第8話 修道院に子供たちにもっと色々としてあげたい

「セイラおねえちゃん、ペンがおれっちゃった」


「まあ、ペンは3本しかないのに…でも、随分ボロボロだったものね。ノートも書く場所がもうないくらい、書きつくしているし」


毎日字や簡単な計算をする事になったのだが、それに伴い勉強道具が必要になった。でも、修道院と孤児院には毎月限られたお金しか国から与えられていないらしい。その為、衣食を中心に買うため、どうしても勉強道具は買ってもらえないのだ。


う~ん、まさかお金で苦労するなんて思わなかった。公爵令嬢だったころは、湯水のようにお金を使っていた。でも中にはお金がなく、欲しい物が買えない人たちがたくさんいるのね…今になってお金の大切さを身に染みた。


とにかくダメもとで、院長にノートやペンを買ってもらえないか聞いてみよう。早速院長の部屋を訪ねて聞いてみる。


「ペンやノートねぇ。買ってあげたいのは山々なんだけれど、それよりも今は子供たちに栄養のある食事を食べさせてあげたいの。それに、服もボロボロだから、新しい物も買ってあげたいし。今何とか国から頂くお金を増やしてもらえないか交渉しているのだけれど、中々いい返事がもらえなくてね…」


そう言ってため息をつく院長。確かに院長が言う通り、もっと栄養のある食事を食べさせてあげたり、ボロボロの服を買い替えてあげる方が先よね。でも、どうして国はこんなにもケチなのかしら。貴族たちはいつも、湯水の様にお金を使っているのに…


悶々とした気持ちのまま歩いていると


「やあ、セイラ。どうしたんだい?そんな難しい顔をして」


話しかけて来たのは、サフィさんだ。あの日以来、週2回のペースで修道院を訪ねてきている。そのせいか、すっかり仲良くなった。


「実は子供たちの勉強用のノートやペンがかなり不足していて。でも、予算的に買えないのです。一応予算を増やしてもらえる様に交渉はしているのですが、難しい様で」


「なるほど、この国には沢山の修道院や孤児院があるからね。中々予算を増やすことは厳しいのかもしれないね」


「でも、貴族たちは湯水の様にお金を使っていますわ。やれ新しいドレスだ、宝石だと言って。そんなお金があるなら、少しくらい子供たちに回してあげてもいいじゃない…」


そう言いかけたところで、ハッとなった。そんな事、私が言える立場ではない。現に私も、今まで当たり前の様に使っていたのだから…きっとうちの国でも、この国の子供たちの様に、貧しい生活を強いられていたはず…


私にこの国を責める資格なんてない。だって私は、貴族側の人間なのだから…


そう思ったら涙がこみ上げて来た。自分の事を棚に上げて、人を批判するなんて。私はまだまだダメね。これじゃあライムをギャフンとなんて言わせられいないわ。


「泣かないでくれ。君が泣くと、僕まで悲しくなるんだ。そうだね、君の言う通りだ。子供たちが何不自由なく暮らせる国こそ、これから発展していく国だと僕も思っている。セイラ、ありがとう。僕、ちょっとやらなきゃいけない事が出来たから、もう帰るよ」


そう言うと、帰っていったサフィさん。やらなきゃいけない事か。そうだわ、私はこれでも公爵令嬢。出来る事は私にもあるはず。


「シャティ、私が持っているこの香水とワンピース、売りに出してくれない?結構いい品よ、きっと高く売れると思うの」


「お嬢様、急に何を言い出すのですか?」


「このお金でね、子供たちにペンとノートをプレゼントしたいの。だって私に出来る事はこれくらいでしょう?」


自分の私物を売って、お金を作ろうと思ったのだ。


「は~、お嬢様、そのような事をしても、根本的な解決にはなりませんよ」


「わかっているわ。でも、今私に出来る事はこれくらいでしょう?やらないよりはやった方がいいと思うの。お願い、子供たちの喜ぶ顔が見たいの。もちろん、私からとか言わなくてもいいわ。匿名の贈り物ってことで」


「わかりました。でも、今回だけですからね。それから、毎月お坊ちゃまからお嬢様の品格維持費として費用を頂いておりますので、そのお金をこの国の子供たちに援助すると言うのはどうでしょうか?」


「まあ、あの意地悪なお兄様が、私の為にお金を送ってくれていたなんて。どうしてそれを早く言わないのよ」


「お嬢様には絶対に言うな、ドレスや宝石を買われたら大変だからとの事でしたので」


ちょっと、いくら何でも修道院に来てドレスや宝石なんて買わないわよ。一体私を何だと思っているのかしら?本当に失礼しちゃうわ。


「ねえシャティ、お兄様から送られてきたお金、孤児院や修道院に寄付したいのだけれど」


「わかりました。では早速手配させていただきます。ただ、この国の王都には沢山の孤児院や修道院がありますので、特定の場所に寄付するのではなく、協会に寄付すると言うかたちでも宜しいですか?」


「協会?」


「そうです、孤児院や修道院を取りまとめている協会があるのですが、そこに寄付をすれば、各院に平等に配ってくれます」


なるほど、そう言うところがあるのね。


「わかったわ、それでお願い。それから、子供たちのペンやノートも忘れないでね」


「はい、分かりました」


早速出掛けて行ったシャティ。そしてその日の夕方。


「お嬢様、これ、ノートとペンです。お嬢様の私物を売って手に入れたお金で買いました。院長には許可を取っておりますので、ぜひお嬢様の手から皆に渡してあげて下さい」


そう言って沢山のノートとペンを私に渡してきたシャティ。あの服と香水が、こんなにも沢山のペンとノートになったのね。


早速子供たちにペンとノートを持って行く。


「皆、親切な方があなたたちにペンやノートを買ってくださったわよ」


「ほんとう?わぁ~」


嬉しそうに駆け寄ってくる子供たち。


「こんなにたくさん、うれしいわ。わたし、このペンとノートがいい」


「ぼくはこれ」


皆が一斉にノートとペンを手にとる。子供たち全員が手にとっても、まだ残るくらいあるノートとペン。そうだわ、残りは別の孤児院に寄付しよう。


それにしても、新しいノートとペンを手にした子供たちの喜びようったら半端ないわね。こんなに喜んでくれるなんて…

子供たちの笑顔を見つめ、改めて私物を売ってよかったと思ったのであった。

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