第37話 一命を取り留めたのですが…
「う~ん…」
ゆっくり目を開けると、見覚えのある天井。ここは…私の部屋?
「お嬢様、目を覚まされたのですね。よかった!今すぐ旦那様と奥様を呼んできますわ」
目に涙を浮かべたシャティが、走って部屋から出ていく。なんだかまだ頭がぼーっとする。そういえば、皆でピクニックに行っていた時に、毒蛇にかまれたのよね。その後、意識を失って…
「セイラ、よかったわ!目が覚めたのね」
ものすごい勢いで部屋に入って来たのは、お父様とお母様、さらにお兄様もいる。そのまま、両親に抱きしめられた。
「お父様、お母様、お兄様、心配をかけてごめんなさい」
急いでベッドから起き上がろうとしたのだが
「いいのよ、そのまま寝ていなさい。3日も眠っていたのだから、すぐに体を動かすのはよくないわ」
「えっ…3日も眠っていたの?」
「どうだよ。お前がかまれた毒蛇は、この国には存在しない毒蛇でね。解毒剤を準備するのに時間がかかってしまって…シャティがすぐに蛇を捕まえてくれたから、なんとか解毒剤を準備できたんだ。自分もかまれるかもしれない中、よくとっさに捕まえてくれた。本当にシャティには感謝しかない」
そうか、だからあの時シャティは蛇を掴んでいたのね!私の為に…
「シャティ、ありがとう。あなたは私の命の恩人だわ」
「いいえ、私は当たり前の事をしたまでです。それよりお嬢様、私が近くにいながら、お嬢様に危害を加えようとしている者の存在に気が付くことが出来ませんでした。申し訳ございませんでした」
今、危害を加えようとしている者と言ったわよね。一体どういう意味かしら?
「シャティ、さっき父上も話した通り、お前にかみついた蛇は、この国には存在しないんだ。という事は、誰かが意図的にあの場所に持ち込み、お前をかませた。あの蛇の特性を利用してね。今その調査を行っているところだ。近いうち犯人が捕まるだろう。それよりセイラ、ゆっくりと起き上がってくれるかい?」
「ええ、わかりました」
お兄様に言われ、体を動かそうとしたのだが…
あれ?なぜか、蛇にかまれた左足が動かない。それに、全く感覚がないわ…それでもなんとか体を動かした。
「お兄様…左足の感覚がありませんわ。それに、全く動きません」
「やっぱりか…」
悲しそうにお兄様が呟いた。
「お前をかんだ蛇はとても特殊でね。かんだ場所から徐々に筋肉が硬直していくのが特徴なんだ。その為、すぐに解毒剤を打たないと、命が助かっても体に障害が残る事もある…」
「そんな…それじゃあ私は…」
これからずっと、左足が動かないまま…
「大丈夫よ、セイラ。きっとあなたの足も、動くようになるわ。とにかく、一度お医者様に状況を見ていただきましょう」
その後、お医者様に診察をしてもらったが、やはり左足の膝辺りから動かなくなってしまっているらしい。ただ、ぎこちなくはなるが、歩くことは可能との事。それでも、令嬢にとっては大打撃だ。きっと嫁の貰い手はないだろう…
別に結婚したいと思っていたわけではないが、それでもショックだった。
「とにかく、薬の服用と足のマッサージを毎日行ってください。マッサージの方法は、明日説明いたします。それから、リハビリを行う事をお勧めします。」
「先生、お薬を飲んでマッサージをすれば、セイラの足は元通りになるのですか?」
お母様がお医者様に詰め寄っている。
「そうですね…ある程度は動くようになるでしょうが、完全に元に戻るのは厳しいかと…」
「そんな…」
隣でお母様が泣き崩れている。お父様やお兄様も、辛そうだ。シャティも今にも泣きそうな顔をしていた。家族にこんな悲しそうな顔をさせてしまうなんて…ここは何とかしないと。
「皆、そんな顔をしないでください。全く歩けない訳ではないのです。それに、リハビリも頑張りますわ」
極力笑顔で皆に伝えた。
「一番辛いはずのお前に気を遣わせるなんて、本当にすまない。とにかく、お前をこんな目に合わせた犯人を、必ず捕まえるから!こうしちゃいられない、ジャック、今から王宮に行くぞ」
「もちろんです。俺の可愛い妹のセイラを、こんな目に合わせたんだ。目に物を見せてやらないと」
目の色が変わったお父様とお兄様。そのまま部屋から出て行ってしまった。
「お母様、シャティも、もう大丈夫ですので。少し1人にしてもらえますか?」
今は1人になりたいのだ。
「わかったわ。何かあったらすぐに呼ぶのよ」
「お嬢様…本当に申し訳ございませんでした。何かありましたら、すぐに参ります」
そう言って2人も出て行った。2人の後ろ姿を見送った後、ベッドからゆっくり出て、歩こうとしたのだが…
「キャー」
左足が思う様に動かず、そのままベッドから落ちてしまった。やっぱり私の足…動かないのね…
先生は歩くことが出来るとおっしゃっていたけれど、歩く事も出来ないじゃない…
少し前まで、当たり前に出来ていたことが出来ない。今後社交界にも出られない。学院にも通えないし、子供たちの元にも行けないわ。それにこんな姿を、サフィール殿下やライムが見たら…
気が付くと、瞳からポロポロと涙が流れていた。思う様に動かない足を抑えながら、しばらく泣き続けた。
どれくらい1人で泣いただろう。しばらく泣いたら落ち着いてきた。とにかく、このまま泣いていても仕方がない。一旦体を起こし、再びベッドに這い上がった。正直、これからの事を考える余裕なんて、今の私にはない。
再び動かない足を見ていたら涙がこみ上げ、ベッドの上で涙を流したのであった。
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