第45話 2人の王太子の想い

辺りはもう暗く、街は灯りが灯され始めた。


「サフィール殿下、一体どこに向かうのですか?もう辺りは暗くなってしまっておりますわ」


「暗くならないと意味がないからね。もうすぐだから」


しばらく走ると、丘の上にたどり着いた。特に何もない丘だ。もしかして、ここが目的地?


「セイラ、着いたよ。おいで」


私を抱きかかえ、そのまま馬車を降りると、地面に座り込んだ。ふと地面を見ると、シートが敷かれている。


「セイラ、上を見てごらん」


サフィール殿下に言われ、空を見上げると…


「なんて綺麗な星空なのかしら…」


夜空には満点の星空が広がっていた。まるで、クレーション王国の誕生祭の時に見た星空の様だ。


「誕生祭の時に見た、星空を覚えているかい?あの時、僕は君に気持ちを伝えようと思っていたんだ。でも、それは叶わなかった。だから今、気持ちを伝えさせて欲しい。君に初めて出会った日から、僕は君に心を奪われた。聖母の様な優しい眼差しで子供たちに接する君を見て、僕の結婚相手は君しかいないと思ったんだ。そして君と過ごしていくうちに、どんどん君への想いが膨らんでいった。セイラ、僕は君を心から愛しています。どうか僕と共に歩んで欲しい」


真っすぐ私を見つめ、はっきりとそう告げたサフィール殿下。その瞳には、嘘偽りはない。気が付くと、瞳から涙が溢れていた。


「ありがとうございます、サフィール殿下。でも、私は見ての通り、足が不自由です。一生このままかもしれません。そんな私が、王妃になどなれる訳がありません。それに、あなたのご両親が私を受け入れないでしょう」


いくらサフィール殿下が大丈夫でも、きっとご両親は違うはずだ。それに何より、足の不自由な私をお嫁に貰っても、殿下が苦労するだけ。


「僕の両親には既に話しはしてあるし、僕の好きなようにしていいと言っている。それにもしセイラが、足が不自由な事で苦労する事があれば、僕が君の足になる。もう僕にとって、セイラはかけがえのない存在なんだ。君が足が不自由な事を気にしているのならば、僕がその分を補う。だってそれが、夫婦になるって事だろう?」


サフィール殿下が、私の足に…


「でも、セイラの気持ちも大切にしたいからね。返事は今すぐでなくてもいいよ。でも、僕が帰国する前までには聞かせてほしいな。と言っても、明後日には帰国するんだけれどね。さあ、随分と冷えて来たね。そろそろ帰ろう」


再び私を抱きかかえ、馬車に乗り込んだサフィール殿下。その後、どうやって家に帰ってきたのか、馬車の中でどんな会話をしたのか覚えていない。


翌日。

この日はちょうど貴族学院が休みの日。1人でサフィール殿下の事を考えていた。その時だった。


「お嬢様、ライム殿下がお見えです」


「えっ?ライム殿下が…」


急いでライムの待つ客間へと向かった。部屋に入るなり、ライムがこちらに向かって走って来た。


「セイラ、サフィール殿下に告白されたと聞いたよ。それで、慌てて君を訪ねて来たんだ」


「そうでしたか。さあ、まずはお座りください」


興奮気味のライムをソファーに座らせ、私も向かいに座った。


「それでセイラはどうするんだい?サフィール殿下に付いて行くのかい?」


ライムの問いかけに、何て答えていいかわからず、言葉に詰まる。そんな私を見て、急に立ち上がり、私の方へとやって来た。


「セイラ、僕は君が好きだ。誰よりも優しくて、強くて、美しい君が。僕は王太子としてまだまだ未熟で、失敗してしまう事も多い。でも、君を愛する気持ちは誰にも負けない。セイラ、僕と一緒に、この国を支えて行ってくれないかい?母上も君を待っているよ」


「ライム殿下と、この国を…でも、私は足が不自由です。だから…」


「そんなの、関係ないよ。足が不自由でも、君はきっと立派な王妃になれる。僕はそう確信している」


立派な王妃になれるか…ライムと共に、国を支える…


「ありがとうございます、ライム殿下。サフィール殿下の事もありますので、少し考えさせていただけますか?」


「ああ、もちろんだ。急に押しかけてすまなかった。ゆっくり考えてくれ」


そう言うと、そのまま帰っていったライム。


中々その場から動く事が出来ない私に


「お嬢様、そろそろお部屋に戻りましょう」


そう声を掛けて来たシャティ。


「そうね、ここでボーっとしていても仕方がないものね」


シャティと一緒に、一旦部屋に戻ってきた。部屋に戻ると、シャティがハーブティを入れてくれる。


「お嬢様、私はお嬢様がどこに行こうが、ずっとあなた様の側におります。ですので、どうかお嬢様が思うがまま、自分のお気持ちに正直に行動に移してください。どうか、後悔なさらない様」


「後悔しない様?」


「そうです。後悔しない様にです」


そう言うと、ほほ笑んだシャティ。私が後悔しない様にか…

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