第50話 お別れの宴が開かれました

孤児院の子供たちとお別れをしつつ、貴族学院の友人たちとの思い出作りも積極的に行っているうちに、あっという間に1ヶ月が過ぎようとしていた。


明日はいよいよ、サフィール様が私を迎えに来る日。今回は私の両親も一緒に、クレーション王国に向かう事になっている。1ヶ月ぶりにサフィール様と会うとあって、楽しみでたまらないのだ。


やっぱり私、サフィール様が好きなのね、少し会わないだけで、会いたくてたまらないのだもの。そして今日は、貴族学院に通う最後の日だった。友人たちが、私のお別れ会を開いてくれた。優しい友達に囲まれて、本当にこの1年幸せだった。最後に絵師に皆の似顔絵を描いてもらった。


この似顔絵は、クレーション王国に持って行こう。屋敷に戻ると、シャティ含めメイドたちが、私の荷物を詰めてくれていた。


「お嬢様、必要な物は全て詰めました。これでいつでも、クレーション王国に旅だてますわ。もちろん、私も一緒に参りますので、ご安心を」


「ありがとう、シャティ。でも荷物を詰めた割には、いつもとあまり変わらないわね」


ベッドやテーブル、ソファなどはそのままなので、やはりあまり変化はない。


「旦那様が、お嬢様が帰ってきた時に、そのまま使える様にとの事でしたので。それに、クレーション王国の王宮には、既にお嬢様のお部屋や必要な物の準備も完了しているとの事でしたので」


「あら、そうなのね。そんな情報は、私には入って来ていなかったけれど…」


「旦那様がクレーション王国の陛下やサフィール殿下と、何度か手紙のやり取りをされている様ですので、その時に得た情報かと」


まあ、お父様は陛下やサフィール様と、手紙のやり取りをしていたのね。全然知らなかったわ。でも、私の為に皆が動いてくれている。それがとても嬉しかった。


「さあ、お嬢様、そろそろ夕食のお時間です。今日はお嬢様の為に、宴が開かれるとの事ですから。お着替えを」


宴の為、ドレスに着替え、広間へと向かう。宴と言っても、家族のみで食事をするはずなのに、どうして広間なのかしら?そう思いながら、大広間へと向かう。すると…


「セイラ!間に合ってよかった」


この声は…

ゆっくり振り向くと、そこにはタキシードに身を包んだサフィール様の姿が。そのまま強く抱きしめられた。


「サフィール様、明日いらっしゃるのではなかったのですか?」


「今日お別れの宴が開かれると聞いたから、なんとか予定を合わせて来たんだよ。あぁ、僕の可愛いセイラ。会いたかったよ」


そう言うと、唇を塞がれ、さらにそのまま抱きかかえられた。久しぶりに感じるサフィール様の温もり…なぜだろう…やっぱり落ち着くわ。今日は家族だけだし、別に抱っこされて入場しても問題ないだろう。そう思っていたのだが…


大広間に入ると、そこには学院の友人たちやその家族もいた。そして私たちが入場すると、大きな拍手が送られる。


「これは一体…」


「今日のお別れの宴は、僕たちの友人やその家族も招待したんだよ。ミューディレス公爵が“セイラを支えてくれた貴族学院の友人たちとの絆を、今後も大切にしたい”と言ってね」


そうだったのね。でも、私は全く知らされていなかったのだけれど…まあ、いいか。


「セイラ、よかったわね。サフィール殿下と一緒に宴に参加できて」


そう言ってにっこり笑ったアイリ。他の令嬢や令息たちも、側に来てくれている。


「アイリはこの事を知っていたの?酷いじゃない、どうして教えてくれなかったのよ」


「セイラを驚かせたかったのよ。でもまさか、サフィール殿下に抱っこされて登場するなんてね」


そう言って笑っている。イヤだ、恥ずかしいわ。急いでサフィール様の腕から抜けようとしたのだが、なぜか強く抱きしめられていて動けない。


「セイラ、動くと危ないよ。言ったよね、僕が君の足になるって。だから、今君は普通に立っているのと同じ状況だよ」


えっっ!足になるとは、そういう意味だったの?


「サフィール様、ぎこちないですが歩けますので、大丈夫ですわ。一旦降ろしてください」


「そうかい…それは残念だな」


そう言うと、そっと降ろしてくれた。でも、ガッチリ腰を掴まれてはいるが…


その後、友人たちといつもの様に話しに花を咲かせる。


「サフィール殿下、セイラの事、大切にしてやってくれよ。なんたって僕が身を引いたのだからね」


ライムがやたらサフィール様に絡んでいるのが気になるが、そっとしておいた。さらに王妃様からも


「セイラちゃんが私の娘になってくれないのは寂しいわ。殿下が嫌になったら、いつでも帰って来てもいいからね」


なんて言われた。まさかライムや陛下、王妃様まで参加してくれていたなんて…


ふとお兄様の方を見ると、なんとアイリと楽しそうに話しをしているではないか。びっくりして凝視していると


「実はアイリ、あなたが安心して国を出られる様に、セイラが立ち上げた協会を陰ながら支えていたの。それで、ジャック様とも仲良くなったみたいよ」


そうマリーが教えてくれた。アイリったら、私の為に色々と動いてくれていたのね。それにしてもあの2人、楽しそうね。もしかしたら、アイリが私の家族になるかもしれないわ。なんだかそんな気がした。


大切な友人や家族に囲まれ、その後も夜遅くまで宴は続いたのであった。

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