第11話 誕生祭当日を迎えました

「セイラ、悪いけれどそこの机をこっちに移動させてくれる?」


「は~い」


朝からシスター総出で、お料理やお部屋の飾りつけを行う。今日は待ちに待った誕生祭なのだ。修道院や孤児院でも、ささやかながらお祝いをする事になった。先日サフィさんと一緒に買いに行った、お菓子もちゃんと準備した。


もちろん、子供たちも一生懸命飾りつけを手伝ってくれている。こうやって皆でお祝いできるのも、最初で最後だ。そう思ったら、胸がチクリと痛む。


「セイラおねえちゃん、どうしたの?」


心配そうに子供たちが声を掛けてくれる。いけない、つい暗い事を考えてしまったわ。


「ごめんなさい、何でもないのよ。ほら、皆、しっかり飾りつけをしないと、誕生祭のお祝いが出来ないわ」


気を取り直して、子供たちと一緒に飾りつけをしていく。よし、こんな感じでいいわね。次は料理の方を手伝わないと。と言っても、私は全くと言っていいほど料理が出来ない。私が焼いたパンはいつもいびつで、子供たちが焼いた方が上手と言われるほどの代物なのだ。


そのため、主にお料理を運んだりする方に徹した。それにしても、シャティは料理が本当に上手ね。他のシスターに交じって、せっせと料理を作っている。何でも完璧にこなすシャティには尊敬の眼差しを送ってしまうくらいだ。


全ての準備が整ったところで、早速パーティー開始だ。皆にジュースが振舞われる。ジュースなんて、ここに来て初めてだわ。子供たちも、ジュースに夢中だ。


そうそう、最近やっと国から支給されるお金が少し増えたらしい。さらに、私を含め募金で集まったお金も支給されたらしく、今年はいつもより豪華なパーティーが出来たと、院長が喜んでいた。


子供たちも真新しい洋服に身を包み、はしゃいでいた。少しではあるが、私が募金したお金もこんな風に使ってもらえたと思うと嬉しくてたまらない。


「お嬢様、どうされたのですか?全然召し上がっていらっしゃらないではないですか。さあ、しっかり食べて下さい」


そう言って私に料理を持ってきたのはシャティだ。


「ありがとう、シャティ」


シャティが持ってきてくれたお料理を早速頂く。うん、美味しいわ。お肉なんて久しぶりに食べた。公爵令嬢の時は当たり前の様に食べていたけれど、ここではお肉は高級品。こういったお祝いの時にしか食べられない。


いつか子供たちが、お腹いっぱいお肉を食べられる日が来るといいな。そんな事を思いながら、パーティーを過ごす。そしていよいよ、子供たちにお菓子を配るときがやって来た。


「皆、今日のプレゼントは、セイラさんが選んでくれたのよ。さあ、1人づつ取りにいらっしゃい」


院長の言葉を聞き、嬉しそうに集まってくる子供たち。喜んでくれるかしら?緊張の瞬間である。


「わぁ、おかしだ。セイラおねえちゃん、ありがとう」


「ねえ、たべてもいい?」


皆目を輝かせて私が選んだお菓子を見つめている。


「ええ、食べてもいいわよ」


院長先生の言葉で、一斉に袋を開け、お菓子を食べ始める子供たち。


「あまくておいしい。セイラおねえちゃん、ありがとう。だいすき!」


そう言って抱き着いてきてくれる子供たち。とても喜んでくれた様だ。よかった。その後も皆でパーティーを楽しんだ。


パーティーの後は、皆で後片付けだ。


「セイラ、このゴミ、外に捨ててきてくれる?」


「はい、分かりましたわ」


大きなゴミ袋をもって外に出る。その時だった。


「セイラ、セイラ」


この声は!


「サフィさん。今日は誕生祭でしょう?どうなされたの?」


声の方を向くと、やはりサフィさんがいた。でも今日は、なぜかマントをまとっている。


「どうしてもセイラに会いたくてね。抜けてきちゃった。セイラ、誕生祭おめでとう」


「おめでとうございます、サフィさん」


わざわざ私に会いに来てくれるなんて、なんだか心がほっこりした。


「ねえ、セイラ。空を見上げてごらん。とってもきれいな星空が見えるよ。知っている?この国は、星がとても綺麗なんだ」


サフィさんに言われ空を見上げると、そこには満点の星空が広がっていた。


「まあ、なんて綺麗なんでしょう。こんな綺麗な星空は初めて見ましたわ」


「我が国にとって、誕生祭は特別な日なんだ。この日にセイラと星空を見られたこと、本当に嬉しいよ」


よくわからないが、この国の人にとってこの日は特別な様だ。美しい星空を眺めていたら、私もなんだか幸せな気分になった。そんな私の手を握るサフィさん。


「セイラ、僕は…」


「セイラ、いつまでごみを捨てているの?早く中に入って来て」


「は~い、今行きます。ごめんなさい、サフィさん、そろそろ戻りますね。今日はわざわざ来てくれてありがとうございましました」


サフィさんにぺこりと頭を下げて中に戻った。その後片づけを済ませ、子供たちを寝かしつける。皆今日がとても楽しかったのか、興奮して中々寝ない。それでも何とか寝かしつけた。


もうすぐこの子たちともお別れなのね…そう思うと、やっぱり胸がチクリと痛んだ。皆が寝た後、再び外に出る。美しい星空が広がっていた。


なんだかその場から動く事が出来ず、いつまでも星空を見つめていたのであった。

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