第14話 宿屋の朝、そしてウインドウショッピング
宿屋の四階から降りると、一階の食堂に食事をしている人がたくさんいた。
もう食べ終わって席を立ってる人もいるけど、いまから食べ始める人もいる。
朝食は黒パンと具だくさんのスープ、それに肉を煮たもので、全員同じメニュー。お代わり自由みたいで、何度も貰いに行ってる人もいる。
部屋は一人部屋が多かったけど、食事している人を見ると3、4人のグループが多いみたい。きっとこれが冒険者パーティーと呼ばれるグループだろう。
私は貴族として育てられたのであまり庶民の生活に詳しくはないが、学園では歴史や地理、政治経済などの教科もあって、そこでいろいろ学んだ。
国民は成人したら何かのギルドに属して、ギルド経由で働き、納税する。
冒険者ギルドはその中でもわりと特殊で、世界中に支部を持ちどこの国にも属さない国際組織だ。そのため冒険者たちは準国民という扱いになり、一般の国民より多くの税金を納める代わりに、兵役などの一部の義務は免除される。
それが許されているのは大昔にいたという伝説の勇者の作ったシステムだからだ。
ひとつの国には属さないが、例えば魔物の暴走などの危機にはいち早く討伐に参加する。自由にいろんな国に行けるが、その多くで土地を所有することができないなどの制約もある。
だからアパートを借りるか、依頼に行く先々でこういう安い宿に泊まる。あるいは大きな壁に守られていない小さな町や村であれば歓迎されるので、そこに住み着くことも多いらしい。
冒険者たちは数人の小さなパーティーを作って、ギルドに登録している。そのほうが一人で依頼を受けるよりも確実に仕事をこなせるだろうと、依頼者からも信頼されやすい。
国中に名の知れた有名なパーティーもいくつかあって、世界的に有名な冒険者は勇者と呼ばれたりする。
そんな授業の内容を思い出しながら目の前の人たちを見ると、なるほど。
格好は様々だけどみんな鍛えられた筋肉をしてる。
男の人ばかりじゃなくて女の人も多いのは少し意外だったけど、そういえばスキル次第な世界なのだった。攻撃系のスキルを持っていれば、多少非力でも魔物とも戦えるものね。
男性も女性も関係なくみんなお代わりして、肉もパンもよく食べる。そして仲間たちと顔を見合わせて頷くと、宿から出かけた。
私もドアが開いた時に一緒に付いて外に出ていった。無理やり通り抜けるよりそのほうが楽なのよ。
外に出て『島カラスの寝床』の看板を振り返る。
豪華ではなかったけど、朝ご飯もおいしそうだったし泊ってる人たちも夜中は静かだった。
考え事するときは、また来てもいいな。
「ただで泊まっちゃってごめんね。ありがとうございます」
聞こえないだろうけど、一言お礼を言ってからその場を後にした。
◇◆◇
さて、どこにでも好きに行けるこの身体。
せっかく初めて庶民街に来たのだから、まずはウインドウショッピングを楽しみたいと思います!
幸いこの辺りにはいろんなお店が集まっている。
まだ朝は早いけれど、通りにはもう多くの人が歩いていた。
そしてどうやらその半数以上が冒険者っぽい。
「食料は買ったか?」
「ああ。今回は外の森だから堅パンと塩漬け肉をたっぷりと」
「うへえ……また塩漬け肉の日々があああ」
「叫んでないでさっさと行くぞ」
なるほど、遠くに行く人たちが早朝に出発するから、それに合わせて店も早く開いてるのか。
宿屋のすぐ近くにある店のひとつが肉屋だった。調理前の塊り肉を見る機会はこれまであまり無かったので、ちょっとびっくり。すっごく大きな塊があるので。
売ってあるのは焼いて干した肉が多いけど、大きな塊り肉はケースの中に入っていて霜が降りてるから、たぶん冷凍。
冷凍の魔道具はちょっと高価な品だと思う。だから1台しかないのかな。
肉屋のほかにも、食料品の店はパッと見渡しただけでも大通りに面して三軒、脇道にはもっとたくさんありそうだった。
大通りに面した店は高価なのか、多くの冒険者たちは脇道へと入っていく。
ところで、ちょっと話は変わるけど、前世とこの世界の一番違うところと言えば、やはり魔法があることだろう。
魔法は誰でも練習すれば使えると言うわけじゃない。人それぞれに異なったスキルを持っているから、例えば私がどんなに頑張っても魔法で火を出すことはできない。
だけど世の中には魔道具という便利なものがあるのですよ。
灯りの魔道具を使えば誰だって灯りをともせるし、火おこしの魔道具はライターみたいにお手軽に使える。最新式のトイレの魔道具……は、さておき。
要するに魔道具って電化製品のようなものなのだ。そして私は前世の頃から電器屋さんが大好きだった。
向こうに見えるは、魔道具屋の看板ではありませんか。
どんな魔道具が売ってるのかな?
さあ、入ってみよう!
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