第33話 チョコに乗って走る
私の
ひとつだけ、ちょっと困ったのはこの身体だと歩くのが遅いことだ。
何しろ身長が三十センチくらいだもん。足の長さについては語りたくない。
身が軽くて弾むように歩くことができるといっても、限度がある。
だがそれもすぐに解決した。
そう。チョコに乗ればいい!
チョコは柴犬サイズだけど、今の私から見たら馬みたいに大きい。
背中に乗ると、ちょうどふわふわの毛の中にすっぽり身体が埋もれる。首の毛をしっかり持てば大丈夫そう!
外に出ると、まだ明るいけれど少しずつ日が傾きかけていた。
ディーも朝と比べて段違いに速足で、駆けるようにダンジョンの入り口まで向かう。私はチョコの毛に必死にしがみついた。
落ちた穴のところに着いた時には身体中が痛くなってた。チョコもディーもピピピも平然として、私だけが全力疾走したかのようにゼエゼエと息を吐いた。
解せぬ。
しかしこの身体は所詮
便利、便利。
ダンジョンの入り口は私たちの知っているのは二か所あって、ひとつは最初に落ちた穴。もう一つは上がってきたところだ。これも穴のすぐ近くにある。
付近には今、二人の冒険者が歩き回っていた。そのうちの一人にディーが声をかけた。
「遅くなってすまん」
「ディーか。お前がダンジョン見つけたんだって? すげえな」
「おう。偶然だけどな。それで今は?」
「俺たちは地上から、ここら辺に他に入り口がないかを探してるところだ。また誰かが落ちると面倒だからさ。穴の中には副長が入ってる。お前が来たら中に来るようにって言ってたぜ」
「おう、分かった」
もう一人も顔見知りらしい。ディーの顔を見て手をあげて、捜索に戻っていった。
◇◆◇
「副長って?」
「ああ、冒険者ギルドの副ギルド長のことだ。名前はミランダさんだったかな。普段みんな副長としか呼ばないから……。ギルド長の補佐で事務仕事をしてることが多いんだが、急ぎだったんで現場に駆り出されたんだろうな」
副長は女性なのかー。
普段は事務してるのにこんな魔物が出るところに来て危なくないかな?
そんなことを考えながら、ダンジョンの中に入る。
最初に落ちた時と違って心の準備もあるし中のことも少しは分かっているので、ゆっくりと観察できた。
洞窟の中は最初は本当に普通の自然な洞窟に見えるけど、少し進むと壁面もきれいになって、途中から外の光も届かないのに妙に明るくなってくる。
ここがチョコが言っていた、ダンジョンと元々あった自然の洞窟の境目なんだろう。
奥に行くほど壁面は滑らかにきれいになっているけれど、よく見ればそこかしこにスライムがいる。
前はこの辺りにも炎犬が一体いたけど、今は他の魔物には会わないまま、中を捜索している冒険者に出会った。
「やっと来たか。おや、お前、犬とか鳥とか飼ってたっけ?」
「まあな。副長は?」
「その先の小部屋にいる。焦げた跡とかある場所だ」
「ああ、そこなら分かる。他には何人来てるんだ?」
「外に二人いたろ。中に入ってるのは副長と俺とイーフォの三人だな。今日は軽く偵察を済ませた後で入り口をふさぐ。後日しっかり準備を整えてから本格的に中に入る予定だってさ」
「ああ、分かった。じゃあ俺は副長に会ってくるよ」
どうやらこの辺りは今、本当に全く魔物がいないらしい。上にいた二人もこの人も全然緊迫感がない。
『核は奥深くにある。魔物の数が減ったので奥を守らせているのだろう』
「なるほどね。奥か……ムカデの大きいのとかいたらヤダなあ」
『主はまだその身体に慣れていない。もし魔物が出た時には私が倒す』
「うんうん、了解。無理はしない」
『ぴぴぴ、それタベル、いい?』
ピピピが言ってるのは、どうやら壁を這っているスライムのようだ。
やはりスライムを食べるんだなあ。人の感覚では悪食だと思うけど、鳥なら普通なのかもしれない。
「いいけど、離れちゃだめよ」
『ぴぴぴツヨイ。すぐタベル』
通路の先にパタパタと飛んで行って、一匹のスライムを嘴で捕まえた。さっきはこれを私の手の上に落としたんだよね……。
どうやって食べるのかと思ったら、そのまま飲み込んだ。
『うまうま』
一回戻ってきて嬉しそうに報告して、また捕まえに行った。なるほど虫もこの勢いで食べるんだったら、それは農家の人に喜ばれるだろう。
ピピピの後についてしばらく進み、階段を降りたところにディーと合流した小部屋があった。あの時少年の倒れていたところに、今は人が立っている。
「副長」
「待っていた。ここを見つけた時に君が入ったのは、この場所までかな」
「はい」
「そうだろう。先も少し見たが、激しい戦闘の跡らしいものがなかった。ところでディーデリック、君にもようやく連れができたのだな」
「あ、え、っと犬ですか」
「なかなか強そうなお嬢さんじゃないか」
お嬢さん……って、私!?
チョコの毛の中からこそっと身を起こして見上げると、キリっとしたかっこいい女性と目が合った。
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