第13話 公爵令嬢に戻ります

「お嬢様、今日から再び公爵令嬢として振舞っていただきます。シスターとしての仕事が忙しく、ほとんど令嬢としての勉強やレッスンがこの1年出来ませんでしたので、国に戻ったら、みっちりとレッスンを受けていただきます。それから、今日泊まるホテルでは、髪や体のケアをしっかりさせていただきますから、そのつもりで」


そうか、私はただのセイラから、公爵令嬢セイラ・ミューディレスに戻るのね。1年も平民として生きて来たのだ。急に公爵令嬢に戻れと言われても…


なんだか一抹の不安を覚えつつ、ホテルに着いた。行きとは比べ物にならない程、立派なホテルだ。


「シャティ、こんな立派なホテルでなくてもいいのだけれど…」


「何をおっしゃっているのですか。あなたは公爵令嬢なのですよ。このホテルでも、まだお嬢様が泊まるには貧相なくらいです」


そう言われても、この1年ですっかり修道院生活が身に付いている。でも、徐々に貴族令嬢としての生活を取り戻さないと。


シャティに案内された部屋は、最上階の一番いい部屋だった。こんな立派な部屋に泊まるくらいなら、そのお金で子供たちに美味しい食事や洋服を買ってあげたい。ついそんな事を考えてしまう。


そして部屋で待っていたのは、お兄様だ。


「よう、セイラ。修道院での生活で、随分と人間らしい心を手に入れたらしいな」


人間らしい心とは何よ。まるで以前までの私が、怪物だった様な言い方をしてくれるじゃない。でも、お兄様が言っている事は間違っていないのが、また腹ただしい。


「お兄様、何をしに来たのですか?まさか私に小言を言いに来たのですか?」


「いいや、お前、今回修道院で暮らしてみて、色々と感じた事があるのではないかと思ってな。俺に協力できることがあれば、協力してやろうと思って来てやったんだ」


そう言うと、ニヤリと笑った。相変わらず、何を考えているのかよくわからないお兄様だ。


「実は私、国に帰ったら修道院や孤児院の生活を改善する協会を立ち上げようと思っておりますの。ただ、我が国の状況をまだ確認しておりませんので、まずは孤児院や修道院を訪ねようと思っておりますわ」


「なるほど、確かにシャティの報告通りだな。いいだろう、その協会の立ち上げ、俺も手伝ってやろう。この国一の貴族である、ミューディレス公爵家の人間が立ち上げた協会となれば、他の貴族も協力的なはず。お前を代表として、手続きを行おう。それから、我が国の孤児院や修道院の状況だが、お前がいたクレーション王国と同じか、もう少し酷いくらいだ。まあ、実際自分の目で見て確認するのもいいだろう」


えっ?お兄様が手伝ってくれるですって?あの意地悪で嫌味しか言わないお兄様が?もしかして、これは罠かしら?疑いの眼差しでお兄様を見つめる。


「何だその目は。俺は元々、お前をまともな人間にしたいと思っていたんだ。俺のたった1人の妹だからな。お前が協会を立ち上げるなら、兄として全面的にバックアップをするのは、当然の事だろう」


正直まだ疑いしかないが、手続きも大変そうだし、ここはお兄様に任せておくか。


「わかりました。では、よろしくお願いします」

私の返答に、満足そうに頷くお兄様。


「そうそう、お前が見返したいと言っていた王太子殿下だが、今3人の婚約者候補が熾烈な争いを繰り広げているよ。お前以上に醜い争いを繰り広げているから、殿下もすっかり参ってしまっている。殿下を見返すなら、今がチャンスだぞ。今のお前なら、殿下を簡単に落とすことが出来るだろう」


そう言うと、ニヤリと笑ったお兄様。熾烈な争いって、どんな争いなのかしら。面倒な事にはあまり巻き込まれたくはないわ。でも、ライムをギャフンと言わせるためには、今がチャンスという訳ね。


「それじゃあ、俺は協会を立ち上げる準備を進める為、先に帰る。セイラも気を付けて帰って来いよ」


そう言うと、部屋から出て行ったお兄様。もしかして、今から家に帰るのかしら?もう夜なのに…まあ、あの人はタフだから大丈夫か。


「さあ、お嬢様、早速体を磨き上げますよ」


すかさずシャティに浴槽へ連れていかれた。そして、これでもかと言うほど磨かれ、保湿剤を付けられる。髪ももちろん、保湿剤をたっぷり付けられ、さらに全身パックまでさせられた。


やっと解放され、ベッドに潜り込む。何なの、このフカフカのベッドは。逆に落ち着かない。結局この日は、あまりのフカフカのベッドに興奮してしまい、中々寝付けなかったのであった。

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