第17話 初日から疲れました

「あら、セイラ様。1年以上もずっと社交界から姿を消していらしたので、心配しましたわ。でも、殿下に全力で拒否され、婚約者候補からも外れたら、社交界にも恥ずかしくて顔を出せないですわよね」


「本当ですわ。それで、どうやって過ごしていらしたのですか?」


何なの、この子たち。私の方が身分が上なのに!でも、確かに婚約者候補の2人から見たら、候補にも入っていない私には気を使う必要はないという事ね。まあいいわ。


「実はクレーション王国に留学しておりました。そこで、自分がいかに恵まれた世界で生きているかに気が付きましたの。それで、少しでも子供たちの為になにかをしたいと思い、協会を立ち上げたのです。よかったら、サリー様やフェミナ様もご協力をお願いできると嬉しいですわ」


ライムの婚約者候補の彼女たちが協力してくれたら、きっともっと知名度が上がるだろう。そうしたら、他の貴族たちも孤児院の現状に目を向けてくれるかもしれない。そう思ったのだが…


「ごめんなさい。私はそう言うのに興味がないの。ほら、殿下の婚約者候補として、色々とお金がかかるのよね」


「私もよ。セイラ様は自由に生きられて、羨ましいですわ」


何なのよこいつら!体中から怒りがこみ上げてくる。でも、ダメよ。ここで怒っては、昔の私と変わらないわ。


「様子を見に来たら、随分と俺の可愛い妹をコケにしてくれている様だね」


この声は、お兄様?ふと後ろを見ると、やっぱりお兄様だ。


「君たち、何か勘違いしている様だから教えてあげるよ。うちにも王太子殿下の婚約者候補になって欲しいと、王妃様から打診があったんだ。それでも両親は、殿下の言葉を許すことが出来ず、こっちから断った。それから、たとえ君たちが殿下の婚約者候補であったとしても、所詮候補。もし王妃になれなかったとしたら、ただの侯爵令嬢だ。そんな君たちが、俺の大切な妹でもあるセイラに暴言を吐いたことを、絶対に忘れないからな。それからもう一つ、君たちの素行の悪さは王宮内や貴族界でも問題になっている。今回セイラに暴言を吐いた事も、しっかり報告させてもらう。これがきっかけで、一旦王太子殿下の婚約者候補は白紙に戻りそうだな。それじゃあ、俺はもう自分の教室に戻るよ。セイラ、お前は優しくなりすぎた。おかしな事はおかしいと声を上げていいんだ。お前は公爵令嬢なのだからな」


私の頭をポンと叩き、教室を去っていった。お兄様って意外と頼りになるのね。それに比べてライムったら、情けない。


「あの…セイラ。彼女たちがすまなかった。確かに今、婚約者候補を白紙に戻すかどうかの話し合いをしているところだ。だから…その…」


「私は大丈夫ですわ。お気遣いいただき、ありがとうございます。ただ、私たちはもう子供ではありません。婚約者でもない特定の令嬢を呼び捨てにするのは、おやめになった方が宜しいですわよ」


「すまない、これからは気を付けるよ」


なぜか真っ赤な顔をしてモジモジしているライム。そう言えば、ライムは昔から自分の意見をあまり言わないタイプだったわよね。そんなライムが、私とだけは結婚したくないと言ったのだから、よっぽどだったのだろう…


そんな事を考えていると、先生がやって来た。今日は学院内のルールや注意点などを説明され、そのまま解散となった。さあ、帰ろう。そう思った時だった。


「セイラ…嬢。もしよかったら、この後久しぶりに王宮に遊びに来ないかい?母上も君の事をとても心配していてね。元気な姿を見せてあげたら、喜ぶと思うんだ」


何を思ったのか、そんな事を言い出したライム。ここは行った方がいいのかしら?でも、今日は孤児院の子供たちに会いに行きたいし…


「それでしたら、私が参りますわ。王妃様が好きなお茶を準備しましたの」


「あら、それなら私も。王都で人気のお菓子を取り寄せましたのよ」


隣で火花を散らす婚約者候補の2人。これ以上巻き込まれるのは面倒だ。


「殿下、婚約者候補でもあるお2人が王宮に向かうとの事ですので、私は帰りますわ。今日は久しぶりに孤児院の子供たちの様子を見に行きたいので」


「まあ、自ら孤児院なんて小汚いところに行くなんて、セイラ様は物好きね」


孤児院が小汚いだと?これは聞き捨てならないわ。


「サリー様、孤児院は汚くはありません。子供たちは本当に素直でいい子たちばかりですわ。あなたの様な心が汚れている人間には、きっとわからないでしょうけれどね。それでは私は子供たちが待っているので、失礼いたしますわ」


あまりにも腹が立ったので、言い返してやった。後ろでサリー様がギャーギャー騒いでいたが、聞こえないふりをして教室を出る。これではライムをギャフンと言わせられないかしら?でも、子供たちをバカにすることだけは許せなかったのだ。


さあ、早く子供たちの元に行って、癒されないとね。そうだわ、今日は子供たちにお菓子を買っていってあげよう。それにしても貴族学院初日なのに、なんだか疲れた。でも、こんな事で疲れていてはダメよね。


ライムをギャフンと言わせるまでは、頑張らないと!

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