第25話 セイラを振り向かせたい~ライム視点~

入学式前日、新入生代表として学院へと向かう。そこには、生徒会長でもあるジャックの姿も。


「殿下、少しお疲れの様ですが、大丈夫ですか?」


心配そうに僕に話かけてくれたジャック。同じ兄妹なのに、どうしてこうも性格が違うのだろう。セイラもジャックくらい気遣いが出来る令嬢だったら、僕もこんなに苦労しなかったのに…


「ああ、大丈夫だよ。それで、明日セイラは来るのかい?」


「さあ、どうでしょう。今セイラはそれどころではないので…」


そう言葉を濁すジャック。そう言えば、最近セイラ名義で孤児院などを支援する協会を立ち上げたと聞いた。ジャックが色々と動いていた様だから、少しでも妹の名誉を回復させるために、動いているのだろう。


でもジャックの様子だと、セイラはきっと明日は来ない。そう確信した。


そして迎えた入学式。

一足先に壇上に登り、式が始まるのを待つ。ふと新入生に目をやると、銀色の髪をハーフアップに束ねた、美しい女性と目が合った。あれは…間違いない、セイラだ。目が合った瞬間、それはそれは美しい顔でほほ笑んだのだ。


その顔は、まるで童話に出てくる女神様の様だった。一気に心臓の音がうるさくなる。誰だよ、見るも無残な姿になったなんて大ウソを付いたのは。明らかに美しさに磨きがかかっているではないか。


それに、昔の様な威圧的な雰囲気はすっかり消えている。まさに僕の理想の女性だ。あまりの動揺に、どうやって新入生代表の挨拶をしたのか正直覚えていない。


とにかく、セイラと話がしたい。そんな思いから、急いで教室へと向かう。教室に入った途端


「ライム様ぁ~、同じクラスですわね。嬉しいわ」


僕の腕に絡みついてくるのは、サリー嬢だ。


「ちょっとサリー様、ライム様は私の婚約者ですのよ。気軽に触らないで頂けるかしら?」


フェミナ嬢がすかさず反対の腕を取る。ここでも無駄に火花を散らす2人。もう本当にいい加減にしてほしい。その時だった。周りが急にざわめきだしたのだ。


ふと教室の入り口を見ると、そこにはセイラの姿が。やっぱり美しいな…腕にくっ付ている2人を振りほどくと、セイラに話しかけた。すると


「ライム殿下、お久しぶりですわ。殿下には以前、不愉快な思いをさせてしまい、申し訳ございません」


そう言って深々と頭を下げたのだ。そのしぐさがとても美しく、つい彼女に釘付けになる。そんな事は気にしなくてもいいよ!そう言おうとした時だった。


なんとサリー嬢とフェミナ嬢が、セイラに酷い事を言い始めたのだ。それにしても、セイラが孤児院などを支援する協会を立ち上げたと言う話は本当だったのか。でも、今のセイラなら不思議ではない。


それなのに、さらにセイラをバカにする2人。でも、僕には2人に言い返す勇気がない。どうしよう…その時だった。


ジャックが教室にやって来て、セイラを庇ったのだ。よく考えてみれば、貴族界で絶大な権力を持つミューディレス公爵家の兄妹を敵に回したらどうなるか、容易に想像がつくはずなのに…


この出来事がきっかけで、一気に僕の婚約者候補たちは、一旦白紙に戻った。それと同時に、僕の婚約者はセイラしかいない、そう確信した。ただ、ミューディレス公爵は未だに怒っており、たとえ僕がセイラと婚約したいと言ったところで、首を縦に振る事はないだろう。


とにかくセイラに振り向いてもらわないと。その日から、なんとかセイラに振り向いてほしくて、彼女のそばに出来るだけ居る様にした。横から奪われない様に、セイラはいずれ僕の婚約者になる人だと、貴族たちに圧力も掛けたのだ。


さらにセイラと婚約したいと母上に伝えると、両手を上げて喜んでいた。


「ライム、セイラちゃんと婚約できる様、私も出来る事は何でもするわ。早速夫人をお茶に誘わないとね」


そう言ってかなり張り切っていた。でも、やはりミューディレス公爵と夫人の意思は固い様で、やんわりと断られたとの事。


こうなったら、本人に直接気持ちを伝えよう。そう思い、セイラが孤児院に行くと言うので、ついていった。正直孤児院なんて興味がないが、セイラが行くなら行ってもいいかなっと思ったのだ。


孤児院は予想以上に汚くてボロボロで、1秒でも居たくなかった。それなのにセイラは、薄汚れた子供たちと楽しそうに遊んでいる。その姿は、まるで聖母の様だ。やっぱり僕にはセイラしかいない。そう確信した。


そして帰りの馬車の中で、セイラにプロポーズした。でも…


「わ…私はもっとしっかりした人が好きなのですわ。そもそもあなたは、私と結婚するくらいなら、平民になると高々に宣言していたではありませんか。申し訳ございませんが、私はあなたの様な頼りない人間とは婚約できません。あなたと婚約するくらいなら、平民と婚約いたしますわ」


そう言ったのだ。正直物凄くショックだった。でも、きっとセイラは僕が12歳の誕生日の時に言った言葉を未だに気にしているのだろう。現に、明らかに動揺していた。


よし、まだ時間はある。これから時間をかけて、ゆっくりとセイラに振り向いてもらおう。僕にはもう、セイラとの結婚しか考えられないのだから。

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