第2話 まずは許すことから始めましょう
「お嬢様…殿下をギャフンと言わせたいと言う発想がまず良くないのでは…まあいいですわ。何か目標があった方が、やる気が出ると言うものでしょう。そうそう、旦那様を始め、王宮の使用人たちも血眼になってお嬢様を探しています。皆様の元に戻りましょう」
「もしかして、お父様が王妃様やライムに文句を言ったのかしら?」
「ええ…ライム殿下に対し”娘に謝れ!“と迫っておりましたわ」
「やっぱり…でも、当然よね。だって、私を傷つけたのだから」
「お嬢様!その発想がいけないのです。いいですか、ここはライム殿下を許し、旦那様をなだめる事が大切です。いいですね、ライム殿下を責めてはいけません」
「なるほど、分かったわ。とにかく、やってみる」
本当はライムに文句を言いたいが、それはダメらしい。とにかく、許すという事が大切との事。
シャティに連れられ、お父様の元に向かう。部屋の外側まで、お父様の怒鳴り声が聞こえてきていた。そっと部屋を覗くと、鬼の様な顔で怒鳴り散らしていた。
「お嬢様、よく見て下さい。あなた様もあの様なお顔でよく怒鳴っていらっしゃいますわ。どうですか?あのお顔を見て」
「正直に言うと、醜いわね…それに、なんだか大人げないわ…」
さっき使用人たちが、私が怒鳴っている顔が醜いと言っていた意味が何となく分かった気がする。元々美しい顔をしているお父様の顔も、はっきり言って醜い…そうか、怒鳴るとあんなにも醜い顔になるのね…
「とにかく中に入りましょう」
シャティに連れられ、部屋の中に入って行く。
「セイラ、よかった。無事だったんだな」
私の顔を見るや否や、思いっきり抱きついてきた。奥では気まずそうな陛下と王妃様、さらに怯えたライムの姿もある。ライムの顔を見たら、怒りがこみ上げてきた。ダメよ、ここで怒ったら。チラリとシャティの顔を見る。
「お父様、大きな声で怒鳴り散らして、外まで丸聞こえよ。ライム、あなたの大切な誕生日に問題を起こしてごめんなさいね。ちょっと体調が悪いから、今日は帰るわ。お父様、とにかく今日は帰りましょう」
陛下や王妃様、ライムにぺこりと頭を下げ、お父様の腕を掴んだ。
「セイラ、どうしてお前が謝るんだ。とにかく、今回の件は…」
「お父様、もういいの。とにかく、今日は帰りましょう」
まだ不満顔のお父様の腕を引っ張り、何とかその場を後にする。本当は文句の1つでも言ってやりたいが、必死に耐えた。それどころか、謝罪までしてやったのだ。
お父様と一緒に馬車に乗り込む。
「私の可愛いセイラ。きっととても傷ついた事だろう。あの王太子だけは、絶対に許さない!」
「お父様、落ち着いて。とにかく、ライムが私と結婚したくないと言っている以上、私も無理やりライムと婚約をするつもりはないの。それに、もっと素敵な人がいるかもしれないし。今回の件は、不問でお願いしたいわ」
とにかく、ライムにはギャフンと言わせてやりたい。その為には、これ以上お父様に暴走されては困るのだ。
「あぁ、セイラ。なんて優しいんだ。あんなひどい事を言われたのに、あの王太子を許すと言うのか。セイラがそう言うなら、これ以上私も王家に抗議をする事は止めておこう。そうだな、セイラならあんな見る目のない王太子より、もっと素敵な殿方がきっといるはずだ。お父様が必ず素敵な殿方を見つけてやるからな」
「大丈夫よ、お父様。自分で何とかするから」
とにかくお父様がこれ以上王族に文句をいう事はなさそうだ。
家に帰ると、お母様がやって来た。
「あなた、それにセイラも。随分と帰ってくるのが早かったのね」
「それが色々あってな」
お父様がお母様に今日の出来事を報告した。
「まあ、何て王太子なの?それであなた、もちろん抗議したのでしょうね?」
お母様まで怖い顔をして怒り狂っている。私によく似ているお母様、あまり怒る事がないのだが…怒った顔は醜いわね。やっぱり怒ると顔が醜くなるのか…私、皆にあんなにも醜い顔を見せていたなんて、なんだか恥ずかしい。
「母上、王太子殿下は悪くないよ。セイラはちょっと我が儘すぎるんだ」
やって来たのはお兄様だ。私には3歳年上のお兄様がいる。お兄様は私にも厳しく、小言も多いため苦手だ。
「ジャック、またあなたは!妹のセイラが悪く言われたのよ。妹が可愛くはないの?」
「可愛いからこそ、俺は言いたくもない事を言うんだ。セイラ、お前は少し我が儘すぎる。いいか、少しは相手の気持ちを考える事を覚えろ。今回、間違っても王太子殿下を責めるなよ。すべてお前に原因があるのだから」
相変わらずムカつくお兄様ね。一言文句を言ってやろうと思った時だった。
コホン
シャティの咳払いが聞こえる。きっとここも我慢して許せという事なのね。でも!!必死に深呼吸をする。そして
「お兄様の言う通りよ。私が…今まで我が儘すぎたの…とにかく、この話は終わりにしましょう」
そう伝え、急いで部屋に戻る。部屋に戻った途端
「何なのよ!お兄様はいっつも意地悪ばかり言うんだから!!」
怒りからクッションをバシバシ叩く。
すると私に鏡を向けたシャティ。う…醜い顔…
鏡に映った私の顔は、怒りから真っ赤になり、そして歪んでいた。これは酷いわ、こんな醜い顔、人様に見せられない。
「いいですか?お嬢様。あなた様は日々この様なお顔で過ごされていたのです。まずは怒りをコントロールする必要がありますわね」
確かにあんなにも醜い顔をさらしていたと思うと、さすがに恥ずかしい。それに、ライムを見返したいし!これからは完璧な令嬢を目指さないと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。