第36話 【閑話】ヒロインの疑念
――――――
本日一話目、閑話です
お城にいるフローラ(王太子の新しい婚約者)視点
不要な方は飛ばしても、今のところはさほど影響もないかと思います
閑話不要な方もいると思うので、飛ばせるように次をもう一話更新します
――――――
「フローラ、君は無事か?」
部屋を開けるや否や、そう叫んで飛び込んでくる王太子。
フローラは少し驚いて立ち上がり、婚約者である彼を迎えた。
「コルネーリアのせいで、城の物がいろいろと壊れまくっている。この部屋が無事かどうか気になって、急いでやってきたのだ」
「ありがとうございます。王太子殿下」
「ダミアンと呼んでくれ。もうフローラと私は婚約者同士ではないか」
「ありがとうございます。ですが今はまだコルネーリア様と婚約破棄されたばかり。王太子殿下と私が婚約するには国王陛下の許可を頂かなければなりません」
「父上は昨日、私が結婚したいならそうすればいいとおっしゃった。だからかまうまい」
「その前にどうか、コルネーリア様の幽閉はおやめになって、ご実家に」
「いや、それは無理だ。あいつは昨日から眠ったまま、目を覚まさないのだ」
「え?」
眠ったまま目を覚まさないとは、いったい……。
ブラウエル公爵家は王家に次ぐ勢いのある家。本当ならば時間を掛けて、なるべく穏便に婚約を解消していただく予定だった。けれどいつの間にか、濁流に翻弄されるように人々が動き、こんな大事件になってしまった。
こうなったらせめてコルネーリア様の身を少しでも安全な場所に移してもらい、できることなら良い縁談を探して持って行かなければと考えていたのに。
婚約者を奪い取ってしまって自分勝手だとは思うが、私に出来る限りの償いをしたかった。けれどその相手は眠りについてしまったという。
これからどうしたらいいのか。
フローラの表情は暗く沈む。
「フローラは心配などしなくてよいのだ。そのうち目覚めるだろう。どうやらあいつのスキルで寝てるようだから。それよりも、私達が結婚できるのは婚約してから一年後。それまではここで好きなことをして楽しく過ごすがいい」
「そんな。私、もっとしっかりと勉強して皇太子妃として頑張らないと」
「いいのだ。そんな難しいことを考えていたらコーネリアみたいにつんけんした女になる。フローラにはもっと優しくして、何でも好きなものを買い与えてやれと皆が言っていた」
「まあ。私、そのような……」
「とにかく今は物が壊れやすくなっているので気を付けるように。近いうちに宝石など見繕ってプレゼントしよう。楽しみに待つがいい」
「あ、はい。あの、えっと、ありがとうございます」
入ってきたときと同様、バタバタと騒がしく出ていく王太子。
フローラはあまりに能天気な王太子の言動に頭を抱えた。
◇◆◇
ここローディア王国はとても豊かな国だ。王都を取り囲むように広がる広大な農地はこの国の国民を養って余りある恵みをもたらしてくれる。余った作物は他の国々との交易に使われ、この国では取れない食べ物や鉱物、様々な工芸品などが手に入る。
周りの国からすると豊かで魅力的な国ではあるが、他国が攻めないのは危険な魔境が国境を厚く遮っているからだ。
東は海、南から西にかけては魔物が大量発生する樹海がある。北は険しい山地で、その国境はこの国最強と言われる辺境伯が守っている。
樹海には幅の狭いところを抜ける道が数本あって、交易路になっていた。仮にそこを使って大軍で攻め込んだばあい、樹海の出口を守り固められたらローディア王国兵と戦う前に魔物に襲われる。想定される被害が大きすぎると他国が二の足を踏む。
そんな国だ。
国王もあまり危機感のない日々を送っていた。
つまり、よく似た親子ということだ。
フローラは貴族とは何の関係もない庶民の生まれだった。
国民全体も豊かな国ではあったが、それでも親を亡くした子が生きるのは厳しいものだ。フローラは両親を事故で亡くして、妹と二人、街の片隅で暮らしていた。
そこにたまたま通りかかった貴族が、彼女の容姿をみて強引に養子にしたのだった。
農業の盛んなこの国では、緑化のスキルは神聖視される。
貴族家でスキルを調べられた彼女は、一躍聖女候補になった。
これまでできなかった勉強を必死で頑張り、義父には身分の高い子息を落とせと命令され、そんな無茶なと思いながら入った学園でまさかの王太子殿下に見初められる。
安堵と不安が同時に押し寄せた。
そんな彼女には今一つ腑に落ちないことがある。
親しく話すようになって分かったのだが、王太子はあまりにも単純すぎる。
よく言えば、育ちがいい。
疑うことを知らず、あまり深く考えることもしない。
そんな殿下の立てた計画が、まさかこんなに順調に進むとは。
フローラにはそれが意外だった。そして実際は計画よりもずっと派手で、酷い結果になった。
王太子は今も気楽に考えているようだが、コルネーリア様は本当に目覚めるのか。そしてそんなにあっさりこの婚約破棄劇が収束するだろうか。
王太子の計画は上手くいっているのか?それとも……。
なにかもっと他からの力が働いているような、そんな気がしてならない。
神経を研ぎ澄ませて、もっとこの国を知ろう。そしてできることならば、コルネーリア様が目を覚ます方法を探さなければ。
その為には今はまずは勉強だ。
フローラは密かにそう決心して、本とノートを広げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます