第20話 家族は私の味方です
正直どうやって家に帰って来たのか覚えていない。ただ、ライムが言葉の通じない怪獣に見えた事だけは理解できた。
フラフラと自室に向かう。
「お嬢様、生気を吸い取られたようなお顔をされておりますが、大丈夫ですか?」
冷静なシャティの顔を見たら、なんだか怒りがこみ上げて来た。
「大丈夫もクソもないわよ。何なのよあいつ!私の一世一代のギャフンを台無しにして!」
怒りが抑えきれず、怒鳴る私にすかさず鏡を見せるシャティ。もうギャフンが失敗した以上、醜い顔になろうが知ったこっちゃない。そんな私に
「お嬢様、落ち着いて下さい。令嬢がクソと言ってはいけません。一体何があったのですか?」
私を椅子に座らせ、すかさずハーブティを入れる。早速今日起こった出来事を、事細かく話した。
「なるほど、完全にお嬢様に惚れた殿下を、精一杯振ってギャフンと言わせようとしたところ、実は怪獣だった殿下に軽くかわされ、ショックで怒り狂っているという事ですね」
「ええ…まあ、そんな感じ」
なんだか少しおかしな気もするが、まあ、大体あっている。
「でも、王太子殿下に見初められ、見返すことが出来たのですからいいではありませんか。それで、これからお嬢様はどうなされるおつもりですか?」
「どうするもこうするもないわ。私は今まで通り、生きるつもりよ」
「そうはおっしゃられましても、お嬢様は公爵令嬢です。いつかは誰かとご結婚なされないといけないのですよ。最近王族からのプッシュも激しく来ている様ですし、社交界でもお嬢様と王太子殿下がいずれ婚約するのではと言われております。そんな中、お嬢様と婚約してくれる猛者が現れるとも思えません。このままいくと、お嬢様はいずれ王太子殿下と結婚する事になるのでは…」
「何でそうなるのよ。私はただ、ライムをギャフンと言わせたかっただけなのに…」
そもそも私は、ライムをギャフンと言わせる事を目標に生きていたのだ。そのギャフンが不発に終わった今、どうすればいいのかわからない。きっと今後も、ギャフンと言わせることは出来ないだろう。
「お嬢様、よく考えてみてください。たとえ怪獣でも、相手は王太子です。結婚すれば、あなたは王妃様。王妃様になれば、今まで以上に孤児院や修道院の改善に取り掛かれますわ。例えば教育を無償にするとか、そう言った思い切った改革も出来ます」
なるほど、確かに色々と出来る事も増える。でも、私の事を全力で拒否したライムと結婚するなんて、やっぱり嫌だ。
「シャティ、公爵令嬢でも出来る事はあるわ。ねえ、ずっとこの家にいる事はできないかしら?正直結婚なんて興味がないの」
「お嬢様を溺愛している旦那様がいるうちはいいかもしれませんが、お坊ちゃまの代になった時、お嬢様の身の保証は出来かねるかと…」
確かにあのお兄様なら、私を平気で追い出しそうね。あっ、でも追い出されたら、また修道院にお世話になればいいのよ。そうだわ、そうしましょう。
「修道院にお世話になろうと思っていらっしゃるのでしょうが、お坊ちゃまはそんなに甘くありませんよ。下手をすると、20歳以上年上の男性の後妻にさせられるかもしれません」
「う…」
あのお兄様ならやりかねない。どうしよう…
「とにかく、今後どうするかはよく考えられた方が宜しいかと。幸い、まだお嬢様は貴族学院1年です。後4年近く考える時間はありますわ」
「確かにそうね。わかったわ。とにかく今後どうするか考えてみる…」
今は貴族学院に入学したばかりだ。まだ時間はある。とにかく今を楽しんで生きよう。まあ、お父様も色々と考えてくれているだろうし、もしかしたら公爵家の一部を私の為にくれるかもしれないものね。
「お嬢様、そろそろ晩御飯の時間でございます」
もうそんな時間か。急いで食堂に向かう。そんな中、話しかけて来たのはお父様だ。
「セイラ、今日は王太子と一緒に孤児院に行ったらしいな。もしかして、王太子との婚約を考えているのか?」
「いいえ、これっぽっちも考えておりませんわ。私は殿下と結婚したくはありません。でも公爵家の為には、いずれ誰かと結婚しないといけないのですよね?」
この際だからお父様の考えを知りたかったのだ。
「セイラ、お前が嫁ぎたくないのなら、別に嫁がなくても俺は構わないぞ。父上、セイラは今、恵まれない子供たちの為に一生懸命動いております。本人が望むなら、公爵家の領地の一部を与えてもいいと、俺は考えております」
「お兄様…それは本当ですか?」
「ああ、俺は今のセイラを応援したいと思っているからな。もちろん、誰か気に入った令息がいるなら、結婚すればいい。ただ、無理に好きでもないやつと結婚する必要はない。お前は俺の妹だ。お前の面倒ぐらい、俺が見てやる」
これは罠かしら?あの意地悪なお兄様が、そんな事を言うなんて…どうしても信用できなくて、固まっていると
「ジャックもそう言っているし、無理に結婚する必要はない。最近のセイラは本当に人が変わったように、慈善事業を行っているからな。貴族界でもお前の評判はうなぎのぼり、私の鼻も高々だ。お前の人生だ、好きなように生きなさい」
「そうよ、セイラ。結婚だけが幸せではないものね」
そう言ってほほ笑んだお母様。お父様もお母様も、そして敵だと思っていたお兄様も、私の味方の様だ。
「ありがとうございます。思う様に生きますわ」
自分が思う様に生きるか。それならこのまま結婚せずに、孤児院の改善に全力を注ぐのもいいわね。なんだか新たな目標が見えた気がするわ。
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