第14話 休んでいる暇なんてありません

翌日、とても立派なドレスに着替えさせられ、これでもかと言うくらい豪華な朝食が並ぶ。修道院ではパンとスープを食べていたので、朝からこんなにも沢山のご馳走なんて食べられない。


「シャティ、さすがにこの量は食べられないわ。公爵家に帰ってからも、パンとスープで十分だから、料理長にはそう伝えておいて」


「わかりました。でも、旦那様と奥様がなんとおっしゃいますか…」


「お父様とお母様は、私がする事には基本的に反対しないから大丈夫よ。さあ、そろそろ出発しましょう」


ホテルを出ると、立派な馬車が停まっていた。これは、公爵家の馬車ね…そうか、帰りはこれで帰るのよね。なんだかまだ公爵令嬢のセイラに慣れない。それでも、これからは慣れていく必要があるのだろう。


貴族学院に入学した際、完璧な令嬢として振舞う為に、戸惑ってばかりもいられない。早く公爵令嬢の生活習慣に慣れないといけないのだ。


背筋をピンと伸ばし、馬車に乗る。と言っても、修道院でもある程度礼儀作法にうるさかった。その為、一般的なマナーは問題ないだろう。後は1年近くやってこなかったダンスの練習と、勉強の方も頑張らないと。一応修道院でもシャティが色々と勉強を教えてくれたけれど、思う様にできなかったものね。


しばらく走ると、懐かしい街並みが見えて来た。ミュンジャス王国の王都だ。こうやってゆっくり街を見ると、沢山の人たちが暮らしている。あっ、あれは孤児院っぽいわね。小さな子供たちが、洗濯物を干すのを手伝っている。


あっちは修道院かしら?つい目が行くのは、孤児院や修道院などだ。この国に住んでいた時は、視界にすら入らなかったのに…


「お嬢様、孤児院が気になりますか?」


「当たり前よ。見て、あんなにやせ細っているわ。きちんと食事を摂っているのかしら?あの子、キサリーによく似ているわ。キサリー、今頃私がいなくて泣いていないかしら?」


思い出すのは、子供たちの事ばかり。ふと腕に付いているブレスレットが目に入った。サフィさんも、元気にしているかしら…


彼の事を思い出す。もう二度と会う事もない、大切な友達。サフィさん、最後の日は会いに来てくれなかったな…もしかしたら、急にお別れを言ったから怒っていたのかしら…ついついそんな事を考えていると


「お嬢様、お屋敷に到着いたしました」


気が付くと、懐かしい我が家が。馬車を降りると


「あぁ、私の可愛いセイラ、おかえり」


「セイラ、あなた随分とやつれてしまったのではなくって?慣れない異国で苦労したのね。可哀そうに!」


両親がギューギュー私を抱きしめる。私も久しぶりに両親に会えて嬉しくて、2人に抱き着いた。


「お父様、お母様、ただいま帰りました。この1年、とっても有意義な時間を過ごせました」


きっと公爵令嬢としてこの家で暮らしていたら、一生知らない世界を体験出来た。いかに自分が恵まれた世界で生きて来たのかも、嫌と言うほど身に染みた。今までただ何となく生きていたが、今はやりたい事、目標が見つかった。それに向かって、突き進むだけだ。もちろん、ライムをギャフンと言わせることも忘れてはいない。


「そう、それなら良かったわ。さあ、疲れたでしょう?中でゆっくり休みなさい」


両親と一緒に家の中に入った。そこには、一足先に帰ったお兄様の姿が。


「お兄様、ただいま帰りました。お兄様のお陰で、有意義な1年を過ごせましたわ。ありがとうございます。例の件、お願いしますね」


「ああ、任せておけ。それで早速なんだか、一緒に出掛けないか?」


一緒に出掛ける?


「ジャック、セイラは今帰って来たばかりで疲れているのよ。だから…」


「お母様、大丈夫ですわ。お兄様、一緒に参ります。着替えてきますので、少しお待ちください」


きっとこの国の孤児院に行くのだろう。そんな気がした。自分の部屋に戻ると、すぐにワンピースに着替える。ふとクローゼット見ると、ド派手なドレスが並んでいた。よくもまあこんなドレスを着ていたものね…


「シャティ、このドレス、もうサイズアウトしているはずだから、全て売り払って。そのお金は、今度私が立ち上げる協会の資金にするから」


既に着られそうにないドレスたちを、シャティに渡した。そして、急いでお兄様の待つ馬車へと乗り込む。向かった先は、やっぱり孤児院だ。


「まあ、ミューディレス公爵令息様、よくらっしゃってくださいました。お隣の方は?」


「妹のセイラです。実は、妹が孤児院や修道院への援助を行うための、協会を立ち上げる事になりました。それで、実際この国の状況を確認したいと申しまして、連れて参りました」


「セイラ・ミューディレスです。どうぞよろしくお願いします。早速子供たちに会わせていただいても宜しいですか?」


「まあ、ミューディレス公爵令嬢様まで。ありがとうございます。あちらに居りますので、どうか見て行ってやってください」


早速子供たちがいる部屋へと向かう。私たちを見るなり、固まっている子供たち。私がお世話になっていたところの子供たちは、もっと人懐っこかったが。向こうが来ないなら、こっちから行くまでね。


「皆、こっちにいらっしゃい。ご本を読んであげるわよ」


近くにあった1冊の本を手に取り、その場に座る。恐る恐るこっちに来る子供たち。早速本を読み始める。1冊読み終わったが、まだ距離がある。う~ん、やっぱり公爵令嬢だと警戒されているのかしら?その時だった。


「おじょうさま、このごほんもよんでください」


4歳くらいの小さな子が、恐る恐る本をもってやって来たのだ。


「いいわよ。さあ、お膝にいらっしゃい。それから、私の事はセイラお姉ちゃんって呼んでね」


女の子を膝に乗せ、早速本を読む。すると、慣れて来たのか次から次へと本を持ってくる子供たち。帰るころにはすっかり打ち解けてくれた。


「せいらおねえちゃん、またきてね」


そう言って笑顔で手を振ってくれた。やっぱり子供たちは可愛いわ。この子たちの為にも、何とかしたい。馬車に揺られながら改めてそう思った。


「セイラ、お前は本当に変わったな。協会の話、出来るだけ早く進めよう」


そう言って笑ったお兄様。意地悪だと思っていたお兄様だけれど、実は私よりずっと前から、孤児院や修道院の生活に目を向けていたのね。ちょっとだけ見直した。


さあ、明日から忙しくなりそうね。

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