第15話 社交界の話題の的になっていました

公爵家に帰って来た翌日からは、マナーやダンスレッスン開始だ。とにかく、貴族学院入学まで時間がない。朝から晩まで、レッスンをする。正直修道院での生活も、朝から晩までほぼ働きづめだったから、それほど苦にはならない。


さらに時間を見つけては、色々な孤児院を訪問する。やはり公爵令嬢として行くと、子供たちも恐縮してしまうため、身分を隠して行くことにした。そうすることで、子供たちとも仲良くなれるのだ。


全てが順調に進んでいたのだが、ただ1つ問題が発生した。それは両親だ。今までの私と性格が180度変わってしまった事で困惑し、何か変な病気にでもかかったのではないかと、医者を呼ぶ始末。


私は病気ではない、異国での生活で考え方が変わっただけと何度も何度も根気強く話をして、何とか理解してもらえた。そんな日々を過ごしているうちに、あっという間に1ヶ月が過ぎ、いよいよ明日は貴族学院入学の日だ。


いつもの様にホールでダンスレッスンに励んでいると、何を思ったのか、お兄様が練習相手になってくれた。


「お兄様が練習相手になってくださるなんて」


「お前は常に忙しそうだからな。ダンスをしながらなら、ゆっくり話が出来るのではないかと思って。それにしてもお前、随分とダンスの腕を上げたな。物凄く踊りやすい」


「ありがとうございます、1年間の修道院生活で、かなり体力が向上しましたので。多少のダンスでしたら、ずっと踊っていられるくらいですわ」


「そうか。やっぱり修道院に行かせて正解だったな。そうそう、お前が立ち上げた協会なのだが、やはりミューディレス公爵令嬢が立ち上げたとあり、続々と他の貴族から基金が集まっているぞ。今や社交界はお前の噂で持ち切りだ」


ニヤリと笑ったお兄様。この笑顔、物凄く悪い顔に見えるのだが…


「どういった噂ですか?」


「約1年半前の王太子殿下の誕生日パーティーで、王太子から拒絶されすっかり雲隠れしたお前が、自暴自棄になり暴飲暴食して、見るも無残な姿になっているとか。精神的に病んでしまい、領地で療養しているとか。そんな娘の状況をごまかすため、両親がお前の名前で協会を立ち上げ、お前の名誉回復に努めているとかな」


「何ですの、その失礼な噂は!事実無根にも程がありますわ!」


私がどんな思いで頑張って来たと思っているのかしら?本当に失礼しちゃうわ。


「そう怒るな、いいじゃないか。評価が低いほど、お前の今の姿を見た者たちは目が飛び出るのではないかと言うほど驚くだろう。明日の入学式の主役はお前だ。社交界では、お前が明日姿を現すかどうか、話題になっているぞ。今のお前は外見だけでなく、中身も美しい。さすが俺の妹だ。胸を張って明日入学式に向かえ。そして、あの王太子殿下をギャフント言わせてやれ」


そう言って私の頭を撫でたお兄様。まさか、お兄様からそんな優しい言葉をかけられるなんて思わなかった。でも確かに評価が低ければ低いほど、話題に上れば上るほど、私への今後の評価も上がるかもしれない。


それに、あのライムの驚く顔を見るのも楽しみだわ。


「ねえ、お兄様。その変な噂を流したの、まさかお兄様ではないでしょうね」


何となくポツリと呟いた。


「ああ、そうだ、よくわかったな」


やっぱり…お兄様ならやりそうな気がしたのよね。ジト目でお兄様を睨む。


「おい、そんな目で俺を見るな。俺はやるなら徹底的にやった方がいいと思ったんだ。それにそんなバカげた噂も、明日になれば吹き飛ぶのだから別にいいだろう。そうそう、俺も明日、生徒会長として入学式に出席するからな。お前の姿を見た貴族どもの驚く顔を見るのが今から楽しみだ」


そう言うと、悪い顔で笑ったお兄様。絶対この人、私で楽しんでいるわね。


貴族学院は、4年間通う事になっている。私が入学するときには、お兄様は最終学年の4年生。ただ家庭の事情によって、1年ごとに卒業する事が出来る様になっている。


「そうそう、言い忘れていたが、今王太子殿下の婚約者候補だが、お前や王太子殿下と同い年の侯爵令嬢、サリー嬢、フェミナ嬢、さらに1つ年上の伯爵令嬢、ルイーダ嬢の3人だ。お前もきっと巻き込まれるだろうから、覚えておくといい。まあ、3人ともお前には逆らってはこないだろうがな」


なるほど、ライムをギャフンと言わせるためには、その3人にも絡まれる可能性があるのね。正直3人ともどんな子だったか、あまり覚えていない。私ってよく考えたら、友達と呼べる人があまりいなかったのよね…


「とにかく、お前もある程度の情報は入れておいた方がいいだろう。それじゃあ、俺はもう行くから」


そう言うと、ホールから去っていくお兄様。て、ダンスの途中なんだけれど!もう、自分勝手なんだから。


まあ、3人がどんな戦いを繰り広げていようが、私には関係ない。私はただ、ライムをギャフンと言わせたいだけなのだから。

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