第12話 国へ帰る時がやって来ました

楽しかった誕生祭も終わり、いよいよ明日は私が帰国する日。子供たちにはギリギリまで黙っていたくて、今日もいつも通りに過ごす。いつもの様に文字や計算を教えていると、サフィさんがやって来た。


最近さらにここに来る頻度も増え、週に3~4回は顔を出している。ただ忙しいのか、1~2時間程度滞在したら、帰ってしまう。それでも、子供たちはサフィさんが来ると大喜びだ。こんなに高頻度で来るなんて、よほど子供たちの事が好きなのだろう。


そうだわ、サフィさんにもお別れを言わないとね。


「サフィさん、ちょっとよろしいかしら?」


「ああ、構わないよ」


出来ればまだ子供たちには知られたくないので、2人で庭に出てベンチに座る。


「サフィさん、私、明日国に帰ります。だから、今日はお別れを言いたくて。今まで私と仲良くしてくれて、ありがとうございました。このブレスレット、大切にしますね」


もう二度とこの国に来ることはないだろう。サフィさんとも、もう二度と会う事はない。そう思ったら、胸がチクリと痛んだ。それでも、私は国に帰らないといけない。国に帰ったら、いよいよ貴族学院に入学する。


やっとライムにギャフンと言わせるチャンスが巡ってくるのだ。でも心のどこかで、子供たちやサフィさんと別れたくはない、そう思っている自分もいる。


「セイラ、国に帰るって、どういうことだい?君はこの修道院でずっと暮らすのではないのかい?」


「元々、1年と言う約束でここに来ましたので」


「そんな…」


頭を抱えるサフィさん。ブレスレットをくれるくらい、私の事を大切な友達として扱ってくれた。本当に彼には感謝しかない。


「サフィさん、今まで本当にありがとうございました。あなたの事は、一生忘れません。どうか、私の事も覚えていてください。それでは、私はこれで」


サフィさんに頭を下げ、子供たちのところに戻る。結局その後、サフィさんは戻ってこなかった。それでも、最後にきちんと挨拶が出来てよかったわ。


いつもの様に、子供たちを寝かしつけた後、自室に戻って来た。ここで眠るのも今日で最後ね。最初は嫌で嫌で、何度も帰りたいと思った。こんな場所、私がいるところではないと思った。でもいつの間にか、この場所が私の大切な場所になっていた。


この場所とも明日でお別れ…子供たち、きっと泣くわよね。そう思ったら、自然と涙がこみ上げて来た。次から次へと溢れる涙を抑える事が出来ず、何度もぬぐう。ダメよ、こんなところで泣いていたら。


私には、ライムをギャフンと言わせると言う野望があるのよ。それに、新たな目標も出来た。とにかく、明日に備えてもう寝よう。そう思い、ベッドに入り眠りについた。



翌日

「院長、皆様、本当に1年間、お世話になりました」


院長と先輩シスターたちに挨拶をした。


「こちらこそ、色々とありがとう。セイラさん、シャティさん、国に帰ってもお元気で。またいつでも遊びに来てね」


「はい、ありがとうございます」


そして、最後に子供たちの元へと向かう。私を見つけると、嬉しそうに飛んできた子供たち。


「セイラおねえちゃん、きょうはかわいいおようふくをきているのね。どうしたの?」


不思議そうに聞いてくる子供たち、


「皆、ずっと黙っていてごめんね。私とシャティは、今日この修道院を出る事になったの。皆とも、今日でお別れなの」


「え、いやだよ。おねえちゃん、いかないで」


「いやだ!」


子供たちが泣きながら私に抱き着いてきた。私もずっとこの子たちのそばに居たい。でも…


「ごめんね、皆。そうだわ、皆にいい物をあげる」


この日の為に、子供たちにプレゼントを準備したのだ。女の子にはぬいぐるみ、男の子にはおもちゃだ。


「わぁ、かわいい、ありがとう」


「このおもちゃであそぶ」



私のプレゼントに大喜びの子供たち。子供たちがぬいぐるみやおもちゃで楽しそうに遊び始めた。喜んでくれてよかったわ。つい子供たちを見つめてしまう。


「お嬢様、何をしているのですか。今のうちに馬車へ」



シャティに促され、急いで馬車に乗り込む。ゆっくり動き出す馬車。


「皆さん、本当にありがとうございました」


窓を開け、見送ってくれる院長やシスターたちに手を振る。皆も、手を振り返してくれていた。気が付くと、瞳からポロポロと涙が流れ出ていた。1年間過ごした修道院が、どんどん小さくなっていく。


それがなんだか物凄く悲しくて、どうしようもない気持ちになった。


「お嬢様、そろそろお座りください。危ないですよ」


「そうね。ねえ、シャティ、私、この1年で変われたかしら?」


「ええ、お嬢様は本当に変わられました。今のお嬢様にはもう興味もないかもしれませんが、きっと王太子殿下をギャフンと言わせることが出来るくらい、本当に魅力的な女性になりましたわ」


「あら、ライムをギャフンと言わせることは、私の使命よ。来月には貴族学院に入学する事も決まっているし、何が何でもライムを見返してやるんだから」


そうよ、私はその為に、この地に来たのだから。でも、正直ライムをギャフンと言わせられるような、魅力的な女性になったとは思えないが…


でもこの1年、物凄く有意義な時間を過ごせたから良しとしよう。それより、家に帰ったらやらなければいけない事が山積みだものね。


いつまでも悲しんでいる訳にも行かないわ!

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