第39話 王太子2人がお見舞いに来てくれました
「お嬢様、お疲れになったでしょう。そろそろお屋敷に戻りましょう」
「そうね、でもシャティ、私はずっと座っていただけだから、疲れてはいないわ。屋敷に戻ったら、早速リハビリを開始しましょう。少しでも早く、自分の足で歩ける様になりたいの」
「もう、お嬢様は。わかりました、でも、少し休憩した後に行いましょう。無理は禁物ですからね」
「わかったわ。それじゃあ、体に良いハーブティーを準備してくれる?」
「はい、かしこまりました」
シャティがにっこり笑ってそう答えてくれた。その時だった。
「お嬢様、ライム殿下とサフィール殿下がお見えです」
別のメイドが速足でやって来て、報告してくれた。私を心配して来てくれたのね。でも、もう私は2人と婚約する事はないのに…
「お嬢様、王太子殿下たちを待たせる訳には行きません。さあ、参りましょう」
何も答えず俯いている私に語り掛け、車いすを押し始めたシャティ。きっともう、私の足が動かなくなっていることを知っているだろう。とにかく来てくれたのに、会わない訳には行かないわよね。
きっとこれで2人とも、私との婚約も諦めるだろう…だって私は、足が不自由になってしまったのですもの。足の不自由な王妃なんて、聞いたことがないものね。でも、これで私は結婚することなく、子供たちの為に生涯をささげる事も出来る。
そうよ、私にはやりたいことがある。これでいいのよ。そう自分に言い聞かせた。
屋敷に着くと、すぐに客間へと案内された。
「お嬢様、参りましょう」
シャティがゆっくりと扉を開ける。その瞬間。
「セイラ!!」
ものすごい勢いで、2人が飛んできた。
「セイラ、すまない。僕のせいでこんな事になってしまって。公爵から聞いたよ。足が動かなくなってしまったんだってね。でも大丈夫だよ。僕が責任を持って、君の面倒をみるから」
そう言って私の手を握っているライム。
「セイラに気安く触らないでくれ!セイラ、辛かったね。君をこんな目に合わせた犯人はもう捕まったから、安心して欲しい。とにかく、今は無理をせずにゆっくり休むんだよ」
すかさずライムから私の手を奪い取り、ギューギュー握るサフィール殿下。あら?この状況って、いつも通りね。あまりにも2人のいつも通りの姿に、笑いがこみ上げて来て、声をあげて笑った。
そんな私を、キョトンとした顔で見ている2人。
「ごめんなさい。2人があまりにもいつも通りだったので、つい可笑しくなってしまって。でも、いつも通りでいてくれて、ありがとうございます。なんだか2人を見ていたら、元気になりましたわ」
「セイラが喜んでくれるならよかったよ」
そう言ってほほ笑んでくれたのは、サフィール殿下だ。少し落ち着いたところで、椅子に座ってお茶にする。
「それで、先ほどサフィール殿下は、犯人が捕まったとおっしゃられましたよね。一体誰が私を毒蛇に襲わせたのですか?そもそも、そんなに都合よく毒蛇が私を襲う事なんて、あるのですか?」
気になっていたことを、早速サフィール殿下に問いかけた。すると、王太子2人が互いに顔を見合わせている。きっと、言い辛い事なのだろう…
「セイラ、落ち着いて聞いて欲しい。結論から言うと、君を毒蛇に襲わせたのは、サリー嬢とフェミナ嬢だ。ライム殿下の婚約者に返り咲きたかった2人が、闇組織に依頼して毒蛇を入手し、君を襲わせた。あの毒蛇はね、ヴェズリーと言う花を好むんだ。そのヴェズリーと呼ばれる花のエキスを君の足にそれとなく吹きかけておいた。そして、サリー嬢が蛇が出たと大騒ぎした隙に、メイドに扮した闇組織の人間が、毒蛇を放ったんだ」
サフィール殿下が経緯を説明してくれた。やっぱり、あの2人だったのね…昨日お兄様が、私を襲わせた者がいると言っていたのを聞いて、何となくそんな気がしていた。でも、まさか私の命を奪おうとするなんて…
「本来であれば、そのまま毒蛇はどこかに逃げていき、解毒剤を作れないまま君を葬り去るという作戦だった様だ。あの森は、元々毒蛇がいるからね。犯人が蛇では、さすがに裁きようがない。でも、君のメイドが果敢にも蛇を捕まえた。あの蛇は、この国には存在しない珍しい蛇だ。そのため、解毒剤の準備と共に、犯人探しが始まったんだ。闇の組織の人間も、蛇を入れていたケースや花のエキスを、すぐに処分する事が出来なくてね。そのまま御用となったんだ」
「そうでしたか。シャティのお手柄だったのね」
側に控えていたシャティを見つめる。すると少し恥ずかしそうに、視線をそらしてしまった。どうやら照れている様だ。
「とにかく、命が無事でよかったよ。それで、足の調子はどうなんだい?」
「全く動きません…これからリハビリを行いますが、完全に元通りになる可能性は、極めて低いとの事です…」
きっとリハビリを続けても、普通に歩ける様になる可能性は低いだろう。それが意味する事を、きっと2人にもわかっているはず。
「セイラ、本当に僕のせいですまない。あの2人を婚約者候補になんてしたばかりに、君をこんな目に合わせてしまった。だからこれは僕の責任だ。君は僕が生涯面倒を見るから、安心して欲しい」
面倒を見る…か…
あのライムが責任を感じるなんて…
「ライム殿下、君に面倒を見てもらう必要はない。セイラ、たとえ足が不自由になっても、セイラはセイラだ。僕はどんなセイラでも大好きだよ」
そう言うと、それはそれは優しい微笑を向けてくれたサフィール殿下。私は私か…
「2人とも、ありがとうございます。とにかく、私はこれから、出来る事をしていこうと思っていますわ」
まずはリハビリをして、歩ける様にならないとね。
「セイラは強いね。僕にも手伝えることがあったら、何でも言ってね」
「ありがとうございます、サフィール殿下」
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