塔に幽閉された婚約破棄令嬢は、いつか自由になることを夢見ながら眠りにつきました。……のはずが幽体離脱して好きなところに行けるように!

安佐ゆう

第1話 プロローグ

「もうだめ。終わった。詰んだわ……」

 綺麗な真っ白いトイレの前で、私はがっくりと膝をついた。

 事の発端は、学院を卒業していよいよ成人するというパーティーでの騒ぎだった 。


 ◇◆◇


「婚約破棄だ!」


 ずっと私に隠れて浮気していた婚約者が、なぜか逆切れしてそう叫んだ結果……。

 私はたった一人、城の片隅にある小さな塔に幽閉されることになった。

 その時の正直な気持ちを言うならば、婚約破棄そのものは私にとって好都合だった。



 私の名はコルネーリア・ブラウエル。

 ブラウエル公爵の第一子として生まれ、十二歳の時にこの国の王太子ダミアン・ローデヴェイクの婚約者になった。

 きっと国中の誰もが羨む境遇。だけど、似合わないなって自分ではずっと思ってた。

 その理由はたぶん、私に前世の記憶があるからだ。


 前世の私は、こことは全く別の世界に暮らしていた。ごく普通の庶民として生きて、そしてたぶん普通に歳を取って死んだ。死んだときの記憶はない。前世の記憶自体、今はもう薄く掠れかかっている。

 それなのに小さな頃から、きらびやかな貴族社会のなかにいるのがなんだか場違いな気がして、あまり馴染めなかった。

 ましてや、どんなにイケメンでも浮気するような王太子のことなど全く好きになれない。


 もともと浮気っぽい性格なのは早い時期に分かっていた。今回の婚約破棄の発端になった新しい彼女とのことも、全く隠せてなくて見え見えだった。

 けれど、婚約者は私より格上の王太子。それに親同士の決めた婚約だから私にはどうしようもない。仕方ないなあって思いつつ放っておいた。

 だから、事態が思いのほか大きく動き始めた時には、すっかり後手後手に回っていて、どうしようもなかったのだ。


 王太子は私が浮気相手の彼女に嫌がらせをしたと言う。

 とんだ濡れ衣だ。

 まるで私が、婚約者のことが大好きで、浮気相手に嫉妬したみたいじゃない。

 やだやだ

 嫌がらせをするほど王太子にもその相手にも興味はなかったのに。


 そんな訳で、婚約破棄自体は私にとって実は大歓迎なのだ。問題はその後。

「フローラの身に危険が及ばないようにするのだ」とかいう理由で、王太子は国王や私の父にも話を通す前に、勝手に城の片隅にある塔に幽閉すると宣言してしまう。

 その結果、古びた小さな塔の中だけが私に許された生活空間になってしまったのだ。



 ――――――――――

 久しぶりの投稿で緊張しています。

 読みに来てくださってありがとうございます^^

 しばらくの間は、できるだけ毎日更新しようと思っています。

 今日と明日は2話ずつ公開して、明後日以降、書けているところまでは毎日一話公開の予定です。

 もしよければ、フォローと☆評価をくださると嬉しいです。

 よろしくお願いします。

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