第41話 初級冒険者のお仕事デビュー

 装備ができるまでの三日間でやったことがもう一つある。

 私の戦闘訓練だ。

 ダンジョンの中では無我夢中で魔物の時間を止めていたが、冒険者となると、時間を止めた魔物では素材にも何にもならない。スキルを止めたら生き返るし。

 かといって身体が小さくなったので、私が魔物を仕留めるというのは現実的ではない。だからそこはチョコやディーにどうしても頼ることになる。つまりパーティーの連携のとり方をいろいろと試してみたわけ。

 実際に魔物と対峙したときに練習通りに動ける自信はまだない。でも練習したことで、一人じゃない安心感を感じられた。

 ディーもチョコも強い。

 私は初心者だけど、足手まといにならないように頑張ろう!


 ◇◆◇


 新しい装備を身に着けて冒険者ギルドに行くと、いろんな人が声を掛けてくれた。

 私は小さいからそうでもないんだけど、チョコが目立つのでね。

 そうそう。チョコには目印のリボンの他にもハーネスを付けてもらっている。私が乗った時に掴まる鞍の代わりだ。道具屋さんに貴族のペット用の中古でちょうど良いサイズがあったので、それに私が掴まる手綱とあぶみを付けてもらった。中古なんだけど「貴族用でいい素材を使ってるから」ということで、案外お高かった。


 そんな訳で、手持ちのお金も底をついてしまいました。

 まあ、初期投資はしかたないね。

 だから今日は、お仕事を探しに来たのです!

 私が冒険者として依頼を受けるのは初めてだから、やり方は分からないけど、とりあえず掲示板見るといいんだよね?


「そうだな。訓練もかねて、簡単な依頼を選ぼう」

「はーい。簡単っていったら薬草採取とかかな?」

「薬草?ああ、薬素材を集めるのは俺達には無理だ」

「そうなの?魔物を倒すより楽なのかと思った」

「薬草はただ採ってくればいいってわけではないからな。いろいろ面倒なんだ」


 薬草は採取の仕方から下処理とか、保管の方法とか、何かと難しいらしい。だから採取に行くのはたいていはその専門の冒険者か薬師なんだって。薬師だけだと危険な場合は冒険者が護衛に付くこともあるんだけど、それは中級以上の冒険者のお仕事だった。

 薬草採取や護衛は無理だけど、新人の仕事は他にもいろいろある。

 街中のこまごまとした雑用もあるんだけど、私達は連携の確認をしたい。

 だから街壁の外に出る依頼の中から農場の害獣退治を選んだ。


「害獣ってどんなのだろうね」

「鶏が襲われるって話だから、何だろうなあ。獣ならキツネか、野生の犬か猫か。魔物だったらなんでも可能性はあるが……。スライム程度なら冒険者を雇ったりはしないだろ」

「何に襲われてるか分からないってのが困るよね」

「そうだな。大きい獣だったら壁を壊したり足跡を残したりすることが多いんだ」

「じゃあそんなに大きくはない魔物かな?」

「かもな。行って詳しく話を聞けばわかるだろう」


 この辺に住んでる獣の話とかを聞くのは面白い。

 学園にいた頃には一応国内によく出る獣や魔物についての講義はあったけど、地域によって全然出てくるのが違うってことまでは習わなかった。

 王都近辺で一番恐れられている魔物はレッドベアだが、南門の近くには出ないらしい。


 街門に着くと、外に向かう人たちの列に並んだ。

 冒険者もけっこういて、私にも手を振って挨拶してくれる。そしてどうやら近くにいる冒険者以外の人たちに説明してくれてるみたい。

 門番もすでに私のうわさは聞いてたみたいで、特にビックリもせずに話しかけてきた。


「ディー、ついにパーティー組んだんだって? えらくかわいい姫ちゃんじゃないか」

「見かけはともかく、こいつは強いぞ。ほら、さっさとカードチェックしろよ」

「へいへい。ディーは通っていい。姫ちゃんは、……。おっ、ちゃんとカード持ってんだな」

「リアです!」

「小さいのに威勢がいいな!帰りに獲物見せてくれよ」

「ガロ!」


 なんか、ちょっと絡まれてるのかな?

 なんて答えたらいいんだろう?

 とか思っていたら、隣の列をさばいてる門番さんが声を掛けてくれた。


「つまんねえこと喋ってねえでさっさと仕事しろ。リアさん、すまねえな 。そいつ可愛い女の子には必ず声を掛ける主義なんだ。後で怒っとくよ」


 やだ、可愛いですって!

 だったらしかたないな。許す。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る