第2話 幽閉の塔
塔と言ったら空に向かってそびえ立つ巨大な建造物を想像されるかもしれないけど、私が連れてこられた塔はそんな立派なものではない。
簡素な石造りで、「え、この中に部屋があるんですか?」みたいなほっそい塔。高さから見て三階建てくらいかな?
「こちらがコルネーリア様のお住まいになります」
塔まで私を連行してきた騎士は、けっして乱暴ではなかった。
一応ちゃんと公爵令嬢として対応している。
かといって落ちぶれた令嬢に必要以上の情けを掛けるほどのほどの感情もないようで、淡々と説明してくれた。
「一階は使用人のための作業部屋ですが物置としてお使いください。二階が食堂と風呂、化粧室などの水回り、三階が寝室になっています。台所は一階にありますが、包丁は置いていません。料理は毎日運んできますので、食事の心配はありません」
「さすがに料理は自分で作らなくていいのね。ちなみに使用人のための部屋を物置として使っていいということは、メイドは……」
「王太子様がおっしゃるには、使用人は置かないとのことです」
なるほど。
幽閉される身とはいえ一応公爵令嬢である私に、メイドの一人もつけないとは。
たしかに元婚約者は、そんなセコイ嫌がらせをするような小物感のある男だった。
だが、いっそ好都合。
狭い塔の中でずっと誰かに見張られてるよりも、一人のほうがまだいいってものよ。
前世では庶民だったから、身の回りのことを自分でするのには慣れてるし、引き籠るのも悪くない。
「急に決まったことなので家具や食器は前から備え付けのものですが、日頃から清掃などはきちんとしてありますので、ご安心ください」
「ちなみに、以前はどんな方がここに?」
「先々王の側妃様が十五年ほど前まで住まわれていました」
「それ以来誰も?」
「はい。ただ、多少古い建物ではありますが、昨年建物内の設備を綺麗に改修しております。城の他の部屋と同様に、不自由なくお住まい頂けるはずです」
「なるほど。あ、それと服は」
「お着替えなどについてはまだ何も聞いておりませんが、上司に確認いたします。おそらく明日のお食事を持ってくる時までに、ご用意できるかと」
明日の朝まで、この格好かぁ。
パーティー会場からそのまま連行されてきたので、今の私は、薄桃色のふんわりしたドレス姿である。
寝にくいな。
けど、最近の流行のドレスはあまりお腹を締め付けない。パーティー用でも足首が見える程度の短い丈だから良かった。
せっかくの可愛いドレスだけど、皺が寄るとか、そんなことを気にする必要ももうないし。
そうだ。着替えは、どうせなら動きやすい庶民服みたいなのを持ってきてくれないかな。
うん。ありえる。元婚約者が嫌がらせで安い服を持ってくるとか、ありがち。
こうなったらいっそさらなる嫌がらせに期待しよう。
「食事は毎日朝と夜に、ここに持って参ります。ノックをいたしますので、一階まで取りに来てください」
「自分で取りに!」
令嬢使いが荒いわね。まあ、騎士やメイドに毎日勝手に入ってこられるよりいいけど。
「分かりましたわ」
「それでは、王太子殿下より、この魔道具を付けるようにと申し使っておりますので、失礼いたします」
騎士はそう言うと返事も待たずに私の手を取って、腕にカチっと金属製の腕輪を嵌めた。
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