第34話 副長

「えっと、私ですか?」


 ディーの連れというからてっきりチョコとピピピのことかと思ったら、私に声を掛けられて驚いた。

 実は小さい身体のことをいろいろ聞かれるのも面倒だからと、ずっとチョコの毛に埋もれるようにしがみついていたのだ。

 ここに来るまで、誰にも声を掛けられなかったので、上手く気配を消せてると思ったのに。


「小さなお嬢さん。もしかして君がディーデリックを助けてくれたのかな」


 チョコの背中に座ったまま顔をあげると、副長さんがすぐそばに立っていた。

 副長さんはピシッと背筋の伸びた、真っ白い髪のかっこいい女性だ。若そうにも思えるけど、纏っている雰囲気に貫禄があって、案外ギルド長と同じくらいの歳かもしれない。


「うちの冒険者を助けてくれてありがとう」

「い、いえ、そんな助けたと言うわけではなくて。私の方こそ、ディーがいたのでこんな場所でも心強かったです。でもなんで私が……」

「いるのが分かったのかって?ああ。それは私のスキルが魔力視だからだよ」


 スキル魔力視は魔力を肉眼で見ることができる能力だ。

 今の私は普通の人よりも魔力の密度がすごく高いみたい。つまり副長さんには私は精霊、しかもかなりの大精霊っぽく見えるらしい。

 しかも小さい人形なので、人間とは違うサイズで逆に目立つ。「そこに何かいる」って思ったんだって。

 すごい能力だ。もしかしたら透明な身体の時でも、この副長さんには見つかったかもしれない。


 魔力視というスキル自体はレアではない。ただ一般的には、さほど使い道のないスキルのひとつと言われている。

 その一番の理由は、魔力はうっすらと誰もが感じることができるのでわざわざ見る必要がないことだ。それに見えたからといって、対象に何らかの影響を与えられるわけではない。

 そして何よりこの世界にはほとんどの物が魔力を含んでいる。余計なものが見えすぎると、普通の物を見る視力に影響が出るのだ。

 そのため魔力視を持っている人はサングラスのようなものをつけて、魔力を見えなくしたりする。

 副長は今、メガネをかけていないから魔力は見えるはず。視界がまぶしすぎて逆に何も見えないんじゃないの?


「メガネをかけていないのか気になるのかい。私もこのスキルとは長年付き合っているのだ。いろいろと慣れるものだよ、あまり長時間は無理だが。お嬢さんのキラキラした魔力は元気があってよい」

「あ、ありがとうございます」

「それにそこのフェンリル……ではないね。精霊、風の精霊か。君も心地よい色の魔力だ」


 こっわ……。チョコのことも見破ってる。しかもチョコって風の精霊なのか。

 そう言われれば、ダンジョンの中で戦ったときにかなりの幅をジャンプしてたっけ。身体能力がすごいだけかと思ってたけど、風の力を借りたのかな。あとで聞いてみよう。


「聞きたいことは色々とある。けれど話は調査の後にしよう。ディーデリック、炎犬と戦った時の様子を教えてくれ」


 今日の調査の目的は現場検証とこのダンジョンの危険性の判断をすること。それが済んだら、魔物が出てこないように一時的に入り口が封鎖される。

 ああ、なるほど。

 それで副長がここに来たのか。

 魔力視があれば、魔力がどのように分布しているのかが、より分かりやすい。

 ダンジョンは外よりもかなり魔力が濃い。濃さを肉眼で確認できれば、境目も分かるし外と繋がっている場所が他にないかも探しやすいだろう。

 副長は、洞窟内全体の魔力密度の偏りから、どの方向にどれくらいの範囲でダンジョンが広がっているのか推定するって言ってる。

 いくら魔力が見えるからって、どれくらいの経験値を積んだらそんなことができるようになるのか。

 すごいなあ。


 副長はディーから、戦った時の炎犬の数やどっちから来たかとか、その他の魔物がどれくらいいたかを聞き取っていた。

 私もいくつか聞かれて、答えられることは答えた。チョコが巨大な魔物になってたとか、私がダンジョン核を吸収しちゃったことはなんとなく言い辛くて黙ってたけど、そんなに追及もされなかった。


「なるほど。お嬢さんとチョコくんはダンジョンに引き寄せられて、奥深くから脱出してきたのだね。ダンジョンが精霊を引き込もうとするというのは初耳だ。もしよければ、このダンジョンの深層を調査する時に案内をしてくれれば助かるのだが……ああ、そうだ。良いことを思いついた」


 それまで姿勢よく立っていた副長が急にしゃがんで、私と視線の高さを合わせてきた。


「どうだろう、お嬢さん。君も冒険者にならないか?」


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