第44話 サフィール殿下に街に誘われました

貴族学院に復学してから、早2ヶ月。最初は好奇な目で見てくる生徒もいたが、もう皆、私の杖姿にもすっかり慣れた様だ。


そして、私たちは2年生になった。基本的にクラス替えがないので、2年生でも皆同じクラスだ。ちなみにお兄様は貴族学院を卒業してしまったので、今は1人で登校している。


相変わらずリハビリを続けているが、まだまだ杖がないと歩くことが出来ない。それでも、随分と歩くことが上手になってきた。


不自由な事も多いけれど、たくさんの仲間が私を支えてくれるお陰で、楽しく生活できている。


今日も令嬢たちと、おしゃべりに花を咲かせている。


「そういえば、もうすぐサフィール殿下の留学期間も終わるわね。今日で貴族学院も最後みたいだし。それで、セイラはどうするつもり?」


そう、サフィール殿下の留学期間でもある半年が、もう間近に迫っているのだ。


「どうもしないわよ。ただ…やっぱり寂しいわよね」


サフィール殿下とは、クレーション王国からの仲だ。私にとって、とても大切な友達…


「もう、そうじゃなくて、セイラはサフィール殿下と一緒に、クレーション王国にはいかないの?て聞いているのよ。本当に鈍いんだから」


そう言って、頬を膨らませているアイリ。


「サフィール殿下は王太子なのよ。私の様な足が不自由な令嬢を、お嫁さんにしたい訳ないでしょう。口ではああいっているけれど、実際は現実的ではないわ」


サフィール殿下は、ずっと私を大切に思ってくれている。でも、彼は王太子。私の様な人間が、王妃になれる訳がない。何よりきっと、サフィール殿下のご両親が反対するわ。


「そうかしら?セイラは足が不自由な事を気にしているけれど、足が不自由な王妃がいても、私はいいと思うけれどな…それに大切なのは、セイラの気持ちでしょう?私たちは、セイラがどんな結果を出そうとも、応援しているからね」


そう言って、にっこり笑ったアイリ。マリーたち他の令嬢も頷いている。もう、みんな勝手な事を言って!そもそも私とサフィール殿下は、そんな関係ではないのだ!


そう思いながら、令嬢たちと別れて1人で馬車に向かって歩いていると


「セイラ!!」


向こうから嬉しそうに走って来るサフィール殿下の姿が。


「今帰りかい?ねえ、今からちょっと一緒に出掛けないかい?」


「えっ?今からですか?」


「ああ、そうだよ。ね、お願い」


もうすぐサフィール殿下も、クレーション王国に帰ってしまう。国に帰ったら、もう二度と会えないかもしれない。


「わかりましたわ。私でよければ、お付き合いします」


「よかった!ありがとう。それじゃあ、早速出かけよう」


私の手を取り、ゆっくり馬車に乗せてくれた。向かった先は、街の中心部だ。馬車を降りると、目の前には美味しそうなケーキ屋さんが。


「この前令嬢と、ここのケーキ屋さんに来たいと言っていたよね。僕もどうしても君と来たくて。さあ、中に入ろう」


確かにこの前、令嬢たちと話していたお店だ。確か可愛い動物のケーキが有名なのよね。まさか、あの時の話しをサフィール殿下が聞いていたなんて。


早速サフィール殿下に手を引かれ、お店の中に入って行く。ガラスケースの中には、たくさんの動物の形をしたケーキが並んでいた。


「まあ、なんて可愛いケーキなのかしら?」


ついガラスケースの前で立ち止まってしまった。


「セイラ、ここで立ち止まっていたら邪魔になるよ。奥に部屋を取ってあるから、席に座ってゆっくり食べよう」


サフィール殿下が私の手を取り、奥の部屋にエスコートしてくれた。早速席に座ると、次々とケーキが運ばれてきた。それにしても、凄い量だ。


「せっかくだから、色々なケーキを食べたいと思ってね。そうだ、シェアしながら一緒に食べよう。そうすれば、たくさんのケーキが食べられるよ」


確かにシェアしながら食べたら、よりたくさんの種類が食べられるわね。早速2人で1つのケーキを食べていく。


「なんだかクレーション王国の街に、一緒に買い物に行った時の事を思い出しますね。あの時も、一緒にお菓子をシェアしたのですよね」


あの時の記憶が蘇り、懐かしい気持ちになった。


「そうだったね。あの時、初めて君の美しい銀色の髪を見て、釘付けになった事、知っていた?」


「えっ?そうだったのですか?」


確かにあの時、風でベールが飛び、髪が露わになった。


「あの時、あまりの美しさに目を奪われたんだ。本当に、女神様かと思ったよ」


女神様だなんて、大げさね。でも、そんな風に言われると、なんだか恥ずかしいわ。顔を赤くする私に


「照れているのかい?照れている君も可愛いね」


なんて言って、からかってくるサフィール殿下。もう、そんな事を言われたら、もっと顔が赤くなるじゃない!なんだか恥ずかしくなって、黙々とケーキを食べ続けた。結局全て食べきれず、残りは持ち帰る事にした。


お店の外に出ると、日が沈みかかっていた。


「もうこんな時間になってしまったね。もう少しだけ、僕に時間をくれるかい?」


「ええ、大丈夫ですわ」


「ありがとう。それじゃあ、行こうか」


そう言うと、再び馬車へと誘導するサフィール殿下。一体どこに向かうつもりなのかしら?

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