第10話 サフィさんと一緒に買い物に出かけました【後編】

「キャーー、ベールが」


どうしよう。大切なベールが!すぐに拾わないと。そう思い、急いで走ってベールを取りに行く。でも、木に引っかかってしまって取れない。どうしよう…


「僕が取ってくるよ」


そう言って急いで木に登り始めたサフィさん。するすると登っていき、さっとベールを取ってくれた。


「はい、これ。それにしてもセイラの髪、とても綺麗な銀色をしているんだね。本当に綺麗な髪だ…」


ひと房私の髪を取った。そして何を思ったのか、髪に口づけをしたのだ。ちょっと、何をしているのよ!とにかく、ベールを被らないと。


「サフィさん、ベールを取っていただき、ありがとうございます」


さっとサフィさんからベールを奪い取り、頭に取り付けた。


「ごめん、急に髪に触れたりして…」


「大丈夫ですわ。少しびっくりしただけですから。そう言えば、髪を見せるのは初めてでしたわね」


「そうだね、セイラはずっとベールを被っていたから。物凄く可愛い子だとは思っていたけれど、やっぱりかなり美しい子だったんだな…」


何やらボソボソと言っているサフィさん。なんと言っているかよく聞こえないので、スルーしておこう。


「さあ、買い物も終わりましたし、そろそろ帰りましょうか」


子供たちのプレゼントも買ったし、お菓子も食べられた。もう満足だ。そう思っていたのだが


「せっかく街に来たんだ。もう少し見て回ろう。ほら、あそこで菓子を焼いているよ。せっかくだから食べようよ。ちょっと待っていてね」


そう言うと、お店に向かい、お菓子を買ってきてくれたサフィさん。棒にパンの様な物が巻いてあり、そこにチョコレートがくっついている。こんなお菓子は初めてだ。


「こっちがイチゴチョコで、こっちが普通のチョコだって。どっちがいい?」


「ありがとうございます。でも、お金を持っておりませんので…」


「これくらい僕が払うから気にしないで。さあ、選んで」


「それじゃあお言葉に甘えて、イチゴチョコを頂いてもいいですか?」


「はい、イチゴチョコ」


サフィさんからイチゴチョコを受け取る。早速1口。このお菓子、物凄く美味しいわ。しっとりしたパンにイチゴチョコがよく合う。


「セイラのイチゴチョコ、美味しそうだね。1口貰ってもいいかな?」


「ええ、構いませんわ。それなら、サフィさんのも1口頂けますか?」


せっかくなら、普通のチョコの方も食べたいと思ったのだ。お互いのお菓子を交換し、早速1口。こっちのチョコも美味しい。こんなに美味しいお菓子、初めて食べたわ。その後も、サフィさんと半分こしながらお菓子を食べた。


そして、街を色々と見て回る。こうやって街を見ていると、なんだか色々と欲しくなる。でお、お金もないものね。そんな中、星とハートが半分になっているブレスレットが目に留まった。このブレスレット、なんだか変わっているわね。


「セイラ、このブレスレットは、対になっているんだよ。ほら、2つのブレスレットを組み合わせると、1つの形になるだろう」


「本当ですわ。こんなブレスレットがあるのですね。初めて見ましたわ」


「この国では結構一般的なんだ。そうだ、これ、僕が買って君にプレゼントするよ」


「でも、こんな高価なもの、頂くわけには…」


「僕がプレゼントしたいんだ。ね、いいでしょう?お願い」


手を合わせてお願いのポーズをされた。でもこのブレスレット、1つ15,000ゼニーするのよ。2つで30,000ゼニーだ。


「それでしたら、せめてサフィさんの分を、私に買わせていただけませんか?」


きっとシャティに頼めば、お金は何とかなるだろう。


「でも、君はシスターでお金はないのだろう?」


「少しぐらいはありますので、大丈夫ですわ」


「いいや、君に無理はさせたくない。とにかく、ここは僕に買わせて」


結局押しに負けて、サフィさんに支払ってもらう事になった。なんだか物凄く申し訳ない。


「サフィさん、ありがとうございます」


「別にこれくらいいいよ。それよりセイラ、腕を出して」


私の腕に片方のブレスレットを付けてくれた。


「セイラも僕の腕に付けてくれるかな?」


言われるがまま、サフィさんの腕にブレスレットを付けた。なんだかこうやってお揃いのブレスレットを付けていると、まるで恋人同士の様ね。て、私は何を考えているのかしら。恥ずかしいわ。きっとサフィさんは、そんなつもりでくれた訳ではないのに…


「僕の腕に付けてくれてありがとう。これ、僕の宝物にするよ」


「こちらこそ、ありがとうございます。私も大切にしますね。なんだか友達の証みたいでいいですわね」


「友達の証か…」


なぜかサフィさんが複雑そうな顔をしている。私、何か変な事をいったかしら?


「まあいいか…それじゃあ、もうそろそろ帰ろうか」


「はい」


どちらともなく手を繋ぐ。温かくて大きくて、少しゴツゴツした手。私より頭一つ分大きな体。今まであまり意識したことがなかったけれど、サフィさんも男性なのよね。


なぜだろう、この手を握っていると、物凄く落ち着くのは…サフィさんはどこに住んでいるのだろう。家族は?て、私は何を考えているのだろう。そもそも、私はもうすぐこの国を去る。


約束の1年が、もう間近に迫っているのだ。きっと私がこの国を去れば、二度とサフィさんと会う事もないだろう。そう思ったら、なぜか胸がチクリと痛んだ。


きっとせっかく出来た友達と別れたくなくて、胸が苦しいのだろう。とにかく私には、ライムをギャフンと言わせると言う目標があるのだ。それに国に戻ったら、やりたい事がある。


私には後ろを向いている時間はない。しっかり前を向いて、やるべきことをやって行かないと。

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