第19話 ライムが孤児院に付いてきました
貴族学院に入学して早2ヶ月。先日ついにライムの婚約者候補たちが、一旦白紙に戻された。それからと言うもの、なぜかよくライムに絡まれるようになった。
今日もダンスのレッスン時
「セイラ嬢、一緒に踊ってくれますか?」
なんて誘って来たのだ。これは完全に落ちたか?そう思っているが、中々ギャフンの機会は訪れない。ちなみに修道院で培った体力のお陰で、クラスの令息全員と踊ってもまだ踊れるだけの体力がある。
そのせいでダンスレッスンの時は、クラスの令息全員と踊るのが日課になった。さらに何を思ったのか、令嬢たちまで私と踊りたがる始末。まあ、何でもいいのだけれどね。
そして今日も、なぜか私に絡んでくるライム。
「セイラ嬢、今から時間があるかい?せっかくだから、王宮に遊びに来ないかい?」
最近しょっちゅう王宮に誘われるが、やんわりと断っている。今日ももちろん
「今から孤児院に行く予定でいますの。ごめんなさい」
そう言って断った。さっさと可愛い子供たちに会いに行こう、そう思ったのだが、何を思ったのかライムが
「それじゃあ、僕も行くよ」
そう言ったのだ。ダメだともいえず、結局一緒に行く事になった。
「セイラ嬢は本当に変わったね。今の君なら、きっと素敵な王妃になれるよ」
「あら、それは光栄ですわ」
あんた、私と結婚するくらいなら平民になりたと言ったくせに、どの面下げてそんな事が言えるんだ!そう突っ込みたいが、必死にこらえる。あぁ、イライラする。何なのよ、こいつは!
1人イライラしつつ、孤児院に向かう。孤児院に着くと、早速子供たちが飛びついてきた。
「セイラおねえちゃん、あそぼ~」
「ええ、いいわよ。そうそう、今日は私のお友達も連れて来たのよ。ライム…あら?」
周りを見渡すと、なぜか柱の陰に隠れているライムが。あいつ、何をしているのかしら?
「あの、何をなされているのですか?」
「だってここ、物凄く汚れているじゃないか…とにかく僕は、職員と話をしてくるよ」
そう言うと、さっさとどこかへ行ってしまった。ちょっと、何なのよあいつ、まるで子供たちが汚いみたいじゃない。そもそも、汚れていると思うのなら、この状況を王太子として打破しようだとか言う発想はないのかしら?
そう言えばお兄様は、ライムは人知れず孤児院などを視察していると言っていたが、あの話は本当なのかしら?明らかに初めてきました!みたいな感じの態度だったけれど。まあいいわ、私はいつもの様に子供たちと過ごすまでよ。
いつもの様に子供たちと一緒に過ごす。それにしても、随分と洋服がボロボロね。そうだわ、お金だけでなく、いらなくなった衣類などの寄付も募るといいかもしれないわ。早速お兄様に相談してみよう。
そんな事を考えながら、一緒に子供たちと遊ぶ。そう言えば、ライムはどうしたのかしら?ふと気になって、孤児院の院長の元に向かうと、なんとさっさと馬車に戻ったとの事。あの男、何をしに孤児院に来たのよ!
もう、面倒な男ね。仕方ない。少し早いが、切り上げるか。子供たちと別れ、院長に今の現状を聞く。私が立ち上げた基金が少しずついきわたっている様ではあるが、まだまだ足りていないらしい。
それでも、来月には壊れた建物の修復や、子供たちの洋服などを買う様手配しているとの事。古着の収集も今後協会で行う事を話すと、喜んでくれた。
「ありがとうございます、セイラ様。ジャック様といい、本当にミューディレス公爵家にはお世話になりっぱなしで」
そう言って何度も頭を下げた院長。お兄様も随分と動いている様だ。院長と話を済ませた後は、急いで馬車に戻る。
「お待たせしてごめんなさい。さあ、帰りましょうか?」
「あぁ…もういいのかい?それにしても、孤児院ってこんなにも…なんというか、環境が良くないと言うか…」
言葉を選んでいる様だが、要するに小汚いとでも言いたいのだろう。こいつ、これでも王太子なのか?この状況をまるで他人事のようにとらえている。
「殿下、これが今の孤児院の現状です。子供たちはギリギリの中で生きているのです。あなた様は次期国王になられるお方。この状況を見て、是非王族として動いて下さい」
そう、あんたは王族なのよ。子供たちを含め民たちが安心して暮らせる国を作るのが、あんたたちの仕事なのよ!そう言いたかったのだが…
「そうだね。わかったよ。僕も君の協会に協力するよ」
「…ありがとうございます…」
ライムってこんなに頼りなかったかしら?なんだかどっと疲れが出た。
「それにしてもセイラは、どんなに貧しい子供たちにもああやって手を差し伸べているんだね。まるで女神の様な女性だ。セイラ、やっぱり僕には君しかいない。どうか、僕と婚約してくれませんか?」
えっ?今なんて言った?ここは馬車の中よね。なんでこんな状況で、こんな事を言うの?完全にパニックになる。待てよ、今この瞬間、ギャフンと言わせる絶好のタイミングよね。
「わ…私はもっとしっかりした人が好きなのですわ。そもそもあなたは、私と結婚するくらいなら平民になると高々に宣言していたではありませんか。申し訳ございませんが、私はあなたの様な頼りない人間とは婚約できません。あなたと婚約するくらいなら、平民と婚約いたしますわ」
言ってやった!どうだ、ショックだろう!あぁ、やっとあの大変だった1年半が報われたのね。そう思ったのだが…
「確かに僕は昔君を傷つけた。本当にすまないと思っている。でも、僕にはもう君しかいないんだ。僕の可愛い女神ちゃん。セイラ、僕は絶対あきらめないよ。そもそも、僕より身分の高い男なんていない。公爵も今はまだ怒っている様だが、きっと貴族学院を卒業し、本格的に結婚を意識し始めた時、公爵も僕たちの結婚を認めてくれるはずだ」
んん?この男、何を言っているの?お父様が私たちの結婚を認めてくれる?女神ちゃん?そもそも、お父様云々以前に、私ちゃんと断ったわよね…
呆然としたまま、馬車に揺られるのであった。
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