第9話 サフィさんと一緒に買い物に出かけました【前編】
「セイラ、今度僕と一緒に買い物に行かないかい?」
いつもの様に修道院にやって来たサフィさんが、急にそんな事を言い出したのだ。
「お買い物ですか?でも私は、修道院でお世話になっている身。勝手に街に出かける事は、禁止されているので」
私たちシスターは、基本的に院長の許可がないと外出できない。そもそも、買い物に出かけると言う理由で外出するなんて、きっと院長に怒られるわ。
「もう院長には、許可を取ってあるよ。それに来週は、年に一度の誕生祭だ。子供たちに、誕生祭のプレゼントを買いに行こう。きっと喜ぶよ」
「誕生祭?」
初めて聞く言葉に、首をかしげる。
「君は誕生祭を知らないのかい?誕生祭は、この国が誕生した記念すべき日なんだよ。毎年国を挙げて、盛大にお祝いするんだ。もしかして、この国の出身じゃないのかい?」
なるほど、この国にはそんな日があるのね。そう言えば先輩シスターたちも、誕生祭がどうとかこう言っていたわ。
「ごめんなさい、実は私はこの国の出身ではなくて。でも、そんな素敵なお祭りがあるなら、子供たちと一緒にお祝いしたいわ」
「よし、決まり。早速一緒に買い物に行こう。お金は既に院長から預かっているから、安心して欲しい」
私の手を取り、馬車へと乗り込む。馬車に乗るなんて、どれくらいぶりだろう。そもそも修道院から出るのが久しぶりすぎて、つい馬車から街を眺めてしまう。
「セイラ、そんなに街が珍しいかい?そう言えば、シスターたちはあまり街に出ないと聞いたことがあるな」
「はい、私たちは自由に外に出る事を禁じられていますので。私、この国に来て、街に買い物に出るのは初めてです」
祖国でもあまり街に買い物には行かなかったけれどね。毎回デザイナーや宝石商を呼びつけて、買いあさっていたから。外に出るときと言えば、お茶会やライムに会いに王宮に行く時くらいだった。
「それじゃあ、今日は色々と見て回ろう」
そう言ってにっこり笑ったサフィさん。そう言えばこの馬車、家紋とかついていないわね。てっきりサティさんは貴族なのかと思ったけれど、もしかしたら、お金持ちの商人の息子なのかもしれないわ。
しばらく走ると、馬車が停まった。サティさんに手を引かれ、馬車から降りる。目の前には沢山の人が。それに、お店も立ち並んでいた。
「凄い人ですわね。迷子になりそう…」
「そうだね、迷子になると大変だから、僕の手をしっかり握っているんだよ」
そう言って私の手をギューッと握ったサティさん。指と指を絡み合わせて繋ぐ方法もあるのね。確かにこのつなぎ方なら、離れる事もないだろう。
「それじゃあ、まずは子供たちのプレゼントから選びましょう。院長からいくらくらい預かって来たのですか?」
「あぁ…1人当たり、300ゼニーってところかな」
300ゼニーか。はっきり言って、お金なんて使った事がない。一体どれくらいの金額なのかよくわからないが、とにかく店を回る。あっ、このぬいぐるみ、可愛いわ。早速値札を見ると、1500ゼニーと書かれていた。
ウソ、こんなにするの?それじゃあこっちは?隣の小さなぬいぐるみを見る。これも800ゼニー。これも買えないわ…
「300ゼニーだと、ちょっと厳しそうだね…」
隣で苦笑いしているサフィさん。仕方なく別のお店に行く事にした。ふと街のショーウィンドーに飾られているドレスに目が留まる。これ、私が普段着で来ていた様なドレスによく似ているわね。いくらくらいするのかしら?
ふと値札を見ると、なんと50万ゼニーもするのだ。えぇぇ、こんな普段着のドレスが、こんなに高いの…私、一体どれくらい無駄使いをしていたのかしら…自分の金遣いの荒さに、絶望した瞬間である。
「セイラ、このドレスが気に入ったのかい?」
私がドレスの前で落ち込んでいる為か、そう聞いてきたサティさん。
「いいえ、ドレスはいくらくらいするのかと気になっただけです。さあ、次のお店を見て回りましょう」
気を取り直し、別のお店に向かう。ここでも、どれも高くて買えない。こうなったら何なら買えるのか、お店の人に聞いてみよう。そう思い、店主に聞くと
「300ゼニーか、それだと、このお菓子の詰め合わせくらいかなぁ」
そう言って、小さな袋に入ったお菓子の詰め合わせを見せてくれた。たったこれっぽっちのお菓子しか買えないのか…でも、きっとお菓子なんてめったに食べられない子供たちは、大喜びしそうね。よし、これにしよう。
早速子供の人数分を購入した。すると
「はい、これ。君たちの分。サービスね」
そう言って2つお菓子をくれた。
「ありがとうございます」
こうやって誰かに親切にしてもらえた事が嬉しくて、つい頬が緩む。
「せっかくだから、あそこのベンチに座って一緒にお菓子を食べよう」
サフィさんと一緒にベンチに座り、早速袋の中のお菓子を食べる。あぁ、甘いお菓子を食べたのはいつぶりだろう。美味しくてついつい笑顔になる。お菓子ってこんなに美味しかったかしら?そう思うほど、とても美味しい。
その時だった。強い風がふき私のベールが飛んでしまったのだ。
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