第27話 面倒な事になってきました

授業が終わった後、私たちの周りに皆が集まって来た。


「セイラ、一体どういう事だい?君は昨日、サフィール殿下の事を知らないと言っていたではないか!」


物凄い勢いで私に詰め寄って来たのはライムだ。


「ええ…確かに私は、今の今までクレーション王国の王太子殿下を存じ上げませんでしたわ。ただ…」


「ただ何だっていうんだ!」


一体何なのよ、こいつ。別に私がサフィール殿下と知り合いでも何でもいいじゃない…


「ライム殿下、セイラが怯えている。僕から話をしよう。僕はずっと正体を隠して、セイラが暮らしていた修道院に通っていたんだよ」


「「「「修道院?」」」」


皆が目を大きく見開いて固まっている。あぁ~あ、バレちゃった。まあいいか。


「はい、私は己の性格を改善するため、兄の勧めでクレーション王国の修道院に1年間お世話になっていたのです。その時、サフィール殿下とお会いしました。まさか、サフィさんが王太子殿下だなんて、夢にも思いませんでしたが…」


確かに身なりが物凄く綺麗だった。だから貴族の出だろうとは思っていたのだが…


「僕は国王になるために、自国の状況を把握したくて修道院や孤児院を回っていたんだ。正体を明かすと、真の姿が見られないと思って、変装していたんだよ。君はあの修道院で異質な輝きを放っていたからね。それに、1人のシスターから“お嬢様”と呼ばれていたから、平民ではないのだろうと思っていた。まさか、隣国の公爵令嬢とは思わなかったよ」


異質な輝きって…そんなもの放っていなかったと思うのだけれど。あそこではみんなベールを被っていた。確かにシスターの中ではかなり若い方だったから、目立っていたと言えば目立っていたけれど…


「なるほど。だからセイラは1年以上もの間、全く社交界に姿を現さなかったのね。それにしても、公爵令嬢と言う高貴な身分でありながら、よく修道院へ行こうと思ったわね。そもそも、あなたのご両親が賛成するとは思えないわ」


「そうね、だから両親には、クレーション王国に留学すると言っておいたの。もし修道院に行くなんて言ったら、寝込んでしまうもの。皆、お願い。両親には私が修道院に行っていた事は、内緒にしてほしいの。過ぎた事とは言え、きっと倒れてしまうわ」


「ええ、もちろんよ。セイラは修道院で暮らしていたから、孤児院などを支援する協会を立ち上げたのね。なんだか全てが繋がったわ」


「そうよ、私はあの1年で、いかに自分が恵まれているか、そしていかに子供たちが大変な思いをしているか身をもって感じたの。だからこそ公爵令嬢に戻った時に、私にできる事がしたいと思った。兄も私の考えに賛同して、色々と動いてくれたしね」


お兄様のお陰で、協会を立ち上げる事が出来たと言っても過言ではない。その点は物凄く感謝している。


「なるほど、セイラはこの国でも、子供たちの為に行動を起こしていたんだね。さすが僕が見初めただけの事はある」


ん?見初めた?なんだかそんな言葉がサフィール殿下の口から聞こえて来たが、きっと気のせいだろう。


「セイラ、君を探すのは本当に大変だった。君の手掛かりがほとんどなかったからね。そのせいで、半年近くかかってしまったよ。でも、やっとセイラを見つける事が出来た。半年間、よろしくね。僕の可愛いセイラ」


まさか私に会う為に、ここまで来たのかしら…嘘よね…いくら何でも、そこまではしないわよね。サフィール殿下の言葉を聞き、完全にパニックになる。


「サフィール殿下、もしかしてセイラに会う為に、わざわざ留学してきたのかい?」


動揺している私の代わりに、ライムがサフィール殿下に確認している。


「ああ、そうだよ」


さらりとそう言ったサフィール殿下。


「サフィール殿下、セイラは僕と婚約する予定になっているんだ。だから、セイラに変な気を起こすのは止めてくれるかい?」


「ライム殿下、私はあなたと婚約する事はありませんと、何度言ったらわかるのですか。そもそも、私と婚約したくないと泣いて訴えたのは、あなたの方でしょう?」


すかさずライム殿下に反論した。


「あの時は子供だったんだ。いつまであの時の事を根に持っているつもりだ」


いつまで根に持っているですって!あなたのあの言葉のせいで、私がどれほど辛い日々を送っていたか、全くわかっていないのね。そもそも、渾身のギャフン大作戦までかわしたくせに。


これはさすがに文句を言わないと。そう思った時だった。


「要するに、ライム殿下の一方的な片思いってやつだね。それじゃあ、僕がセイラにプロポーズしても問題ない訳だ。でも、今はまだしないよ。今しても、きっと断られそうだからね。僕は権力を使って君を手に入れるつもりはないから」


そう言うと、にっこり笑ったサフィール殿下。


「僕だって、権力で無理やり婚約者にするつもりはない」


なぜかサフィール殿下に張り合うライム。何だこの展開は…

サフィール殿下と再会できて喜んだのも束の間、なんだか面倒な事になって来た…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る