのでしばらくは日払いで。
あとは装備の代金を支払うと、救助の報酬はほとんど無くなっちゃうなあ。
そして三日目、無口な職人さんのお店に装備を受け取りに行った。
「……試着」
「あ、はい」
職人さんが差し出したのは、白っぽい革で作られた丈の短いワンピースだった。
「すごっ……めっちゃ可愛い」
シンプルだけど切り替えやダーツで、上半身は体にぴったり合うように作られている。肩はベルトで、袖はない。腰から下はふんわりとしたフレアスカートで膝よりもかなり上のミニ丈。重ね着用だからワンピースというよりジャンパースカートかな。
靴はショートブーツ。頭を守るのは銀線と魔石を編んで作ったカチューシャ。
それに淡い桜色の布で作ったパンツとシャツもある。
「これもいいの?」
「……代金は貰った」
冒険者として最低限防御したい胸から腰にかけては革で守れる。本当は肘や膝も防具を作りたかったけど、私が小さいから関節の防具は動きを妨げるんじゃないかと思って、布の服にしたんだって。
試着するのに、隣の部屋を借りた。
しかしこの着たきりドレスをどうしよう……。
脱げるといいんだけどな。
そう思いながらボタンに手を掛けると、案外簡単に外すことができた。
このドレス、脱げるんだ!?
透明な身体になった時に着てたドレスだから脱げないかと思ってた。
そして不思議なことに、脱ぎ終わったドレスはさらさらと光になって私の身体に吸い込まれた。
なるほど、なるほど。
どういう仕組みか分かんないけど、まあいいわ。
桜色の服を着てみたけど、ぴったり。それに革のワンピも靴もちょうどよかった。
薄いけれど丈夫そう、それに柔らかくて動きやすい革だ。
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