第26話 留学生がやって来ました

「セイラ、聞いた?明日から留学生が来るんだって」


貴族学院に入学して早半年、すっかり学院にも慣れた。そして相変わらず馴れ馴れしいライムはうっとうしいが、それでも友人たちと楽しく過ごしている。今日も令嬢や令息(ライム含む)たちと一緒に昼食を食べている。


「留学生?こんな中途半端な時期に珍しいわね」


「そうよね。殿下ならもっと詳しく知っているのではないかしら?」


ふと私の隣に座って食事をしていたライムに皆が注目した。


「ああ、実はクレーション王国の王太子殿下が、どうしても我が国に留学に来たいと言う話になって。それで明日から半年間、留学する事になったんだ。既に昨日我が国に入国して、今王宮にいるよ」


「クレーション王国といえば、セイラが留学していた国よね。まさかセイラ、クレーション王国の王太子殿下とお友達になって、セイラを追って来たとか?」


何を思ったのか、あり得ない事を言い出したのは友人のアイリだ。


「そうなのか?セイラ」


そんなアイリの言葉を聞き、ライムが物凄い勢いで詰め寄って来た。


「確かに私はクレーション王国に行っておりましたが、王太子殿下にお会いした事どころか、拝見したこともお名前も知りませんわ」


ずっと修道院で生活していたのだから…


「それは本当か!」


「ええ、本当ですわ。そもそも私と知り合いなら、わざわざ留学なんて面倒な事をせず、直接連絡をしてくると思いますし…」


「確かにそうよね。でも、クレーション王国と言えば大国でしょう。そんな国の王太子殿下が来るなんて、一体どうしたのかしら?」


「父上の話では、色々な国を見てみたいとの事だよ。でも、わざわざ他国に留学するなんて、物好きな王太子だよね」


そう言って再び食事を始めたライム。あなたこそ、他国の荒波に揉まれてきなさいよ!そう言いたいが、もちろん我慢した。


とにかく明日から、隣国の王太子殿下が来るのね。あの国の孤児院や修道院も随分とよくなったとは言え、まだまだだ。この際だから、仲良くなって現状を訴えるのもいいかもしれない。


そして翌日

お兄様と一緒に馬車に乗り込み、学院を目指す。


「セイラ、今日はお前のクラスに、隣国の王太子殿下が来ることになっている。まあ、今のお前なら問題ないと思うが、くれぐれも無礼を働くなよ」


早速私にくぎを刺すお兄様。無礼か…もしかして、クレーション王国の修道院や孤児院の現状を伝えるのも、無礼になるのかしら?とにかく、どんなお方が見極めてからの方がよさそうね。


いつもの様に教室へと向かう。しばらくすると、先生がやって来た。


「皆さん、既にご存じかとは思いますが、本日留学生がやって来ました。さあ、中に入ってください」


先生に促され教室に入って来たのは、美しい金色の髪に、青い瞳をした男性だ。んん?この人、どこかで見た事がある様な…


「初めまして、クレーション王国から参りました、サフィール・ファズ・クレーションです。どうぞよろしくお願いいたします」


この声、やっぱり聞き覚えがある…でも…まさかね…

そう思っていたのだが…


「それではサフィール殿下の席は…」


「セイラ、久しぶりだね。会いたかった!君を探し出すのに随分と苦労したよ。そのブレスレット、ずっと身に付けていてくれたんだね。嬉しいよ」


何を思ったのか、私の元にやって来てそう言った殿下。もしかして…


「あなた様は、サフィさんですか?」


クレーション王国の修道院でお世話になっていた時、よく遊びに来てくれたサフィさん。髪の色は違うが、彼によく似ているのだ。


「ああ、そうだよ。正体を隠していてすまない。でも君も、公爵令嬢と言う身分を隠していたのだから、お互い様だよね」


そう言ってほほ笑んだサフィさん…いや、サフィール殿下。その腕には、街に出かけた時に買ってもらったお揃いのブレスレットが付いていた。


よく考えてみれば、サフィール殿下が私たちの元に訪れるようになってから、国から支給されるお金も増えた。そうか、サフィール殿下が動いてくれていたからなのね。


それにしても王太子と言う身分を隠して、修道院や孤児院を回っていたなんて、ライムにも見習ってほしいものだわ…


「サフィール殿下とセイラ嬢はお知り合いの様ですね。それなら、セイラ嬢の隣の席にいたしましょう。その方が、サフィール殿下も安心でしょう」


そう言うと、早速席替えが始まった。と言っても、隣の席の子が後ろに移動しただけだけれどね。


もう二度と会えないと思っていたお友達と、こんな形で再開できるなんて。それもまさか隣国の王太子だなんて。人生何が起こるかわからないものね。

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