第3話 性格を変えるのは難しいです

「いいですか、お嬢様。怒りがこみ上げてきた時は、とにかく深呼吸をしてみてください。それから、相手の立場になって物事を考える事も大切です。例えば、私がお嬢様のドレスを汚したとしましょう。そうしたらどうですか?」


「そりゃ怒るわよ。私の私物を汚したのだからね」


「では、お嬢様が私のお洋服にお茶をかけるのはどうですか?」


「それは…」


以前シャティが、私のドレスにお茶をこぼしてしまった事があった。その時、怒りからシャティに紅茶の入ったコップをぶつけたのよね。あの事を言っているのか…


「でもあれはあなたが悪いわよ。だって、私のドレスにお茶をこぼしたのだから」


「そうですか。では逆にお嬢様が手を滑らせてお茶を落とし、それが私にかかった。それに対して私がお嬢様にお茶をぶつけたらどうですか?」


「そんなの、腹が立つに決まっているわ。だってわざとではないのだから。そもそも、主人でもある私にお茶を故意にかけるなんておかしいでしょう?」


「それです、その考えがダメなのです。確かにお嬢様は公爵令嬢、私はメイド。身分が違います。でも、お優しい方は誰にでも自分と同じ1人の人間として考えているのです。自分がされて嫌な事はしない。これが鉄則です。いいですか、お嬢様は王太子殿下を見返したいのですよね。それでしたら、まずは根本的な考えから変えないといけないのです!」


なるほど、私の考えが間違っていると言うのね。


「たとえ平民であっても、奴隷であっても同じ人間。もちろん、動物たちも大切な命です。自分が嫌だという事は他人にしない。いいですね」


「わかったわ。でも、私に出来るかしら?」


「出来なければ、王太子殿下を見返すなんて夢物語ですね。諦めて、今まで通りにお過ごしください」


そう言うと、部屋から出て行こうとするシャティ。


「待って、シャティ。わかったわ、私、やってみる!」


出来る気がしないが、やらないとあのライムをギャフンと言わせられないのよね。だったら、頑張るのみよ!


「それでは、早速今から練習をしていきましょう。お嬢様、喉が渇いたでしょう?まずは紅茶を準備しますね」


確かに喉が渇いたわね。と、次の瞬間、私の膝に紅茶をぶちまけるシャティ。


「熱い!何するのよ!」


怒りからシャティに文句を言おうとすると、すかさず鏡を見せて来た。


「お嬢様、顔が鬼の様です。いいですか?許すことも大切と最初に教えたはずです。お嬢様はすぐに感情的になりすぎです。第一、ぬるめの紅茶だったのですよ。熱い訳ないでしょう」


なぜか逆に怒られてしまった。なんだか物凄く腑に落ちない。でも…これもライムを見返すため、やるしかない。


「怒ってごめんなさい…」


「それでいいのです。それから、何かをしてもらったらお礼を言うのも忘れないでくださいね。さあ、ドレスが汚れてしまいましたね。お着替えをしましょう」


シャティに連れられ、着替えを済ます。


「それにしても、凄いドレスの数ですね。こんなにもドレスは必要ですか?この中にどれほど着ていないドレスがあるのですか?いいですか、無駄遣いもよくありません。令嬢の価値はドレスや宝石の数で決まる訳ではありません。内面からにじみ出る美しさで決まるのですよ」


なぜかブツブツと文句を言っているシャティ。シャティって、こんなに口うるさいタイプだったかしら?


「聞いているのですか?お嬢様」


「わかったわよ。出来るだけ無駄使いもしないわ」


「それでいいのです。それから、勉学やマナーもしっかり学んでください。早速今から先生を呼んで、レッスンをしてもらいましょう」


「嫌よ、私、マナーとか勉強って嫌い…」


「それでは、王太子殿下を見返す事なんてできませんよ!それでもいいのですか?」


う…それは嫌だ。


「わかったわよ、今から勉強をするわ」


今までさんざん我が儘を言って、レッスンを逃げて来た。でも、これからは頑張らないと。


その後、鬼と化したシャティ監視の元、何とか性格改善を行った。でも、やっぱり中々うまく行かず、つい怒鳴っては、そのたびにシャティに鏡を突きつけられる日々。他のメイドにもシャティから話を聞いた様で、私が怒るたびに鏡を突き付けられるようになった。


この子たち、今までさんざん私が酷い事をしてきたから、復讐しているのではないかしら?そう思い、メイドたちに聞いたが


「「「お嬢様の為を思ってやっているのです」」」


と、声をそろえて言われた。さらに毎日マナーやダンスのレッスン、勉強なども今まで以上に詰め込まれた。正直何度もくじけそうになった事もあったが、ライムを見返すと言う気持ちだけで何とか乗り切る。


そんな私を見て両親から


「セイラは随分と色々と頑張っているのだね。そうだ、ご褒美に欲しい物を何でも買ってあげよう」


という、嬉しい言葉を貰った。でもシャティが目で、“お嬢様、無駄使いはダメです”そう訴えている気がして、泣く泣く断った。


それもこれも、ライムを見返すためだ。ライムめ!絶対にギャフンと言わせてやるんだから!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る