第38話 シャティが私を支えてくれます

「お嬢様、お加減はいかがですか?」


シャティの声でふと目が覚めた。いつの間にか泣きながら眠っていた様だ。


「ええ、大丈夫よ」


とにかくこれ以上、シャティに心配をかける訳には行かない。極力気丈に振舞う。


「そうですか…そろそろ夕食のお時間ですが…」


「ごめんなさい、食欲がなくて…それに、うまく歩けないの。だから、今日はもう休むわ」


とてもじゃないが、食事なんて出来ない。


「そうですか。わかりました。でも、全く食事を召し上がらないと言う訳には行きませんので、食べやすい物をお部屋に運びます。それから、湯あみも行いましょう」


そう言うと、部屋から出て行った。そして、食べやすいスープを持ってきてくれた。でも…


やはりほとんど食べる事が出来ず、残してしまった。修道院に行って以来、一度も食事を残す事なんてなかったのに…もったいないわ。でも、どうしても食べられないのだ。そんな自分が不甲斐なくて、再び涙がこみ上げてきた。


ダメよ、シャティの前で泣くなんて!そう思って必死にこらえるが、抑える事など出来ない。


「無理に気持ちを抑える必要はありません。どうか私には、遠慮なさらないでください。お嬢様、あなた様を守れず、本当に申し訳ございませんでした」


そう言うと、私を抱きしめ、涙を流したシャティ。いつも気丈で、泣いたところなど見た事がなかったシャティが、泣いている…


その姿に、再び涙がこみ上げて来て、2人で抱き合って泣いた。しばらく2人で泣いた後、気を取り直したシャティが、すっと私から離れ


「失礼いたしました。さあ、お嬢様、湯あみをいたしましょう。ゆっくり立ち上がってください」


「でも私、歩けないのよ」


「大丈夫です、私がしっかり支えます。さあ」


シャティに言われ、ゆっくり立ち上がった。ふらつく体を、シャティがしっかり支えてくれる。そして、ゆっくり前に進んでいく。やはり左足がうまく動かせず、何度も転びそうになるのを、シャティが支えてくれた。


なんとか浴槽に着き、湯あみを済ませる。湯あみをしてさっぱりしたのか、少しだけ気持ちが落ち着いた。その後、私の足を優しく撫でてくれた。


「大丈夫です、お嬢様の足は、きっとまた動きますわ。明日から、早速リハビリを行っていきましょう」


「でも…」


「お嬢様は、あの厳しい修道院での生活を1年も過ごされたのです。大丈夫です。お嬢様、私が付いております。万が一一生お嬢様の足が動かなかったら、私がお嬢様の足になりますわ」


そう言ってほほ笑んだシャティ。その瞳には、強い決意が込められていた。きっと彼女は、自分の一生を私に捧げるつもりだろう。


「ありがとう、シャティ。正直まだ気持ちが付いて行かないけれど、出来ることは何でもやってみるわ。だって、このまま諦めるなんて嫌だものね」


「そうです、お嬢様!その意気です。さあ、今日はもうお休みください」


そう言って、私に布団をかけてくれた。


「ありがとう、シャティ。あなたが私の専属メイドで、私は幸せよ」


気が付くと、ぽつりとそう呟いていた。その言葉を聞き、一瞬大きく目を見開いたシャティが、目に涙を浮かべ


「私も、お嬢様の専属メイドをさせて頂けて、とても幸せです。それでは、失礼いたします」


そう言うと、急ぎ足で去って行った。今日のシャティは泣き虫ね。でも、私も人の事は言えないか。


当たり前の様に、私の側にいてくれるシャティ。彼女がいたから、私は今まで頑張ってこられた。今回だって、危険を顧みずに毒蛇を捕まえてくれたと聞いた。シャティの為にも、私も出来る事を頑張ろう。


それに先生も、リハビリすれば元に戻る事もあると言っていたわ。要するに、私の頑張り次第よ!よし、明日からしっかりリハビリを頑張って、少しでもシャティに安心してもらおう。


そう決意し、ゆっくり瞳を閉じたのであった。



翌日。

「お嬢様、移動時はとりあえず、車いすをお使いください」


朝一番にシャティが準備してくれたのは、車いすだ。確かにまだ歩くことが出来ない私には、車いすがあると便利ね。


「ありがとう、シャティ」


早速車いすに座り、食堂へと向かう。今にも泣きそうな両親と、神妙な顔のお兄様が私を見ていた。


「おはようございます。皆、どうしてそんな顔をしているのですか?私は大丈夫ですわ」


そう笑顔で答えた。さあ、今日からリハビリ開始だ。しっかり食べないとね。そんな私を見て


「セイラは強いね。俺も君の為に、出来る事をするよ」


そう言って、私の頭をポンポン叩いていたお兄様。もう、人の頭を何だと思っているのかしら?


「そうね、セイラが必死に明るく振舞っているのに、私たちが暗い顔をしていてはダメね」


「そうだな。私たちにはやらなければいけない事もあるし。さあ、ジャック、早く王宮に向かおう」


お父様もお母様も、少しだけ元気になった様だ。そして、お父様とお兄様は、急いで食事を済ませると、すぐに出かけてしまった。


食後はシャティの提案で、中庭を見て回る事になった。シャティ曰く、美しいお花を見ると、心が癒されるだろうとの事。最近中庭を見て回っていなかったわね。早速シャティに車いすを押してもらい、中庭へとやって来た。


久しぶりに来た中庭は、美しい花々が咲いていた。


「お嬢様、覚えていますか?お嬢様がパンジーがお好きだとおっしゃられたので、庭師がパンジー畑を作ってくれたのですよ」


「まあ、庭師が。私、全然知らなかったわ。それにしても、とても綺麗ね。後で庭師にお礼を言わないとね」


以前中庭で庭師と話しをしていた時、パンジーが好きと伝えたのだ。その時の事を、覚えてくれていたのね。嬉しいわ。もしかしてシャティは、このパンジー畑を見せるために、中庭に私を誘ったのかしら?きっとそうね。


そう思ったら、なんだか温かい気持ちになった。その後もシャティと一緒に、中庭の隅々までゆっくりと花々を見て回ったのであった。

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