第43話 優しい仲間たちに囲まれて

「セイラ、そろそろ帰ろうか」


サフィール殿下とライム殿下が、私のところにやって来た。ふと窓の外を見ると、既に薄暗くなっていた。


「まあ、もうこんな時間なのね。皆と一緒にいると、楽しくてつい時間を忘れてしまうわ」


さすがにもう帰らないとね。ゆっくり立ち上がろうとした時だった。


「セイラおねえちゃん。わたしたちにつかまって」


そう言って、皆が手を差し伸べてくれた。


「ありがとう、皆」


子供たちに支えられながら、ゆっくり立ち上がる。そして、馬車に向かって歩いて行く。


「帰りは僕が抱っこしてあげるからね」


馬車の段差が上れない私を抱きかかえるライム。ライムったら、いつからこんなに逞しい体になったのかしら?そう思うほど、ガッチリとしている。そして、すかさず私を隣に座らせた。


「サフィール殿下、ライム殿下、今日はありがとうございました。久しぶりに子供たちと一緒に過ごせて、とても幸せでしたわ」


本当に今日は、楽しくてたまらなかった。私にとって孤児院は、いつの間にか心休まる場所の1つになっていたのだ。その事を、今日改めて知ることが出来た。


「セイラが望むなら、またいつでも行こう。僕はね、セイラがそうやって笑っていてくれる顔を見るのが、大好きなんだよ」


そう言ってほほ笑んだサフィール殿下。


「僕だって、セイラの笑顔が大好きだよ」


すかさず割って入ってくるライム。2人とも私から離れていくと思っていたのに、私の足が思う様に動かなくなっても、今まで通り接してくれる。


サフィール殿下やライムだけではない。学院の友人が孤児院の子供たち、シャティや両親、お兄様も今まで通り接してくれる。それが嬉しくてたまらないのだ。


「サフィール殿下、ライム殿下、随分と足も動くようになったので、来週から貴族学院に通おうと思います。中には私を好奇な目で見る生徒もいるでしょう。でも、私には今まで通り接してくれる仲間います。だから、胸を張って通いますわ」


心待ちにしていた貴族学院。でもそれと同時に、他の生徒からの好奇な目にさらされないかという不安があった。でも、やっぱり私は、皆と一緒に学院に通いたい。その思いが、日に日に強くなっていき、ついに先日、渋る両親を説得し、貴族学院への復学が決まったのだ。


「そうか、セイラもついに貴族学院に復学するんだね。一緒に学院に通えるのを、楽しみにしているよ」


「もしセイラをからかう奴がいたら、僕たちがぶっ飛ばしてあげるから、安心して」


「2人とも、ありがとうございます」


私の言葉を聞き、嬉しそうに微笑むサフィール殿下とライム。その後、3人で学院の話しをしながら、家路についたのであった。



1週間後。

ついに貴族学院復学の日を迎えた。薬とマッサージが少しずつ効いてきたのか、ほんの少しだけ、足を動かせるようになった。それでもやはり、杖なしでは歩くことが出来ない。


それでも久しぶりに学院に行けるとあって、朝からワクワクしているのだ。


「お嬢様、今日は特に嬉しそうですね」


「そりゃそうよ、だって、今日は久しぶりに貴族学院に行けるのですもの。もちろん不安もあるけれど、楽しみの方が大きいわ。早く学院に行って、皆とたくさんお話しをしたいし」


毎日の様に皆が様子を見に来てくれるけれど、それでもやっぱり貴族学院で皆と話しが出来るのが楽しみでたまらないのだ。


シャティに手伝ってもらいながら、制服に袖を通す。そして、杖を突きながら、馬車に乗り込もうとした時だった。


「セイラ、俺が乗せてあげるよ」


そう言ってお兄様が抱きかかえて、馬車に乗せてくれた。


「ありがとうございます、お兄様。でも、これからは馬車に1人で乗れないといけないので」


「それはそうかもしれないが…俺がいる間は俺を頼るといい。もうすぐ俺も卒業してしまうのだから。とにかく、無理をするな。もし学院で嫌な思いをする様なら、学院なんて行かなくてもいいのだからな」


そう言い切ったお兄様。あんなに意地悪だったお兄様が、今ではすっかり過保護になっている。そのことが可笑しくて、つい笑ってしまった。


「何が可笑しいんだい?」


不思議そうに首をかしげるお兄様。


「だって、私を修道院に入れたり、悪い噂を流したり、いつも小言ばかり言っていたお兄様が、学院に行かなくていいだなんて。なんだか可笑しくて」


「俺はお前が大切だからこそ、心を鬼にしていたんだ。それに何より、妹を守るのは、兄として当然のことだ」


そう言って怒っていた。結局お兄様と話しをしている間に、学院についてしまった。


「とにかく、無理をする必要はない。俺が教室まで送ってやるが、嫌なら途中で帰ってもいいからな」


そう言って私を抱きかかえ、馬車から降りると…


「「「セイラ、おはよう」」」


なんと、門の前にはクラスの皆が。


「皆、わざわざ待っていてくれたの?」


「当たり前でしょう。私たちずっと、あなたが学院に来るのを待っていたのだから。さあ、早く教室に行きましょう」


皆が私の側にやってきてくれた。


「どうやら、俺が心配する必要は無かった様だな。皆、セイラをよろしく頼む」


そう言うと、お兄様は自分の教室に向かって歩いて行った。


「さあ、セイラ。歩ける?ゆっくりでいいから、一緒に教室に向かいましょう」


そう言って、令嬢たちが私を支えてくれる。そして、サフィール殿下やライムたち男性陣も、私たちを囲う様に歩いている。やっぱり貴族学院に来られてよかったわ。だって、こんなにもたくさんの友人が、私に手を差し伸べてくれているのだもの。


そう思ったら、心の中が温かい物で包まれた。その後、皆で教室に向かい、楽しい学院生活を再開させたのであった。

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