第7話 少年が修道院を見学に来ました
修道院に来て早半年。少しずつではあるが、この暮らしにも慣れて来た。やはり人間、得意不得意がある。その為院長の計らいで、私は主に子供たちのお世話を担当する事になった。
親がおらず経済的にも厳しい環境下にある子供たちの為に、字の読み書きや簡単な計算も教えている。
「セイラおねえちゃんは、なんでもしっていてすごいね」
そう言われると嬉しくて、つい私も必死に勉強をしてしまう。だって、子供たちに聞かれた事を答えられないと恥ずかしいでしょう?そう思ったのだ。そのお陰で、勉学の方もかなり上達した。
他にも料理も少しづつだが覚えて来た。それでも私が焼いたパンはボコボコで、見るも無残だが、褒めてくれる先輩シスターたち。あの日以来、すっかり優しくなったのだ。
「よく考えたら、あなたはまだ13歳なのよね。厳しくしてごめんなさい」
そう謝ってくれた。そう、先日無事誕生日を迎え、13歳になったのだ。
今日も先輩シスターに教えてもらいながら、パンを焼く。やっぱりいびつな私のパンを見ながら、皆苦笑いをしている。その時だった。院長が皆に声を掛けたのだ。一体何かしら?
「皆さん、今日1日この修道院を見学にいらした、サフィさんよ。よろしくね」
院長が連れて来たのは、茶色の髪に青い瞳をした少年だ。歳は私と同じくらいかしら。
「サフィです。今日1日、よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げるサフィさん。
「ねえ、あの子、とてもいい服を着ているわね。どこかの貴族かしら?」
「貴族がこんな修道院を見学したがるかしら?」
「それもそうね」
先輩シスターの話し声が聞こえてくる。確かにこぎれいな格好をしているから、貴族かもしれないわね。ちなみに、私も貴族なんだけれど…
そんな事を考えつつ、それぞれの持ち場に戻る。さあ、今日も子供たちに字を教えないと。
「セイラおねえちゃん、これなんてよむの?」
「セイラおねえちゃん、このけいさんがわかんない」
次々と質問してくる子供たちに、1つ1つ丁寧に教えていく。すると
「君もシスターなのかい?随分と若いシスターなんだね」
話しかけて来たのは、サフィさんだ。
「はい、私もここのシスターで、セイラと申します。先日13歳になりました」
「僕と同じ年だね。それで、君は子供たちに文字を教えているのかい?」
「はい、私は料理も掃除も苦手なので。唯一出来る事が、子供たちのお世話くらいで…」
自分でもびっくりするくらい、何もできない事をここに来て痛感した。そんな中、私に唯一出来る事が、子供たちのお世話だ。幸い子供たちも懐いてくれている。
「そうなんだね。ねえ、僕も一緒に子供たちに字や計算を教えてもいいかな?」
「ええ、もちろんです。きっと喜びますわ」
「おにいちゃんもおしえてくれるの?それじゃあ、このごほんよんで」
「ぼくはこのけいさんがわからないの」
一斉にサフィさんに群がる子供たち。子供って目新しい人に行くものなのね。それでも私の側には、女の子を中心に集まっている。すると、奥の方で泣いている子が。キサリーだ。まだ3歳のキサリーは、とっても甘えん坊。
「キサリー、どうしたの?」
泣いているキサリーを抱っこして優しく問いかける。
「またクマちゃんのおててがとれちゃったの。セイラおねえちゃんがなおしてくれたおてて」
そう言って泣いている。先日も取れて泣いていたから、私が付け直したのだが、やっぱり私ではダメだったか…
「そっか、ごめんね。お姉ちゃんの付け方が悪かったのね。そうだわ、シャティに頼んで付け直してもらいましょう」
「でも、シャティおねえちゃん、こわい…」
少しきつい性格のシャティは、なぜか子供たちから怖がられている。まあ、あれくらい気が強くないと、当時の私の専属メイドは務まらなかったのだけれどね。
「大丈夫よ、私が頼んであげるから。さあ、もう泣かないで」
「うん」
そう言うと、嬉しそうに笑ったキサリー。あぁ、この笑顔、可愛いわ。つい頬ずりをしてしまう。
「君は子供たちが大好きなんだね。見ていてなんだか心が温まるよ」
なぜかそんな事を言い出したサフィさん。
「そうですね。この子たちは人懐っこくて温かくて、この辛い修道院で生きていく中での支えになってくれている存在です。この子たちには感謝していますわ」
最初は嫌で嫌で仕方がなくて何度も泣いた。逃げ出そうとしたこともあったけれど、やっぱりこの子たちの笑顔を見ると、もう少しここにいてもいいのかなって思っちゃうのよね。
「君もまだ子供なのに、随分と苦労して生きているんだね」
苦労?私が?まあ、確かに苦労していると言えばそうだけれど、でも…
「私は自分の意思でここにやって来ました。確かに辛くて逃げ出したいと思う事もありますし、苦労していると言えばそうかもしれません。でも、これもすべて自分で選んだ道なので」
お兄様とシャティに丸め込まれたところはあるが、それでも自分で決めてここに来たのだ。そんな同情の眼差して見られる筋合いはない。
「自分で選んだ道か…まだ13歳なのに…セイラ、またここに来てもいいかな?」
「ええ、もちろんです。あなた様がいらっしゃると、子供たちも喜びますので」
「ありがとう、セイラ」
そう言うと、嬉しそうに笑ったサフィさん。サフィさんも、きっと子供たちが可愛く思えたのね。
「それじゃあ、僕はもう帰るよ。またね、セイラ」
「はい、またお待ちしておりますわ」
この国に来て、初めて出会った同年代の子。また来ると言っていたし、仲良くなれると嬉しいわ。それに子供たちも懐いていたし。サフィさんの乗った馬車に手を振りながら、そんな事を考えたのであった。
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