第4話 私のスキルと公爵家の事情

 私のスキルは時間停止。今現在、この国には私しかいないというレアスキルだった。ただ、すごく便利そうなのに、実際は思ったよりも使い勝手は悪い。

 時間停止魔法は、物の時間を止めてしまう。止められたものは周りから干渉を受けなくなるので、要するにカチカチに固まったかのように見える。

 叩いても壊れない、刺そうと思っても刺さらない。丸ごと持ち上げて動かすことはできるけれど形は変えられない。

 停止状態を維持するには、ずっと私が魔力を供給し続けないといけない。一つ一つにかかる魔力は全然大した量じゃないし、距離がすごく離れても維持出来る。今までの経験だと、辺境にある祖父母の実家からこの城までの距離でも問題なくスキルが維持できた。でもたとえ使う魔力が微量でも、止めている物が多くなれば、それだけたくさん消費される。


 私の魔力はいろんな人に便利に使われている結果、いつ測定してもすごく少ない。

 ちなみに、魔力測定器はわりと普及していて、貴族は各家に持っているし、庶民でも使うことが珍しくないらしい。

 そんな訳で学園で定期的に魔力測定をしたりするときに、私の体内魔力は一般的な貴族たちよりも少ないように見える。この二、三年は体内に残っている魔力が減りすぎて、たくさんのものにいっぺんにスキルを使うことができない状態が続いていた。

 あっちこっちで時間を止めたままにしているものを解除すればそれなりの魔力は持ってると思うんだけどな……。


 学園では、パッとしないと陰でバカにされがちなスキルではあった。でも公爵令嬢という身分の高さとレアスキル持ちってことで婚約者に決まっちゃったのよね。


 実際このスキル、自分が使うには結構役にたつと思う。

 例えば食べ物を出来立てのまま新鮮に保ったりするのにはすごく便利。自分なら食べたい時にいつでも解除できるから。

 もっともこれでも一応公爵令嬢なので、残った食べ物を持ち帰るような機会はあまりない。

 本当は人に渡すときに使えたら便利なんだけど、使えないのよねえ。誰かに新鮮な食べ物を渡したとして、私しか解除できないからタイミングが難しいじゃない?


 そんな魔法だけど、王太子の婚約者として王宮に通うようになってからは、このスキルもそれなりに便利に使われたと思う。

「国宝の花瓶が欠けたからくっつけて時間停止しとけ」とか、「貴重な武具だから古くならないように時間停止しとけ」とか。

 最近では王太子から付けられたあだ名が、接着剤女。

 もちろん、婚約した当初からそんな扱いだったわけではない。

 思い起こせば、学園で可愛らしい女の子を見てから、急に態度が変わったんだった。分かりやすすぎる男だよね、まったく。


 まあ、そんな思い出はどうでもいいか。

 もう縁も切れたんだし。


 ◇◆◇


 今回私が幽閉されることになったのは王太子の思い付きの婚約破棄宣言のためだが、多分そのままずっと閉じ込められるわけではないだろう、と気楽に考えている。

 私には頼りになる祖父母がいるからだ。


 私の父はこの国の公爵で、かなりの権限を持っている。

 ただし、父と私とはあまり良い関係ではない。私の母は十年以上前に亡くなって、それ以来長いこと、私は母方の祖父母の家に預けられていたのだ。


 そんな私が王都の父の家に帰ってきたのは、王太子が年頃になって婚約者を探し始めたからだった。私は偶然王太子と同じ歳で、身分も十分釣り合う。

 王都の家に帰って来てからは王太子の婚約者として厳しく躾けられた。

 家では義母が権力を握っていて、私とは若干折り合いが悪い。

 というか、はっきり言って嫌われている。

 そのためある程度の王太子妃教育が終わった後は、王宮に住み込みで勉強しろと、家を追い出された。

 家には二歳年下の義弟がいるので、彼が公爵家を継ぐだろう。今は王太子の側近になっている。

 跡取りの義弟はちゃんといるし、もともと義母に嫌われていた私が婚約破棄されたからと言って王家と公爵家の関係が悪くなるとも思えない。

 公爵家の実権を握っている義母にとって、婚約破棄された私は何の利益ももたらさない邪魔者でしかない。王宮内に幽閉されていても、わざわざ助けに来ることはないと断言できる。


 ただ、父は全くあてにならないが、母方の祖父母はこの状況を知ればきっと私を助けに来てくれるはず。

 五歳の頃から私を育ててくれたおじいさまとおばあさま。本当に優しかった。

 ここで元気に待っていれば、いつかおじいさまが迎えに来てくれる。

 問題は、この状況がいつ祖父母の元まで伝えられるかということだ。

 おじいさまの領地は、とても遠くだからなあ。

 祖父母はこの国の北の端、辺境を守る辺境伯だ。王家にとっても敵に回したくない人物のはず。

 さすがにバカな王太子と言えども辺境伯にケンカを売りたくはないはず。幽閉の事実を隠そうとするかもしれない。

 いや、どうかな?

 舞踏会で婚約破棄した男だから……。

 どちらにしろ、いずれこの話は祖父母の耳に入るはずだ。

 おじいさまが助けに来るまで。

 それまではここで、頑張って暮らしていかなければならない。


 となれば、新居の内見でもしましょうか。

 ここにはもうしばらく住むことになりそうだから。


 ――――――――――

 本日2話目の投稿です。明日からは1話ずつ毎日公開の予定です。

 よろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る